第29話 天からの洗礼
まだ夜の匂いがしっとりと残る、日の出前の温泉都市フェーネ。
東の空がわずかに白み始めたばかりの静寂の中、フェルは旅立ちの準備を整え、正門の前へと足を向けていた。
「フェル様、お気をつけて。」
ヒョウが凛とした佇まいで一礼し、その隣でビッツが少し潤んだ目をしながら元気よく声をかける。
「あぁ、俺がいない間、フェーネをよろしくな、ビッツ。あの計画も進めておいてくれ。」
「はい。任せてください。」
ふわりと空中に浮遊しながら、フィーネが余裕綽々な笑みを浮かべて腕を組む。
「心配しなくても、このフィーネ様が留守の間もしっかり見張ってあげるから大丈夫よ!」
「それもそうだな。」
フェルは仲間たちの温かい顔ぶれを順番に見渡し、これまで自分たちが守り、育ててきたこの街の光景を目にしっかりと焼き付けた。
(……もしかすると、これが最後になるかもしれないんだよな。……出発の前に、もう少しあの温泉にのんびり浸かっておけばよかったかもなぁ……。)
そんな緊張と自嘲が混ざるような思いを胸に抱きつつ、フェルはふうと小さく息を吐き、再び前を向いて正門へと歩き出す。
(それにしても……ヘルメス。あれから、一言も口を利いてくれなかったな。……やっぱり、俺に怒っているよな。せめて、発つ時くらいちゃんと言葉を交わしたかった……。)
後悔と切なさが入り交じった澱んだ感情を飲み込みながら、フェルが正門の大きな石柱を通り過ぎようとした、その瞬間だった。
朝霧の向こう側に、小さな人影がぽつんと立っているのが目に入った。
フェルはハッとして足を止め、目を凝らしながらゆっくりと近づいていく。
そこにいたのは――。
「ヘル……メス……?」
そこに立っていたのは、少しだけ頬をぷうと膨らませ、両手をぎこちなく体の横で握りしめているヘルメスだった。
普段の整った物腰や冷静さはどこへやら、今の彼女はまるで怒られたことを気にする子供のように、どこか気まずげで、それでいて切なさに満ちた表情を浮かべている。
フェルはその場にピタリと立ち止まり、二人の間に、冷たい朝の風だけが吹き抜ける静寂が流れた。
「……フェル。」
先に沈黙を破ったのは、ヘルメスだった。
彼女はうつむきがちに、けれど震える声で呟く。
「……私は、まだ納得してない。」
その言葉に、フェルは胸が締め付けられるような罪悪感を覚え、わずかに視線を足元へと落とした。
「……だよな。ごめんな、ヘルメス。」
「……でも。」
ヘルメスは顔を上げ、潤んだ瞳で真っ直ぐにフェルを見据える。
その声音には、どうしようもない諦めと、それでも抑えきれない想いが混ざっていた。
「……でも、それでも、行くんでしょ。」
「……あぁ。」
フェルが顔を上げると、ちょうど東の空から昇ってきた眩しい朝日が、彼の決意に満ちた真剣な表情を黄金色に照らし出した。
「………。」
(……あぁ、ずるいよ、フェル。そんな真っ直ぐな顔をしないでよ。……そんな顔をされたら、もう何も言えなくなっちゃう……。)
ヘルメスの中で、葛藤の濁流が渦巻いていた。
これ以上言葉を探す必要なんてなかった。彼女はたまらず一歩前に踏み出すと、そのままフェルの胸元へと飛び込み、ぎゅっと力強く抱きついた。
「っ……!」
「……帰ってきて……絶対に……!」
フェルもまた、戸惑いながらも愛おしそうに両手を回し、ヘルメスの背中を優しく、そして力強く抱きしめ返した。
「……あぁ、約束する。」
(……フェルの腕の中、すごく温かい……。)
しばらくの間、お互いの鼓動が聞こえるほどの距離で抱き合ったあと、フェルは名残惜しそうに、ゆっくりとヘルメスの体をそっと離した。
「それじゃあ、行ってくる。」
「うん……気をつけて……。」
涙をこらえながら健気に微笑むヘルメスに見送られ、フェルは正門の外へと一歩踏み出す。
