第49話 父子の証明
蒼たちはミカエルがいるという部屋の手前まで来ていた。
天界について時間もたっていないのにすごい行動力だと思う。
一番乗り気なジブリールが楽しそうにミカエルにお客が来たと伝えに言った。
「ミカエル、お客さんが来たよ。」
「ガブリエル、少しは静かにしろ。」
呆れたような声にジブリール、いやガブリエルが楽しそうに笑う。
「で、客とは?」
「今連れてくる。」
ガブリエルが蒼を呼びに来る。
ミカエルに聞こえないような声でガブリエルが呟く。
「準備は出来たよ。楽しませてね。」
蒼はガブリエルに続いてミカエルの前に出た。
ミカエルは背中に六枚の羽を持っていて金髪青目の青年だ。
「この子は蒼。天使と人間のハーフだよ。」
「初めまして、大天使長ミカエル様。」
蒼はいつも通りの笑みで手を差し出す。
そしてそれにミカエルは何の疑いも持たず答えた。
その瞬間蒼の中で何かが大きくなるのが分かった。
自然と蒼の顔に笑みが浮かんだ。
誰にも気づかれないほどの小さな笑みが。
「何の用で来たんだ?」
手を離したミカエルが蒼に聞いたのだが、それに返したのは蒼ではなくジブリールだった。
「ミカエル、前に話したよね。ミカエルの子供がいるかもしれないっていう噂。それの出どころの一人を連れてきたんだよ。」
「・・・こいつが?」
漸く訝しみ出したミカエルにジブリールの笑みが少し深まる。
それを見ている蒼にもジブリールがミカエルの反応を楽しんでいるのが分かった。
「そ、僕からは話せないからその子に聞いてみたら。命令でもして。」
命令、天使にとっての自分よりも上位の存在からの命令は絶対だった。
力が似た者同士ならそこまで強くは働かないが、力に差があればあるほどその執行力は強くなる。
「・・・蒼と言ったな。命令だ今から私の質問に全て答えろ。」
ミカエルの言葉と共に蒼の目から感情がすべて消えた。
それを確認したミカエルは質問を始めた。
「この噂は何処から来た。」
「これはラプラスの悪魔に過去を視て貰った結果です。」
抑揚のない声で蒼が答える。
「誰の過去を視た結果だ。」
「・・・僕の過去です。」
「な!?」
ミカエルの今までのポーカーフェイスが崩れた。
「ははははっ!初めて見たミカエルのそんな顔。蒼の言う通り面白いことになっ
たね。」
おなかを抱えて笑い続けるジブリールと考え込むミカエル。
そんな異様な雰囲気の中でさらに異様なことが起こった。
「そう、じゃあもういいよね。ここからは僕のシナリオだ。」
今までとは違う楽しそうな声が響いた。
聞くものによっては恐怖を感じるような低い声にどこか愉快そうな子供のような声。
それまで笑っていたガブリエルも驚きで笑うのをやめている。
「・・・やはり、あなたは主ですか。」
ミカエルだけは命令による執行力が効いていない理由に到達した。
ジブリールはまだ気づいていない。
「ん、気づいていたの?流石だね。でも、僕が今さっき言ったことに嘘は一欠けらも交じっていないよ。」
そう、命令に答えていたのは演技だが、そこで答えたことは真実だ。
「天使と人間のハーフだということも、僕の父親が貴方だということも。信じられないなら幾つか証拠を見せてあげる。」
蒼は首からネックレスを外した。
物心つく前からずっとつけていたものだ。
「僕の母親の名前は菫。これは僕の父親が母に渡したものでそれを母が死んだときに僕に譲られたものだ。見覚えは?」
「・・・分からない。」
無い、ではなくて分からない。
「そう、じゃあ面倒くさいから早く終わらせようか。」
そう言って、蒼は自分と父親をつなげる可能性のある羽を出した。
蒼の背中にある羽は八枚。
「この姿は他の天使と人間との間に生まれた子供に思える?」
「・・・・」
沈黙を続けるミカエルに蒼は更に続ける。
「ここからは僕の仮説だけど、あなたは母を無理やり奪った。あなたの兄、堕天使の長ルシファーの子供を産んだ母を浄化と言う目的で。そして僕の姉を殺そうとした。」
「・・・・・・」
まだ沈黙を続けるミカエルに蒼もだんだん面倒くさくなって来ていた。
「これでも認めないならラプラスに母の過去を視てもらうよ。どうする?」
蒼は最終手段だと言わんばかりに手札を切る。
そしてついにミカエルは口を開いた。
「・・・・あぁ、そうだ。あなたの父親は私だろう。ただ、一つ言うことがあるとすれば私は本気で彼女のことが好きだった。だからこそあんな奴に心を許したのが許せなかった。」
蒼はミカエルの話を最後まで静かに聞いていた。
しかし、返ってきたのは蒼が求めている答えではなかった。
ミカエルは勘違いしていた。
蒼にとっての一番を。
「そう。あ、勘違いしないでね。僕はあなたが母を奪ったことも、僕を捨てたことも恨んでいないから。・・・僕がこんな真似をしたのは姉を殺そうとした者をはっきりさせるため。それだけは赦さない。」
茜を殺そうとした、それが蒼が今ここにいる理由であり、天界に来た目的の一つでもあった。
「だが、それは仮説だろ。」
「姉は僕と同じで一度見たものは忘れない。それにもかかわらず、僕が生まれた記憶があるのに相手の男を全く思い出せなかった。これは在り得ないことだ。ラプラスでもここは視えなかった。忘れたいほどの恐怖がなければこんなことはおこらない。殺そうとしたときに姉が力を暴走させたのだろう。」
まるで見てきたかのように話す蒼にミカエルは恐怖を感じた。
「・・・その通りだ。」
ミカエルが認めた瞬間ドォンと言う音が響き次の瞬間にはミカエルは押し倒され、その上には蒼が乗りミカエルの首を絞めようとしていた。
「・・・皮肉だな。神の御使いの長であるあなたがその神を殺そうとしたのだから。」
「どういう、ことだ。」
蒼の手には多少力が入っているが、まだ殺そうとはしていない。
「姉は僕と同じで神格を持って生まれ落ちた。ただ、生まれてすぐに母に神格を封印されていただけだ。」
無意識のうちに力が入る。
(「蒼、だめ。」『―――父さんたちを止める』『二人一緒なら―――』・・・そうだ、お姉ちゃんと約束したんだ。世界を救う、それを為すまでは―――)
茜に言われた言葉や約束が蒼の頭の中に浮かんでは消えていく。
蒼は手を離し、ミカエルの上から退いた。
立ち上がった蒼に、ミカエルも体を起こしながら聞く。
「なぜ?」
「死にたかったの?」
蒼の言葉にミカエルは自分でも何故あんな風に聞いたか分からなかった。
しばらく考えたが結局答えは分からなかった。
「赦したわけじゃない。すべてが終わったら殺してあげる。」
いつも通りの変わらない笑顔でさらりと言いのけた。
けれども、その声には怒りが確かにまざっていた。




