第46話 魔界での最終日
魔界に戻ってきた茜は地面に足をおろし羽をしまい、石の入ったお守りを首にかけた。
城からはマモンやレヴィアタン、ベルフェゴール、アスモデウスが出てきた。
「ルシファーさま~、どこに行ってたの?」
「寝ていた茜もいつの間にかいなくなってるし・・・」
「・・・さがしたんだよ・・・いろんな、ばしょ・・・」
ルシファーに飛びかかっていったアスモデウスとブツブツと言っているレヴィアタン、眠そうに目をこすっているベルフェゴール。
「茜、大丈夫なのですか?」
「大丈夫。でもそんなに長い間いなかった?」
そんなに時間をかけたようには思わなかったけれど、もしかしたらあの空間での時間と外の時間に差が出来ていたのかもしれない。
そう思って尋ねたのだけれども、返ってきた答えは違った。
「いえ、時間はそこまで・・・ですが、倒れて寝ていた茜がいなくなって皆心配して探していたんです。」
「ごめん。ルシファーも一緒だったから・・・」
茜は素直に反省した。
自分の行動で誰かに心配させることになったからだ。
そんな茜を見てマモンもこれ以上言うのをやめた。
「それはもういいです。無事に帰ってきましたから。ですが、何をしていたんですか?」
マモンが見たところ茜には傷一つない。
それは茜といた他の者も同じだが、茜は力の暴走によって体の中の魔力が枯渇していたはずだ。
それこそ動くことが出来ないほど―――――
「ベルゼブルと勝負と仲直り。」
「・・・それで、勝ったんですか?」
笑顔で頷く茜にマモンは何も言えなくなった。
そんな2人の話を聞いていたのかレヴィアタンが話に入ってきた。
「勝負?いいな、俺ともやろう。」
「良いけど、また今度ね。流石に疲れた。・・・今度、蒼が・・・許して、くれたら・・・やろう。」
少しずつ、本当にに少しずつだが所々で言葉が途切れる。
「限界だな。力が枯渇しかけている状態で俺と戦ったんだから。ちゃんと運ぶから、安心して寝ろ。」
「ごめんね・・・・ありがとう。」
倒れる直前でベルゼブルが茜を抱きかかえた。
意外と優しいんだと笑いながら茜は目を閉じた。
「やっぱり、無理していたんですね。」
「すまない、無理をさせたのは俺だ。どうしてもこいつのことが信じられなかったからな。」
「・・・それで、分かったんですか?茜のこと。」
「あぁ、分かった。」
ベルゼブルは自分の腕の中に納まっている茜を見た。
普段は天然で、いつも笑っているくせに、心の中では泣いていて、優しすぎるから嘘もつけないのに、隠し事は上手くて、何処までも自己犠牲な奴。
それが今のベルゼブルの茜に対する印象だった。
「そうですか。しかし茜もさすがですね。あなたの猫かぶりを治してしまうので
すから。」
「あれは、忠誠を誓ったのにそのままの言葉遣いはまずいと改めただけだ。」
二人は歩きながら話を進める。
ラプラスも茜を見ながらそれに着いていく。
目を開けてすぐに見えたのは、この城に来てから使っている部屋の天井だった。
「おはよう。」
聞こえてきた声はいつも傍にいるラプラスやルシファー、ベリアルの声ではなかった。
聞きなれないけれど、知っている声。
それまで天井を見ていた視線を声のする方に向ける。
「・・・ずっと寝ずにそこにいたの?」
「俺のせいだからな。それに一日ぐらい寝なくとも何ともない。」
「本当に一日だけ?」
茜の指摘にベルゼブルは人の心の機微に鋭い奴は厄介だと思った。
それと同時に隠してもしょうがないと割り切ってもいた。
「・・・二日だ。お前が寝だしてからきっちり二日。」
「そっか、今日で最後なんだ。」
茜は今日が魔界にる最後の日だということと明日天界と魔界の戦いが再開される日だと思い出した。
一瞬だけ寂しそうな顔をしたのをベルゼブルは見逃さなかった。
「あぁ。明日の夜明けとともに戦いは始まる。行くんだろ?」
「勿論。力も回復したし。」
「そうか。なら良かった。今朝死神が来てお前の弟の伝言を俺たちに伝えていった。死神曰く『お姉ちゃんに手を出した奴は殺すよ。』だと。」
「蒼らしいね。」
クスクスと笑う茜にベルゼブルの表情も柔らかくなっていた。
「そうなのか?一度会って話してみたいな。お前の弟と。」
「案外気が合うかもしれないよ。」
二人は一斉に笑い出した。
「さてと、外の馬鹿どもにも知らせるか。」
「うん。」
茜もベッドから降りて、人の気配がするドアの方に気配を消して近づいた。
そして、ベルゼブルが勢いよくドアを引くと、何かがなだれ込んできた。
「うわぁ!!」
ドォンという音を立てて崩れる。
「何をしているんだ?お前らは」
呆れたように三人にベルゼブルが問いかける。
三人はその質問に答えずに、茜の方に迫ってきた。
「茜、何もされなかったあいつに?」
「・・・だんじょ・・・おなじへや・・・ふつかかん・・・」
慌てたように聞くレヴィアタンといつものように眠そうにしているベルフェゴール、目をキラキラさせてこっちを見ているアスモデウス。
「するわけないだろ。馬鹿どもが。」
そんな三人の頭に拳骨が落ちた。
「なんでお前も黙ってみてたんだ?」
壁に凭れ掛かって笑っているベリアルをベルゼブルが睨む。
「いやー、おもしろそうだったし。実際面白かったしな。勿論、マスターに手を出していたら、殺してたけどな。」
ハハハッ、と笑い続けるベリアル。
ベリアルはひとしきり笑ったのか、笑うのを止め茜の方を見た。
「マスターも元気そうで何より。さっきマスターの弟が置き土産していったぞ。」
「伝言のこと?」
妬ましそうにベルゼブルを見るも、すぐにここに来た本来の目的を思い出した。
「あぁ、もう聞いていたのか。・・・あ、そうだ。もうすぐ移動を開始するって
言ってたぞ。だから、マスターを起こしに来たんだったけ。」
ベルゼブルもその視線に気づいていたが、それを指摘すればさらにややこしくなりそうだったため気づいていない振りをし通した。
「もう、動くの?」
「あぁ、今回はこちらから停戦を申し込んだから先に着いとかないといけない
らしいし、場所が遠いようだからな。」
「どこ?」
「南極だ。あまり人間に被害が出ないようにとのルシファー様の考慮だ。・・・お前たちもいつまでそうしてんだ、早く行くぞ。」
頭を押さえて座り込んでいる三人にベルゼブルは声をかけた。
歩き出したベルゼブルの後ろを茜がついていくと、レヴィアタンたち三人も立ち上がり、歩き出した。
いよいよ2章が終わりました。
次は3章、蒼中心のお話です。




