第17話 vsオーディン
ジブリールは男の残っている部屋に戻ってきていた。
「・・・オーディン。負けちゃった。君にまで仕事を回してごめんね。」
「・・・構わない。ゲーデはともかくお前の試練までクリアした奴らだ。相手に不足はない。」
ジブリールの申し訳なさそうな声にも男は本から視線を離さず答えた。
「そう言ってくれると助かるよ。ちょっと、面白そうだからね。あの子。」
ジブリールは部屋にある画面いっぱいに映った蒼を見て笑う。
「ふん。」
ジブリールには既に申し訳ないというような感情は見えず、玩具を見つけた子供のような声をしていた。
オーディンは今まで読んでいた本から漸く目を離し本を机の上に置き、椅子から立ち上がり部屋から出た。
「セン、ソウ。次の相手は手強いですよ。」
最初に約束したようにアテナも茜たちのことを仮の名前で呼んでいた。
アテナが次の部屋に行く途中に警告してくれた。
次の部屋は闘技場のような広い空間だった。
向こう側には一本の槍を携えた男が立っていた。
男には片目がなく、青いマントを羽織り、黄金の鎧を着ている。
片手には黄金の兜が持たれていた。
男は堂々とした出で立ちでどっしりと茜たちを見据えていた。
「最高神オーディンの名において私の前に立つ者を挑戦者として認めよう。」
男は茜たちが来たのを見て厳かに宣言した。
茜と蒼は部屋の真ん中まで出ていった。
「さて、私の試練は『力』だ。お前たちは私に『力』を示せ。私に一撃でも入れられればお前たちの勝ちだ。その他に制限はない、ルールは分かったか。」
「分かった。」
茜と蒼は頷き、オーディンを見た。
「では、始めよう。・・・まずは挨拶代わりだ。」
そう言ってオーディンは手に持っていた槍を茜たちに向かって投げた。
「グングニルの槍!?」
アテナが後ろから叫んでいるのが聞こえた。
「屈んで、お姉ちゃん!!」
けれども槍は茜たちを逃がさん、と追尾するように方向を変えた。
蒼に手を引かれ茜がしゃがみ込んだ。
槍が当たる、と誰もが思い外野が目を閉じた。
グングニルの槍は決して射損なうことは無く、当たれば必ず勝利をもたらす。
ドォーンという音が響き、砂埃が舞った。
音が響き、アテナ達外野が目を開けると、槍は茜たちを貫いて、いなかった。
槍は空中で止まっており、槍と茜たちの間には茜たちを守るように包んだ蒼の白い翼があった。
蒼がゆっくりと翼を動かし、立ち上がった。
それから茜も立ち上がり、茜の背にも蒼とは違う黒い翼がついていた。
「ソウ、やっぱり君は天使(仲間)だったんだね。」
横のほうからそんな声が聞こえてきた。
気づいていたと言わんようなその言葉に蒼は胸の内で舌打ちをした。
「・・・・・・」
蒼はジブリールのほうを見るだけで何も言わなかった。
「ジブリール、私の戦いの邪魔をするな。」
「ごめんごめん、つい口出ししちゃった。でも殺したら駄目だよ。」
「・・・ふん。弱ければ死ぬだけだ。・・・邪魔が入ったが続けようか。」
茜と蒼はそのまま翼を羽ばたかせオーディンに向かって突っ込んでいった。
蒼がオーディンに攻撃を仕掛けようとした瞬間、茜の目に先ほどオーディンが放った槍が蒼に向かって飛んできているのが見えた。
それと同時にオーディンは魔術に長け、グングニルの槍は決して敵を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手に戻るということを思い出した。
「っ!!」
茜は蒼と槍の間に飛び込み、力を羽に集約させ羽で防いだ。
先ほどは茜と蒼の力を合わせて防いだが、今度は茜だけだ。
「お姉ちゃん!!」
