第35話 茜の霊格
(・・・暖かい)
目を開けた瞬間、胸に向かって何かが飛んできた。
「ラプラス?」
「目が覚めたか、茜。」
暖かいと感じたものの正体が分かった。ルシファーが頭を撫でていてくれたのだ。
目を覚ました茜にルシファーとラプラスが気が付いた。
茜が声のした方に顔を向けるとベッドの横の椅子にルシファーが座っていた。
「ここは俺の部屋だ。お前はあれから一週間眠りっぱなしだったのだ。」
「一週間・・・」
ルシファーの言葉に茜は自分の中の最後の記憶をたどった。
そしてクロアと別れたところまでを思い出した。
「あぁ、そいつも心配していたぞ。・・・そういえば、何故ラプラスは茜についているのだ?契約したわけではないだろ。確かクロアの奴がしていたはずだが・・・」
「どうして?」
茜も分からないというようにラプラスの方を見た。
ラプラスも教えていなかったことに気づいて説明しようと口を開いた。
「それは、茜が、いえ茜たちだけがその存在故に何らかの形で未来を変える可能性を持っているからです。それ故に私たちは茜たちに興味を持ったのです。」
「未来を変える、可能性?」
ラプラスの言葉の中で気になったことをルシファーが拾い上げた。
ラプラス自身もそこを聞かれると分かっていたのですんなりと答える。
「はい。どうしてかは分かりませんがその未来から後ははっきりと視えないのです。ですが茜はこれから迎えるその未来を知っていますね?」
ルシファーとラプラスの視線が一斉に茜の方に向く。
茜は今ここで話すべきかどうか迷った。
でも与えられたチャンスはこの一か月だけだ。茜は話すことを決意した。
茜が二人の視線に頷き、体を起こした。
ルシファーは茜の背中を支え、起きるのを手伝った。
「あまり無理はしなくていい。」
コクン、と頷き一呼吸入れてから話を始めた。
「今から話すことは誰にも言わないで。」
「分かった。」
2人が頷いたのを確認して、茜は話を始めた。
「私が知っている未来は破滅。本当の意味での世界の終焉。・・・大昔、世界を分けた歪みは日に日に大きくなり、いずれ世界を飲み込む。神界だけなら歪みの中でも守ることが出来るってゼウスは言っている。」
「なぜ神界だけなんだ?」
ルシファーのもっともな疑問に茜も一つ頷いて答える。
「人の信仰が薄くなり、神の力が衰えて神界以外では思うように力を使えないから。ゼウスはこの世界に蔓延る歪みを消し、世界を一つにするために動いている。」
「どうすればいいんだ?」
ルシファーは茜の話を聞いて、茜がここにいるということは解決する方法が存在すると踏んだ。
けれども返ってきた答えは予想と外れた。
「それは分からない。でも一つだけ言えることは魔界と天界の戦いを止めなければいけないということ。そして、それをするために私たちはここにいる。」
茜の言葉にルシファーはすぐに返した。
長年続いてきた天界対魔界の戦い。ルシファーは何度もこの戦いを止めようとした。
けれどもそれが不可能だと分かった。
そして、止められないなら抑えてしまえばいいと、今の王族制度を作り上げた。
上級悪魔が下級悪魔を従え、その上級悪魔をルシファーたちが従える制度だ。
「戦いは止まらん。いや、仮に魔界が戦いをやめたとしても天界は続けるだろう。」
「天界には蒼が説得に行っている。・・それに約束したんだ、必ず止めるって。」
茜にとって蒼との約束は絶対であり、その為の手段を問う必要はなかった。
茜の中の強い意志にルシファーは折れた。
「・・・ならその蒼とやらが天界を止めることが出来たなら俺も力を貸そう。」
「分かった。・・・でも、もし戦いを止めれたとしても歪みが世界を覆うスピードが遅くなるだけ。どうすれば消えるのかな?」
ルシファーが妥協したことによって茜は次の話へと進めた。
「それなんだが、神の固有の力を持ってしても無理なのか?例えばトト神とか――――」
神の力は役割によって変わる。人の信仰によって生まれた神はその役割を果たすための力を持っている。
「うん、人は神に願い事をしても、本当の所は神の存在を信じ切れていない。その信仰の薄さが神の力をも奪っている。人の信仰によって生まれた神が多いから。・・・あれ?・・・・信仰によって?・・・」
「どうした?」
何かに気づいた茜にルシファーもラプラスも目を向ける。
そんな2人に気づかず、茜は自分の考えを口にいしていく。
「・・・原初の神は人の信仰を必要としていない。・・・人の信仰とは関係なく
生まれた神はいるということ?」
茜の言葉にルシファーとラプラスは顔を見合わせた。
それは丁度一週間前にここで話したことだ。
「茜、あなたは自分の霊格に気づいていないのですか?」
ラプラスの言葉に驚きで顔を上げた茜にルシファーが説明する。
「茜、お前は悪魔ではない。いや、悪魔ではないと言い切ることは出来ないが、種族的には神だ。悪魔の力を使える神と言う所だろう。」
言われた内容はすぐには頭に入ってこなかったが、それでもこの二人が嘘をつくとも思えなかった茜は頭の中で何回か反芻した。
「貴方たちは神格を宿して生まれ、生まれてすぐに力を封印されたのでしょう。」
「・・・封印したのは、お前の母、菫だろうな。あいつは神格さえ持っていなかったが不思議な力を使えた。今思えば、それは寿命を削っていたのだろうな。」
「お母さんが・・・」
「あぁ、・・・そうだな、少し昔話をしよう。俺とあいつの話だ。」
ルシファーは懐かしむように昔話を始めた。




