第41話 死or隷属
―――ベリアルの城―――
茜はベリアルの後ろを飛んでいた。腕にはラプラスを抱えている。
ベリアルの城の上空に来た頃、ベリアルが茜に問いかけた。
「お前、あいつの娘か?」
「どうしてそう思うの?」
茜にとってそれは隠すことではなかった。
けれどもどういう経緯でそう思い至ったのかに興味がわいた。
「5か月前、お前が俺の領地に入った時、6枚の羽を出しただろ。堕天した天使なら俺たちは分かる。あと、さっきのあいつの態度からな。」
ベリアルが言っているのは初めて上層に来て霊峰に入った時のことだろう。
あの時は早く力を解放しなければと焦っていた。
「ふ~ん。なら、私の霊格は分かった?」
そういって、茜は8枚の黒い羽を広げる。
「・・・・おいおい、お前、神か。」
信じられない物を見たと、ベリアルは目を見開いた。
だがそれよりも衝撃なことをこの後告げられた。
「残念。私はまだ神じゃない。悪魔と人間のハーフだよ。」
「人間!?ありえないだろソレは!」
茜は羽ばたいて更に上空に上がる。
「一応話は聞いてあげる。それ次第では貴方を消すけど。」
「おいおい、物騒だな。10歳の娘がいう言葉じゃねぇだろ。・・・ま、消されるつもりもないけど。そうだな、もしお前が勝てたらお前のいうことを一つ聞いてやる。」
あっさりと自分が勝つと遠まわしに宣言しているベリアルに茜は目を細めた。
「で、話なんだが、この間お前の横にいた小さい奴は天使―――」
ベリアルが言葉を言い切る前に、茜は一気に間を詰めて蹴り飛ばした。
ベリアルは、それを片手で止めた。
油断していた分、数メートル後ろに飛んだが、それだけだ。
だが、それでもベリアルの胸中は混乱していた。
ルシファーの子供とはいえ、十歳の女だ。
その子供の脚力で魔界の王たるベリアルが数メートルも飛ばされた。
その紛れもない事実が久しぶりにベリアルの身体に熱をともした。
茜はそのまま上に飛びのき、右手を掲げ振り下ろす。
バチッと茜の腕が光り、ベリアル目掛けて雷が落ちる。
「ぐっ、・・・うげ・・・」
予測していなかった攻撃にベリアルはよけれず、直撃した。
「っつうか、神鳴りとはどういうことだおい!奴らの雷は効くんだぞ!?というよりも何でお前が使えんだ!」
「それは良かった。」
質問には答えず、ただ感想を述べた茜にベリアルは悪態づいた。
「こっちは最悪だよ、クソガキ!」
茜は全身に雷を纏い肉薄した。一気に攻撃を仕掛け、追い詰める。
「チェックメイト。」
茜は今までで一番大きな雷を落とした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・え~と・・・ごめんなさい?」
「何で、謝ってんのに疑問形なの?」
城の上空で戦っていた上に茜が落とした雷のせいでベリアルの城は崩れ落ち燃えていた。
「ま、負けたんだから仕方がないか。・・・で、お前は何を望む?」
「じゃあ、隷属して。」
隷属、と即答した茜に今度こそベリアルは思考を止めた。
「は?」
そんなベリアルには構わず、茜は説明を続けた。
「私は弟を傷つける可能性のあるやつ、私たちの邪魔になるやつを放置できない。だからそんな奴らには死んでもらうか、邪魔が出来ないように隷属して貰うかしかない。という訳だから隷属ね。」
「はぁ、マジで負けるとは、・・・まぁ、面白いからいいか」
「流石、茜ですね。ルシファー様、レヴィアタン様、サタン様と並ぶ上位君主で
あるベリアル様を倒してしまうのですから。」
「・・・お前がここにいる時点で気づけばよかった。おい、お前、神界にいただ
ろ?」
ベリアルはラプラスを見ながらつぶやいた。
「うん。いたよ。1年間だけだけど。」
かなり長い時間神界にいたと思っていたベリアルは驚きを隠せなかった。
それだけラプラスに会える確率は少ないからだ。
「1年?それより前は?」
