第50話 ミカエルの説得
一旦話を終わらせた蒼はクロアとラプラスを呼んだ。
ミカエルは神が入ってきたのに気づいていないようだった。
クロアもそれを気にしている様子はなかった。
「何だい、話は終わったのかな。」
「まだ、ここからが本題。だからジブリールを連れて下で待っていて。」
クロアは「分かった。」と頷きジブリールを抱えゲートを開いた。
「さてと、ここに着た本来の目的は、これから先のことを話すためだ。結論を先に言うともうすぐこの世界は終焉を迎える。」
蒼の言葉で漸くミカエルの思考も戻ってきたようだった。
「世界の終焉、・・・それは、神々の黄昏とかカリ・ユガと同じ意味でか?」
ラグナロクもカリ・ユガも破壊の後に再生が必ず待っている。
けれども今回は違う。
「答えは否。世界が滅び、その後に新たな世界が生まれることは無い。これの原因は大昔世界を分けた歪みが大きくなっていること。そして、その進行を早めているのは天界と魔界の戦いだ。」
たとえ、再生が行われようとも、その世界もできた傍から歪みに飲み込まれていく。
そこに光はもう存在しない。
「それでどうしろと言うのだ?」
「戦いを今すぐに止めろ。」
いつもの口調とは違う、命令口調だ。
ミカエルでさえも、その空気に飲み込まれていた。
「・・・不可能だ。確かに天界だけならば私の命令一つとは言わなくても熾天使が集まれば止められる。だが、魔界はどうだ?奴らは悪を正義とし災いを齎すことを生とする。奴らが戦いをやめない限り戦いは終わらない。」
けれども、流石は大天使長と言うべきか、すぐに我を取り戻していた。
ミカエルの答えは不可能、だが魔界さえ止まれば可能。
なら、蒼の中でこれは解決したも同然だった。
「それなら、この件は解決だ。」
「何故だ!?」
何故そうなる、と蒼に詰め寄る。
そして蒼から返ってきた答えは他の者からすれば根拠にはならない理由だった。
だが、蒼にとってはそれで十分な理由となり得た。
「魔界には姉が、この世界で僕が唯一信頼できる人が説得に行っている。」
この言葉に流石のミカエルも蒼の中で姉は大切な人なのだと理解した。
理解はしたが、感情はそれを許さない。
悪魔を、あいつの娘を認めることなどできない。
「説得が成功する保証はないだろ。」
「絶対に成功する。・・・僕たちの約束は絶対だ。」
絶対だと断言する蒼。
ミカエルは分からない、姉とはいえなぜそこまで悪魔を信用できるのか。
「分かった。ならあなたの姉が魔界を止められたら私が天界を止めよう。」
「うん、それでいいよ。ただし、もしあなたが止められなかったとしても僕が止めるから。その場合、死は覚悟してね。」
笑顔で脅しをかける蒼。
「・・・貴方に出来るのか?」
ミカエルでも上位の天使に命令する場合、かなりの精神力を使わなければいけない。
それを簡単にやると言い切ったのだ。
「うん。・・ミカエル。命令だ、止まれ。」
その瞬間ミカエルは動けなくなった。息をすることさえも出来なかった。
「僕は大切な物さえ守れればいい。それ以外はどうなろうと知ったことじゃないよ。」
大切な物、茜、家族、仲間。それが蒼の全て。それ以外のものを守るのは茜を悲しませたくないから―――――
「動け。」
そして、二度目の蒼の命令で動くことが出来るようになった。
息を止められていたミカエルはその場に崩れ落ちた。
「一つ言っておくけれど、まだ神格は封印したままだからね。」
そう言って最初に来た入り口に近寄り、足を踏み出す直前で振り返った。
「あ、最後に、お姉ちゃんに手を出したものは殺すよ。」
これ以上ない笑顔で蒼は爆弾を落としていった。
そしてその言葉を最後に蒼は飛び降りた。
二枚の羽を広げ、下で待っているクロアたちのもとに降りる。
「ただいま。話は終わったよ。」
クロアとラプラスは笑顔だが、ジブリールは違った。
「僕は謝らないよ。娯楽を優先して本質を見抜けなかったのはジブリールだから。」
ジブリールが何か言おうとするより先に蒼がしゃべりだし、ジブリールは口をはさめなかった。
黙り込んだジブリールを置いて蒼はクロアたちと歩き出す。その後をジブリールもついてきた。