そして、ぐっと気を引き締めると、その背中からどす黒くも美しい紫紺の毒の魔導を噴き上がらせ、一対の強靭な龍の翼へと変化させた。
バサァッ! と風を切り裂く圧倒的な羽音が響き渡る。
直後、フェルの身体は彗星のごとく凄まじい加速を叩き出し、朝霧に包まれたフェーネの街の上空へと一気に飛び立っていった。
地上では小さくなっていくフェルの背中を、ヘルメスは両手を胸の前で固く握りしめながら、その姿が見えなくなるまでずっと、ずっと見送り続けていた。
その日の昼下がり。
大陸南部、フローネ湖の岸に栄える港町カイネ。
活気ある人通りの喧騒から少し離れた、古びた酒場の隅のテーブル席に、リゼットの姿があった。
指定された場所へと足を踏み入れたフェルが彼女の姿を見つけると、リゼットはすぐにこちらに気づき、人懐っこくパッと明るく手を振る。
「お疲れ、四日ぶりだねぇ〜フェルっち。」
「フェルっちて……なんだそのあだ名は。」
「まぁ、いいじゃないか。これから一緒に命がけの依頼をこなす相棒じゃん。」
「……まあ、そうだな。」
突拍子もないあだ名にフェルはわずかに呆れたような苦笑いを浮かべたが、リゼットのどこか堂々とした明るさに、張り詰めていた緊張が少しだけ和らぐのを感じていた。
「それで? こんな誰も寄りつかない酒場を指定したのには、何かちゃんとした理由があるんだろ?」
フェルが問いかけると、リゼットは「わかってるね〜。」と言いばかりに悪戯っぽくウインクをして、パチンと指を鳴らした。
フェルは促されるまま、彼女の隣の木製の椅子に腰を下ろす。
「これから向かう『ルミネーア』に行く前に、いくつか仕入れておいた情報を伝えておこうと思ってね。」
「そう言うことか……。でも、確かあそこは生きて帰った者がいない『鏖殺の遺跡』じゃなかったか? そんな場所の情報なんて、本当にあるのか?」
「ふふん。あるんだなぁ〜これが。まっ、正確には四百年前の古い文献と、最近の目撃証言をかき集めたものだけどね。」
リゼットはそう言うと、背負っていた年季の入ったバックからゴソゴソと分厚い古文書を取り出し、ペラペラとページをめくってとある一節をフェルに見せた。
そこには、分厚い雲を突き抜けて宙に浮かぶ巨大な建造物――ルミネーアから、まるで無数の槍のような攻撃が地上へ向けて降り注いでいる不気味な挿絵が描かれている。
「古文書にはこう記されているよ。『かの遺跡に挑むもの、何人たりともその侵入は許されない。天より降り注ぐ大いなる鉄槌にその身を貫かれん。』――ってね。」
「文字通りに受け取るなら、ルミネーアに近づくだけで、何か謎の攻撃が容赦なく降り注いでくるってことか?」
「そういうこと。あと、近くの漁村の人が言っていたんだけど。」
リゼットは少しだけ真剣なトーンに切り替え、声を潜める。
「その人曰く、以前、大型のワイバーンがルミネーアの方角の空域に飛んで行ったらしいんだ……。でも、近づいた瞬間どこからともなく飛んできた『光の針』が、一瞬にしてそのワイバーンの頭を消し飛ばしたんだって。」
「……一瞬で頭を消し飛ばしたって、それじゃあまるで狙撃じゃないか。」
「まさにそんな感じだよね圧倒的アウトレンジからの精密射撃。おまけにもう一つ厄介なことに、ルミネーアは『一箇所の入り口』を除いて、外からの侵入者を完全にシャットアウトする強固な魔導の結界で全体が守られているってこと。」
(……侵入ルートを一箇所に絞られた上で、 ルミネーアからの『一方的な精密射撃』。……これは、想像以上にえげつないな。)
フェルが腕を組んで険しい顔つきで思考の海に沈んでいると、リゼットはケラケラと楽しげに笑いながら、コップの水に口をつけた。
「作戦はあるのか?」
「え?ないよ。」
「・ ・ ・ へ?」
そのあまりにも清々しいまでの即答に、フェルは反射的に動きを止め、マヌケな声を漏らして彼女を凝視した。
「だって、考えてもしょうがないじゃん? だから結論は一つ!」
