第62話 精霊の王たち
茜がルシファーたちと話を始めたころ蒼は皆から離れた海の見える開けた場所に来ていた。
翼をしまい目を閉じ深呼吸する・・・・そこにいる存在を確認するために。
蒼は再び目を開けて辺りを見渡す。
「精霊王、いるんだよね?」
一歩、また一歩と前に進む、応える者はいない。
また一歩と進み、蒼の足が海に浸かった。
「精霊王。出てきて。」
蒼はどんどんと海の中に進む。
水面が蒼の膝上ぐらいまできた頃、唐突に波が起こり蒼を飲み込んだ。
いくらもがいても、逃れることが出来ない。
死ぬことは無いけれど苦しいのは変わらない。
『力を使って。そうすれば抜けられるよ。』
聞いたことのある懐かしい声に蒼は確信した。
あの時助けてくれたのはこの声の持ち主だと。
「君は僕たちを助けてくれた。だから力は使わない。」
力を使えば、この精霊を倒し、この苦しさからも抜け出せる。
『憶えてくれてたんだね。だったら名前を呼んで。私の唯一の証を。』
「忘れないよ。・・・ウンディーネ。」
蒼が名前を呼ぶと嬉しそうな声が返ってきた。
この名前は人間界で覚えた数少ない名前の一つだ。
今よりも幼かった頃、近所の子供に連れ出されて池に落とされたときに助けてくれた精霊の名前。
『ありがとう。』
蒼を襲っていた波が収まり、辺りに静けさが戻ってきた。
それと共に今まで何もいなかったその場所に一人の女の子が現れた。
水色の長い髪に赤い瞳、大人しそうな女の子だ。
「初めてだね、その姿で会うのは。」
『うん。昔は見えてなかったから・・・』
そう、あの時は気配はしないのに声だけが茜と蒼のもとに届いていた。
蒼が少女、ウンディーネを見ていると、一陣の風が吹きぬけた。
『我々の姿はその時代の王にしか見えませんからね。』
そしてウンディーネとは別の女性らしい声が風に乗って聞こえた。
蒼が振り返ると、女の人が一人立っていた。
銀色がかった髪にウンディーネと同じ赤い瞳、彼女の横には一匹の竜がいた。
彼女を護るように存在している。
蒼が頭を下げた。
「初めまして、風の王シルフ様。」
『頭を上げてください。貴方は王なのですから。』
「王?」
蒼が頭を上げて問うと、後ろから服を引っ張られた。
『私たち、精霊王の姿を見れるのはその時代の王だけなの。だから、蒼は王なんだよ。』
「お姉ちゃんも?」
『えぇ、あなた方二人がこれからの世の王です。貴方は何を望みますか?』
王、その地位は望めばなんでも手に入れることが出来るだろう。
自分で何もせずとも周りが動いてくれる。
けれども、蒼はそんなものに興味はなかった。
蒼が望む事、それは他人の手で成し遂げても何の意味もない。
「何も。僕はただお姉ちゃんを護れればそれでいい。」
他人には何も望まない。
この望みだけは自分で成し遂げなければいけないのだ。
『そうですか。では、一つ助言を差し上げましょう。もう一人の王(茜)の傍に必ずいてあげてください。』
目を離せば無茶をしますから、と風の王は言った。
それにウンディーネが付け足した。
『さっきの茜の傷、塞がってなかったよ。』
蒼が2人の精霊が何を言おうとしているか理解したとき、また新たな声が横から聞こえてきた。
『幼き王よ。あの者は嘘をつかないが隠し事は上手いぞ。怪我のことだけでなく過去のこともな。』
『自己紹介ぐらいしろよ。』
横から男の声が聞こえてきて、そちらの方を見ると二人の男がいた。
一人はライオンに乗っていて、もう一人は少年と言うぐらいの背格好だった。
『俺はサラマンダー、こっちはノームだ。よろしくな。』
少年が二人分の自己紹介をしたが、蒼にはそれよりも気になっていることがあった。
蒼がライオンに乗った男を見ていると、向こうもそれに気づいた。
『どうした、王よ。何か聞きたいことがあるのか?』
「お姉ちゃんが隠している過去って何?」
茜の隠す過去、それがいつのことかは分かるが、何のことかは分からなかった。
『それは言えん。ただ、一つ言えることがあるとしたら、あの者がこの世界を護ろうとしているのは王(蒼)がいるからだということだ。』
決して答えとは言えないが、それでも満足は出来た。
「そう、ありがとう。」
『蒼、何か話があったんじゃないの?』
ウンディーネの言葉で蒼はここに来た本来の目的を思い出した。
この世界を終わらし、新たな世界を創る自分たちは何を望まれていて何を為せばいいのか。
「うん、・・・精霊王、貴方たちはこれからの世界に何を望む?」
『我々は今までと同じ生活が出来れば問題ありません。これは全精霊の総意で
す。』
シルフの言葉に残りの三人も頷く。
「分かった。じゃあ、僕は行くね。話を聞いてくれてありがとう。」
『ご健闘をお祈り申し上げます。』
4人と2匹が見守る中、蒼は白い6枚の翼を広げ、茜の居る方に向かって飛び立った。
やることは決まった、後は天界と魔界の意見を取り入れ、世界を創造するだけ。
けれどもこの時誰も気づいてはいなかった。
世界の終焉が背後から静かに迫ってきていることに・・・・