「気を、抜くな!」
蒼は一瞬、オーディンから気を逸らした。
その隙にオーディンの拳が蒼を襲った。
蒼はその一撃を避けることも逸らすこともできず真正面から直撃した。
蒼はそのまま壁にぶつかった。
「ソウ!・・っ!!」
「君も気を逸らしていては勝てんぞ。」
オーディンの声が後ろから聞こえる。
茜は今ある限りの力をすべて集め槍を跳ね返した。
「はぁ、はぁ、・・・」
茜は槍を跳ね返した後、後ろを振り返ることもせずすぐに蒼のもとに向かった。
「・・・大丈夫?」
「っ、ちょっとやばいかも・・・回復するのにほとんど力使っちゃった。」
「うん、私ももう力は残ってないから次で最後にしよう。」
茜と蒼は立ち上がり最初にいた場所に戻った。
「・・・力尽きたか。」
「・・・期待に添えなくて御免なさい。次で最後です。」
その言葉にも声にも絶望はなく、まだ希望は残っていた。
茜と蒼は最初と同じように突っ込んでいった。最初よりもスピードを上げて。
だが油断からか、オーディンはそのことに気づいていない。
「同じ手か。」
オーディンが呆れたように呟いた瞬間さらにスピードを上げて、消えた。
「消えた!?いや、上か。」
オーディンが上を見上げると蒼がいた。
蒼は翼を大きく広げ、最後の気力を振り絞り羽を打ち出した。
蒼の打ち出した羽は鋭くオーディンを襲う。
オーディンはそれを手に戻ってきた槍で防いだ。
だが、その途中蒼の顔に笑み浮かんだ。
オーディンは蒼の笑みを見て、初めて気づいた。
もう一人がいないことに・・・・
そして、その直後オーディンが崩れた。
「なっ!?」
オーディンは攻撃を受けた方を振り返った。
その先には、茜が立っていた。
一撃でも入れたら勝ち、そのルールに基づいてこの瞬間茜たちの勝利が確定した。
そして、その後茜は倒れ気を失った。
「お姉ちゃん!!」
蒼はすぐに茜のもとに飛んでいった。
アテナはすぐに茜と蒼のもとに走り寄った。
蒼が気を失った茜を揺すっている。
アテナは初めて蒼が動揺している姿を見た。
「蒼!!」
そんな蒼の姿に驚いていたアテナだがすぐに我を取り戻し、蒼の手を止めた。
「アテナ。お姉ちゃんが!!」
「蒼、茜は気を失っているだけですから落ち着いてください。それに蒼も・・・」
「落ち着きたまえ、少年。」
突然、蒼の後ろから声がしたと思えば、蒼はそのまま気を失い、倒れた。
「クロア、何を!」
アテナは驚いて、その声の主を見上げた。
「ただ、大人しくして貰っただけだよ。それより今のうちに治療した方がいいのではないかね。」
ハッと気づいてアテナは茜を見た。
「茜は私が見よう。ジブリール、ソウの治療をしてやってくれたまえ。アテナ嬢、君も向こうを。」
クロアが蒼のほうを見ながら言うと、
「分かりました。茜を頼みます。」
クロアが茜の治療をしていると、近づいてくる気配があった。
「その娘、まだ完全に力を開放できていないだろ?あっちの小僧もだが。」
「オーディン、気づいていたのかね。とはいえ、それも仕方のないことだろう。一年前まで人間として暮らしていたのをこの世界(神界)にいた一年でここまで持ってきたのだから。」
「・・・人間だと!?」
クロアの言葉にオーディンは驚きを隠すことが出来なかった。
「おや、それには気づかなかったのかい。この子は人間と悪魔のハーフだよ。もっともただの悪魔ではないようだが。」
そう言って、クロアは茜に生えている黒い翼を見た。
オーディンはしばらく気を失っている茜を見ていたが、興味を失ったのか踵を返して離れていった。
「さて、治療は終わったので後は目が覚めるのを待つだけだ。」




