第30話 見つめる先に
時を遡って、半年程前―――
魔界の中心、天に最も近い場所に立つルシファーの城の中。
コツコツと静かな廊下に足音が響く。
薄緑の癖のない綺麗な髪にオレンジがかった灰色の目をしている、紺色の礼装を着た青年だ。
男は扉の前に来ると服を整え、扉を開けた。
部屋の中には一人の男がバルコニーにつながる窓の前に立ち、空を見上げていた。
「ルシファー様。」
その声に部屋の中に居た金髪紅目の黒い礼装を着た青年が振り返った。
紗蘭と、
腰にある剣に着けられた鈴が鳴る。
「ベルゼブルか。どうした。」
ベルゼブルと呼ばれた青年は、今日、最下層で死神が現れたこと、そしてその傍に子供が二人いたことを話した。
その話を聞いたルシファーは呆れたように溜め息を吐いた。
「また、攫ってきたのか。」
「それが、どうも様子がおかしかったようです。男に襲われかけている子供を助けたとか・・・」
ベルゼブルの歯切れの悪い回答にルシファーも首を傾げた。
ルシファーの知る死神がそのようなことをするはずがなかったからだ。
「助けた?あいつがか?・・・ベルゼブル、確認できるか?」
「はい。今、蠅たちに捜索させています。」
「わかった。情報を入手したら教えろ。」
「かしこまりました。」
ベルゼブルは一礼して部屋を出ていった。
それからしばらくは全くと言っていいほど情報がなかった。
一か月ほどして次第に目撃情報が増えていった。
何故かよく事件に巻き込まれるようでその場に向かわせたマモンやレヴィアタン、アスモデウスも死神を確認したそうだ。
そしてその近くには子供が毎回居たとの報告が上がった。
だが気配を消して近づこうとしても自分たちに気づいたかのようなタイミングで姿を消してしまうという話だった。
そして先日、ベルゼブルが蠅たちを使って姿を記憶させた。
その写真を見た時、死神よりもその横にいる子供に目が行った。
金色がかった長い髪に赤いリボンをつけた女の子だ。その子を見た瞬間一人の女が重なった。
忘れたくても忘れることのできない強い輝きを持つ人間の女。
ある日突然俺の前から姿を消した憐れな人間。
ルシファーは首を振って考えるのをやめた。
「ベルゼブル。」
「はい、何でしょう?」
近くでルシファーに見せる映像を整理していたベルゼブルはすぐに返事をした。
「今、あいつは何処に居る?」
丁度、映像を整理していたため、ベルゼブルはすぐに今現在の死神の位置を掴むことが出来た。
「死神なら上層の城下町で女の子と一緒にいます。」
「・・・ちょっと出てくる。ここは任せた。」
「承知しました。」
ルシファーはバルコニーに出た。
そして、真っ黒な一二枚の羽をだし城下外に降り立った。
ルシファーは羽をしまい気配を消し、上手く人ごみに紛れ込んだ。
しばらく道なりに進むと死神の姿が見えた。
すぐにでもあいつを殺しに行きたかったが、隣にいる子供を見つけ、気づかれないように物陰に隠れた。
物陰から子供を見て驚いた。
魂が、魂の輝きがあいつと似ていたからだ。
「・・・菫。」
無意識のうちに呟いた言葉は誰にも聞かれることは無かった。
もう一度子供を見ると、その子供はこちらを見ていた。
気づかれたとは思わない。
かなりの距離がある上に死神に気づかれないように姿を消しているのだからあんな子供に破られるはずがない。
気になってもう一度見ると、子供は死神に話しかけていて、死神が頷き、死神の造る影の中に消えた。
ルシファーは慌てて気配を探ったが掴めなかった。
これ以上は収穫がないと諦め、城に戻った。




