第58話 天軍出陣
蒼が不機嫌になり、誰もがそれに対処できない中ラプラスが蒼に話しかけた。
「蒼、今日は話すために来たのでしょ?」
「そうだけどね。」
ラプラスが話しかけているためか蒼の表情や雰囲気はまだ少しだけ柔らかかった。
けれども、機嫌が治るとまではいかず、ラプラスは奥の手を切った。
「蒼、茜からの手紙がありますよ。」
茜からもし蒼が不安定になった時に渡してほしいと預かっていたものだ。
茜と蒼に関しては未来を視れないラプラスはこの手紙を預かった時不安だった。
誰よりも蒼のことを知っている茜のことだ、もしかしたら、そう言う事態になるのかもと。
「本当?」
ラプラスは頷き、蒼に手紙を渡した。
手紙の内容を見た瞬間、蒼は機嫌を戻していった。
それを周りで見ていた他の者たちもどこか安堵した表情だった。
「・・・じゃあ、話すよ。ミカエルには一度話したけど、他の皆には一度も話し
たことがなかったからね。」
そして、蒼は世界の終焉が近づいていることとその原因が大昔世界を分けた歪みであること。
そして、天界と魔界の戦いのせいでその歪みが急激に成長を加速させていることを話した。
「そして、僕は天界を止めるために動いている。魔界は僕の姉が説得に行っている。こないだ会った時は魔界の王を1人隷属させていたからそれを姉が魔界を止められるという証拠だと思ってくれればいい。」
「魔界の王?名前は?」
魔界の王と聞いて好奇心が抑えられなかったのかジブリールが体を乗り出すように聞いてきた。
「ベリアル。」
「そいつは大物だな。信用に値すると思うぞ。」
皆ベリアルの名前は知っているらしく素直に驚いていた。
ベリアルはもともと熾天使だったためよほど新しい天使でもない限り知っていて当然な存在だ。
「戦いは五日後でしょ。僕たちはその戦いを止めるよ。そしてここからは警告。皆にはほかの天使を止めて欲しいんだけどミカエルが言うには姉が魔界を止められなければ天界も止めないらしい。その場合はさっきみたいに僕が止めるけど、命の保証はしないよ。あと、姉に敵意を向けた奴は全員殺すから覚悟していてね。」
ここにいる皆は後半部分が蒼の本音だということを一番に理解した。
クロアが結界を張ったままであることを確認し、蒼は首から青い石の入った御守りを除けた。
その瞬間、蒼の目は金色へと変わっていった。
「改めて自己紹介しておくね。僕は破壊と創造の神の片翼。よろしくね。」
笑顔で挨拶する蒼に口を挟める者はいなかった・・・一人を除いて。
蒼と同じ神であり、この中で一番付き合いの長いクロアだけは知的好奇心をむき出しにして蒼を見ていた。
「やはりすごいな。君たちに与えられた神格は。世界を創った造物主と同じ力か。」
「そうだよ。この世界を終わらせ、新しい世界を創るそれが僕らに与えられた役
割であり義務だ。」
蒼は再びお守りを首に掛け、瞳の色が藍色に戻った。
すると皆息が楽になったように肩の力を抜いた。
「それじゃあ、特に後半のことは憶えていてね。実際にそんな馬鹿がいたら僕が如何するか分からないから。」
如何するか分からない、それは紛れもない本心であり、本音だ。
蒼はラプラスを抱いてその建物から飛び降りた。
途中で六枚の羽をだしバランスを取る。
「ねぇ、ラプラス。僕は間違ってる?」
「いいえ、二人の霊格がそうあるべきなのですから間違っていません。己が心が為すままに、でしょ。」
「そうだね。心が感じるままに僕は為す。それが僕たちだ。」
「そういうことです。だから蒼が迷う必要はありません。」
「時に迷うことも必要だがね。」
足を下した建物の屋上にクロアも現れた。
「だが、今回の場合は必要ないだろ。君の心は昔から決まっているのだから。」
「うん。お姉ちゃんを護る。僕はお姉ちゃんとお姉ちゃんが護りたいものを護る
だけだ。」
「その中には君自身が一番に入っているのだよ。」
「分かってるよ。ねぇ、クロア戦いの日の前日に魔界に行くんでしょ。その時お姉ちゃんに近い人に伝えて、お姉ちゃんに手を出したら殺すよって。」
「了解した。最高のお土産を渡してくるよ。」
笑いながら言うクロアは神霊ではなく死神に近いように思えた。
それから何日かが経ち、とうとう天界と魔界の戦いの日を迎えた。
蒼にとっては漸く茜と会える日だ。
「いよいよだね。」
「そうですね。やっと茜に会えますね、蒼。」
ラプラスは蒼の意図を間違えずに読み取っていた。
蒼のことを良く知っているのが誰だと問われれば一番に名前が挙がるのは茜だろうが、二番目にはラプラスが来るだろう。
天使たちが出立するために天界にあるゲートの前に集まっていた。
そんな場所から少し離れた場所で蒼がラプラスと話していた。
そこにその天使の集団から抜け出してきたサリエルが近づいてきた。
「蒼様、そろそろ出発するようです。」
「サリエルまで様をつけるの?」
蒼が困ったようにサリエルを見るが、サリエルはそれを気にせず平然と答えた。
「神である以上はそれが普通かと。」
「名乗らない方が良かったかな。ウリエルやガブリエルは普通に名前で呼んでくれるよ。」
蒼は割と本気でそう考えていたが、サリエルはそれに苦笑いで返した。
「あの方たちはまぁ、特別ですし・・・」
「まぁ、細かいことはいいか。で、出発だったっけ。」
これ以上は気にしても仕方がないと諦め、サリエルに問いかけた。
サリエルもそれに頷いた。
「う~ん、クロアが返ってくるのを待って後ろから追いかけるから先に行って
て。」
「分かりました。」
サリエルは返事をした後、集団の中に戻っていった。
ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルは忙しそうに指揮をしている。
蒼は一度そっちに視線を向け、視線を戻してから目を閉じた。
クロアがきちんと使いを果たしてくれることを祈って・・・




