第33話 黒い翼
ひとまず話が落ち着いた2人は机を挟んで向き合う形で椅子に座っていた。
このイスと机はルシファーが使い魔に用意させたものだ。
「今日の昼間、俺の存在に気づいたのは茜だな?どうして分かった?」
「・・・言わないとダメ?」
普通の悪魔においそれとできる物でもないが、自分の手の内を進んで明かそうとは思えなかった。
「いや、だができれば聞きたい。」
ルシファーの答えは強制ではなかったが、その声は好奇心に満ちていた。
「・・・体内にある魔力を自分を中心に波紋を広げるように出して、強い力があれば感知できるようにしたんだ。だから、ベルゼブルがこの部屋を覗いていることも分かった。」
茜の言葉でベルゼブルの飼っている蠅が部屋の中にいることに気づいたルシファーはベルゼブルを呼んだ。
すぐに部屋へとつながる扉が開き、ベルゼブルは部屋の中に入ってきた。
「・・・申し訳ありません。ルシファー様。どうしてもその者が信用できなかったもので。ルシファー様、その者のいうことを信じるつもりですか?」
「・・・ベルゼブル、瘴気を全開にして茜に、その者に触ってみろ。」
「?・・・分かりました。」
ベルゼブルは六枚の黒い羽と角を出した。
茜はベルゼブルに向かって手を差し出した。その手をベルゼブルが掴んだ。
だが、何も変化が起きなかった。
「!!」
ベルゼブルが驚くのも無理はないだろう。
悪魔は瘴気に触れると自然と体が反応し姿形を変える。
ベルゼブルはこの魔界でも上位の存在だ。
そのベルゼブルの瘴気にあてられ何の変化もなく耐えられるものは限られている。
「私と同格か、それ以上というのですか?」
「茜、この半年ずっと魔界にいたのだろう。なぜ今まで来なかった?」
「・・・力が全て解放できなかったから。」
「それで、出来たのか?」
茜はルシファーの言葉に首を横に振った。
椅子に座っていたルシファーが立ち上がり、コツコツと近づいてくる。
ルシファーは茜の後ろに立つと手で髪を梳き、先ほど茜がルシファーに渡していた赤いリボンを茜に着けてやった。
「ベルゼブル、お前は他の五人を捕まえて死神と一緒にいろ。すぐに行くから。」
ベルゼブルは何も言わず一礼し、再び部屋から出ていった。
「ラプラスもクロアのところに戻ってあげて。」
「分かりました。」
茜に言われたラプラスもその場からポンッと姿を消した。
部屋の中には茜とルシファーだけが残った。
「茜、いつまで魔界にいるんだ?」
「・・・分からない。クロアに聞いてみないと。」
「そうか。では、行くか。」
ルシファーに手を握られ、バルコニーまで連れてこられた。
ルシファーは黒い一二枚の羽と角を出した。
「・・・綺麗。」
素直に思った言葉が意識せずに口から飛び出した。
「ははっ。菫と同じことを言うのだな。」
「お母さんと?」
「あぁ。また今度話してやる。」
暗に次があると言われて茜は嬉しくなった。
ルシファーは茜に向かって手を差し出した。
茜がルシファーの手を取ると、変化があった。
茜の背中に黒い八枚の羽と頭には二本の角が現れた。
「行くぞ。」
ルシファーと手を繋いだまま茜はバルコニーから飛び立った。
先ほどまで雲に隠れていた月も姿を現し、まるで2人を見守るようだった。




