第18話 ラプラスの眼
「・・・ここは?」
目を開けると、見たことのない部屋だった。
「目が覚めましたか、茜?」
「アテナ?・・・っ!試練は?」
声のした方に向けば、アテナが心配そうな顔をして顔を覗き込んでいた。
なんで、そんな顔をしているのだろうと記憶をたどっていくと、蒼がオーディンに飛ばされ、二人ともほとんどの力を使い果たしていたのを思い出した。
そこから後の記憶が思い出せない。慌てて体を起こし、結果を聞くと思いがけない人の声が聞こえた。
「終わった。お前たちの勝ちだ。」
オーディンだ。
彼は椅子に座って本を読んでいた。
「よかった。」
オーディンの言葉に安心し、ホッとしていると、
「よかった、ではありません。どうしてあんな無茶をしたのですか!」
アテナに怒られた。
「・・・だって、知りたかったから。」
「・・・本当に心配したのですよ。あなたたち姉弟は本当に心配ばかりかけて・・・」
茜がポツリと言うと、アテナが茜を抱きしめた。
アテナの声からは本当に心配していたことが窺えた。
「ごめん、アテナ。」
だから、茜は謝った。
一年前アレスと初めて会った時、心配かけないように強くなると決めたのだから。
蒼を護ると誓ったのだから。
「で、お前たちは何が知りたくてここまで来たんだ?」
「・・・家族のこと。・・・蒼は?」
それまで茜とアテナの様子を窺っていたオーディンがここに来た目的を思い出させてくれた。
『家族』と答えてたった一人の家族のことを思い出した。
茜が問いかけると、アテナも茜から体を離した。
「あそこにいますよ。ジブリール、蒼を連れてきてください。」
アテナが言うとジブリールは蒼を呼びに行ってくれた。
蒼はすぐに茜の座っているベッドのところに来た。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。蒼は怪我は?」
「治してくれた。」
茜が問うと、蒼はジブリールの方を一度見て答えた。
蒼が来たのと同時にクロアも部屋に入ってきた。
「さて、家族について調べに来たといったね。君たちの父親のことかい?」
「うん。」
誰も父親のことを調べに来たなど話していないが、この男なら知っていてもおかしくないと、素直に頷いた。
クロアの問いに茜と蒼が頷くと、アテナ達が皆、クロアの方に向いた。
クロアは仕方がないなと肩を落とし、何もない空中に向かって呼びかけた。
「ラプラス、いるかい?」
「はい、何でしょう?」
すると空中からポンと小さな少女が現れた。
その少女は、身近にあった茜の居るベッドに足を下した。
「この子たちの父親を検索してくれ。」
「分かりました。・・・茜の父親は、ルシファーです。蒼の父親は、ミカエルです。」
少女はクロアの言葉に頷き、目を閉じた。
そして目を開け、茜たちの方を見ながら二人の父親の名前を口にした。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
あまりの情報に茜も蒼も言葉を返せなかった。
神にもっとも愛され、一二枚の羽を持つという元大天使長ルシフェル、その後堕天使となり魔界の王として知られるルシファー。
ルシファーの双子の弟で今の大天使長ミカエル。仲の悪い兄弟で有名だ。
「・・・・・堕天使の長と大天使長の子供ですか。」
他の神々も信じられないようだ。
「間違っている可能性は?」
「ありえません。我々は全知を司る悪魔です。オーディン様もご存じでしょう。私の眼の信憑性は『上に投げれば下に落ちる』と言うものです。」
『上に投げれば下に落ちる』これは〝絶対〟を意味する。
ラプラスの悪魔、少女は自信満々に言い切った。
「ミカエルの子供!?・・・・は、ははは、あのミカエルが子供を。」
ジブリールは今にも転がりだしそうな勢いで笑っている。
「ジブリール、君も知らなかったのかい?」
「知らないよ。でも、蒼の父親がミカエルか。これは面白くなりそうだ。」
ジブリールは新しい玩具を見つけた子供のように笑っていた。
その隣で茜と蒼は静かにその様子を見ていた。
「茜、蒼。会いたいのですか?」
普段から感情をあまり表に出さない二人だが、アテナだけはどうしてかそんな二人の気持ちによく気づいていた。
「・・・うん、会ってみたい。だけど、まだ会えない。」
「そうだね。もっと強くならなくちゃ。」
茜の言葉に蒼が同意を示した。
「どうして会えないんだい?」
それを聞いていたクロアは二人に理由を問うた。
「・・・ゼウスとの約束があるから。」
クロアはそんな二人の様子を見て何かを思いついたような顔をしていた。
「とりあえず、一度宮殿に戻りましょう。ゼウス様も心配していますから。」
アテナが取り敢えず話を終わらせ、茜たちに帰宅を促した。