「人間界で人間として生きていたよ。」
「・・・もういろいろと在り得ないな。・・・あ、それと思ったんだけど、あい
つ人格が変わってない?」
最後の問いは茜に聞こえないようにラプラスに向けて呟いた。
「ベリアル様、気づかれたのですか?」
「何が?」
「あの子は根が優しすぎるのです。だから、対談、交渉、ゲーム、戦闘、そういう場面では無意識のうちに人格を変えているのです。茜の弟、蒼が傍にいるときは安定しているのですが、離れていると少し不安定になっているようです。茜にとって蒼がこの世の全てですから。」
「ふ~ん、それは、危ういな。」
ベリアルはラプラスの話を聞きながら茜を見ていた。
無邪気にそこら辺にあるものを見ている。
もし蒼が傷ついたら、茜はどうなるのだろうか。
そんな疑問が浮かんでくる。
ラプラスもそれには同意らしくこちらの意見に頷いていた。
「そうですね。ですが、それを防ぐだけの力があの子たちにはありますし。あの子たちには味方が沢山いますから。ベリアル様も茜を護ってくださるんでしょ?」
「まあな。」
隷属する以上守れなければならない。
だがそんな理由がなくともベリアルは茜に興味を抱いていた。
面倒くさがり屋で怠惰、基本的に気が向かないと一切動かないが、気が向いたり興味があったりするといくらでも動くし何でもするため極端な性格をしているベリアルだが、今回は最初から〝茜〟に興味を抱いていた。
「・・・ねぇ、ベリアル。これからどうするの?城ないよ。」
キョロキョロと辺りを見回していた茜が何の悪げもなくそう言った。
「・・・城は無いんじゃなくてお前が壊したんだよな!!」
ベリアルの突っ込みに茜は頷き、少し考えてから翼を広げた。
「うん。・・じゃあ、ちょっと聞いてくるから、待ってて。」
そういって、茜はベリアルの城があった場所からルシファーの城に向かって飛んだ。
――――ルシファーの城――――
「ただいま。」
そう言って城の中に入ったが誰も見当たらなかった。
仕方がないので、探知してマモンの場所を探した。
幸いにもマモンは茜が帰ってきたの気づいて近くまで来ていた。
「マモン、大変なことになったよ。」
マモンは嫌な予感がしながらも茜に問いかけた。
聞くのを躊躇うぐらいに嫌な予感しかしていなかった。
「・・・どうしたのですか?」
「ベリアルと戦いになって、ベリアルを倒して、その時にベリアルの城を全壊させた。あと、ベリアルを隷属させた。」
「茜、何をしているのですか?仮にもあれは王ですよ。」
マモンの言葉に茜が反論しようとしたところでルシファーが来た。
「どうした?」
「ルシファー様。いえ、茜がベリアルを倒し、隷属させてきたらしいです。」
マモンの言葉の真意を確かめようとルシファーが茜の顔を見た。
「うん。今、ベリアルの城にいる。」
「よし、行こう。」
先ほど茜が無理やり連れて行かれたのが気に入らないのか、普段の鬱憤が溜まっているのかは分からないがルシファーは行く気満々だった。
「ルシファー様!!」
マモンが止めようとするがルシファーはそれを無視して茜と飛んで、ベリアルの城に向かった。
「・・・何で、ルシファーなんだよ。」
茜とルシファーがベルアルの城につき最初に聞いた声がこれだった。
「え、ダメ?」
「・・・・・」
ダメだとはこれぽっちも思ってなかった茜は首を傾げた。
そんな茜に言っても仕方がないとベリアルは息を吐き出した。
茜はベリアルの様子に首を傾げながらも、ルシファーに頼み込んだ。
「ねぇ、ルシファー。ここ、私が壊しちゃったから暫くベリアルを泊めてあげて?」
「あぁ。俺も丁度用が出来たからな。たっぷりお詫びをしないとな。」
「は、ああああああ!?」
ガシッと襟首を捕まえられたベリアルは、ルシファーに引きずられて城に向かった。
その晩、ルシファーの城からは、在り得ないほどのの絶叫が響いたそうだ。




