第34話 7体の悪魔
二人は門の前に降り立った。
ラプラスが茜に飛びつき、その後ろからクロアも歩いてきてる。
「茜、大丈夫だったかい?」
「うん、クロアも皆を引き付けてくれてありがとう。」
三人が話しているところから少し離れた場所で六人の悪魔がルシファーを囲んでいた。
「ルシファーさま~、あの娘は?」
癖のある髪で礼装を着崩した少年が間延びした声でルシファーに尋ねる。
好奇心に満ちたその目はルシファーの答えに何かを期待しているようだった。
「俺の娘だ。」
『はい!?』
突然の発言にその場にいたベルゼブル以外が反応した。
ベルゼブルは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あんたに娘なんて居たの?」
「それはどういう意味だ?レヴィアタン」
「ナンデモナイデス。」
ルシファーの威圧にレヴィアタンは慌てて首を振る。
それを見て、はぁと息を吐き何か言いたそうにしている他の奴らに顔を向けた。
「相手はあの時の人間の娘ですか?」
「あぁ、そうだ。」
そういえば、初めてあいつに会った時こいつも一緒にいたなぁと何となく物思いに耽っていると、「ルシファー様」とそれまで黙っていたベルゼブルが口を開いた。
「人間の娘との子にしては力を持ちすぎていませんか?」
「・・・俺の血が濃く出たのだろう。」
ベルゼブルの問いにルシファーは表情を変えずに答える。
気づかれるわけにはいかないのだ、茜という霊格を。
ルシファーの推測が正しければ、茜はこの世界、魔界にいては危険な目に合う存在なのだ。
ワイワイ騒いでいる奴らから目を離し、茜を視る。
「・・・おまえでもそういう顔をするのだな。」
離れた位置で話をしている茜を見るルシファーの顔を見てサタンが呟いた。
魔王として人からも悪魔からも恐れられてきたルシファーが今、茜に向けているのは慈しみだけだった。
3人が話しているところにクロアを呼ぶ声が聞こえた。
「うん?」
クロアが声に振り返った瞬間、クロアは後ろに飛ばされた。
そこにはルシファーが立っており、手を握っていた。
ルシファーが殴り飛ばしたのだ。
「これで今までのことは許してやる。・・・クロア、茜を連れてきてくれてありがとう。」
ルシファーの見る先にいたのはクロアの本体、平面的な影だった。
殴られる直前に体と別れたのだろう。
「ふん。珍しく殊勝な態度を取るじゃねぇか。」
ルシファーはクロアの挑発に乗らず聞きたいことだけを端的に聞いた。
「クロア、茜はいつまでここにいられる?」
「・・・今すぐと言いたいところだが、感動の親子の再開だ。一か月待ってやる。」
クロアもルシファーの真剣な顔にからかうのを止め、真面目に答えた。
「一か月か。ならその間茜を俺に預けてくれ。」
「え!?」
予想していなかった言葉に茜は驚きを隠せなかった。
それに反応してルシファーも茜の方を見た。
「ダメか?」
「茜、蒼はどうするんだい?」
影ではなく、体に戻ったクロアが茜の弱いところをついてきた。
蒼を出せば、茜は答えることが出来なくなる。
「・・・・」
そんな茜を見て、ルシファーは蒼も一緒に来ればいいと提案してきた。
けれども、それは茜にとって一番に防がなければいけないことだった。
「それはダメ。」
はっきりとした意志を示した茜にクロアは小さく息を吐いた。
「はぁ、蒼には私が伝えておくよ。・・・茜、君は今までの幸せを取り戻してきたまえ。」
「・・・ありがとう、クロア。」
蒼のことを任せてしまう申し訳なさと自分のことを考えてくれている嬉しさを込めてお礼を言った。
それがクロアにも伝わったのかクロアは苦笑した。
「礼は構わない。ラプラスは預けておくよ。・・・一か月後迎えに来る。」
クロアは影のゲートを開いて帰っていった。
クロアが帰った後、茜は目の前がぐらりと揺れた気がした。
そしてそれと同時に全身から力が抜け、意識を保つことが出来なくなった。
意識が途切れる直前誰かが茜を呼ぶ声と微かな温もりを感じた。
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死神が帰った後、茜の体がぐらりと揺れ前に倒れようとした。
「茜!!」
ラプラスが叫び、近くにいたルシファーは倒れる直前で茜の体を支えることが出来た。
茜を横抱きに抱え直すと茜の顔色は悪かった。
「・・・恐らく、力の使い過ぎと極度の緊張、あとこれまでの無茶が祟ったためでしょう。」
「そうか。」
ラプラスの言葉に茜が相当無茶をしたことが窺えた。
それまで離れた場所にいたサタンやマモン、アスモデウス達も集まってきた。
「どうするのだ?」
「しばらくは一緒に過ごす。手を出すなよ。」
『了解』
ルシファーの命令に6人は一斉に答えた。
アスモデウスは興味津々に茜の顔を覗いている。
「ねぇ、ルシファー、遊ぶのはいい?」
「・・・元気になったらな。」
それだけ言うとルシファーは踵を返し、城の中に戻った。
城の奥にあるルシファーの私室にあるベッドに茜を寝かせ、使い魔に用意させた濡れタオルを茜の額に置いてやる。そして布団をかけてベッドの横にある椅子に座った。
「ラプラスの悪魔、お前は全知を司っていたな。」
「はい。私たちは『決定論』の概念に基づく知性です。」
『決定論』とはあらゆる出来事はその出来事よりも前の出来事のみによって決定
しているという立場。
その概念に基づく知性とは、世界全ての原子の位置と運動量を知る知性であり、その存在は原子の時間発展を計算することができ、その先の世界がどのようになるか完全に知ることが出来る、というものである。
ゆえに全知と呼ばれる存在である。
「では、いくつか聞きたいことがある。・・・茜の父親が俺と言うのは本当か?」
「はい、私が見て、茜たちに教えました。」
「そうか。では次だ。茜は―――――――?」
「!!・・・はい。その通りです。」
ラプラスは驚いた。
ラプラスが初めて茜と会った時に見た茜の過去で知ったこと。誰にも話さなかったことを短い時間で気づかれてしまったことに。
「そうか。助かった、礼を言う。」
「いえ、それよりどうしてお気づきになったのですか?」
簡単に気付けることでもない。
全知の者なら可能だが推測だけで分かることではないのだ。
「・・・魂の輝きがあいつに似ていたのだ。だからだろうな。」
ルシファーの悲しそうな顔にラプラスは何も言えなくなった。