リゼットは満面の笑みを浮かべ、両こぶしをグッと握りしめて力強く宣言する。
「ズバリ、正面突破あるのみ!」
「はぁあぁあぁぁあ!?!?!?!?」
酒場の隅っこに、フェルの絶叫が盛大にこだまする。
「ちょっと静かに……。」
リゼットが指摘すると、フェルは気まずそうに咳払いをした。
「す、すまん……声が出てしまった。」
「まぁ、反応としては百点満点だね。」
リゼットはそう言うと、テーブルの上に肘をつき、真剣味を帯びた緑の瞳でフェルを真っ直ぐに見据えた。
「対策になるかはわからないけどさ、フェルは魔導の流れや気配は、敏感に感知できる?」
「ん? ……ああ、魔物だから周囲の魔導の揺らぎくらいは十分に捉えられるけど……それがどう対策に繋がるんだ?」
フェルが怪訝そうに眉をひそめると、リゼットはふっと不敵な笑みを浮かべた。
「あの漁村でね、そのワイバーンが撃ち落とされた時の残骸を見せてもらったのよ。そしたら、骨や肉の断面に微量な魔導の痕跡が残っていてね。あの遠距離狙撃は、物理的な矢や弾丸じゃなくて『魔導による狙撃』だってことが分かったの。」
「魔導による攻撃……ってことは、攻撃の瞬間に必ず周囲の魔導が急激に収束する。」
「ビンゴ! さすがフェルっち、頭の回転が早いね。」
リゼットはパチンと小さく手を叩き、さらに言葉を続ける。
「つまり、ルミネーアに近づいてあの狙撃が来る直前、空間の魔導の流れに絶対的な『予兆』が生まれるはずなのよ。だから、それを事前に察知できれば……気合と反射神経でどうにかこうにか避けることができるはず!」
「完全に個人の感覚と反射神経で避けることじゃねぇか……。」
「そういうこと!」
よくお分かりで、と言わんばかりに、リゼットはにっこりと満面の笑みを浮かべてびしっと親指を立ててみせた。
あまりのスパルタかつ超力技な作戦に、フェルは遠い目をしながら頭を抱えたくなる衝動に駆られる。
(精密射撃を、肉眼と感覚だけでギリギリ回避しろって……。普通に考えて無理ゲーだけど、まぁ、できなくはないか……。)
フェルが深々とため息をつきつつも、どこか覚悟を決めたようにフッと口元を緩めると、リゼットは楽しげに立ち上がった。
「さぁ、行こう! 私たち二人で、あの空の向こうの偉業を成し遂げるんだ!」
リゼットは眩しいほどの快活な笑みを浮かべ、未来を切り開くようにスッと右手を差し出した。
「おう!」
フェルはその手を取り、力強く、そしてしっかりと握り返す。
その瞳には、不安を押し潰した先にある確かな決意の光が宿っていた。
港町を離れ、二人がたどり着いたのは、荒涼とした風が吹き荒れる断崖絶壁の岸壁だった。
崖の下に広がるフローネ湖は、ただの湖水とは思えないほど広大で、まるで底知れぬ海のように紺碧の水をたたえ、どこまでも続く地平線の彼方へと溶け込んでいこうとしている。
そして、その圧倒的な大空のはるか上空。
幾重にも重なる純白の雲の切れ間から、あたかも神々の領域を示すかのように、静かに、しかし圧倒的な存在感を放ちながら『ルミネーア』が浮かんでいた。
古の神秘を纏ったその巨大な影は、近づく者すべてを威圧するかのような重厚な気配を漂わせている。
「それじゃあ……行くよ!」
リゼットの澄み切った合図とともに、二人は地を蹴って勢いよく走り出し、崖の先端から一気に身を投げ出した。
落下していくその刹那、リゼットとフェルは背中に強靭な龍の翼を現し、風を切り裂きながら重力に逆らうように急上昇。
ルミネーアが待つ天空の回廊へと飛び込んでいく。
「フゥーッ! やっぱ、この風を切って飛ぶって最高に気持ちがいいやぁ!」
リゼットは心地よさそうに両手を広げ、周囲に広がる雲海を見渡しながら無邪気に声を弾ませる。
「リゼット! 入り口はこの方向で合っているのか!」
フェルは翼を大きく羽ばたかせながら、風圧に声を押し潰されないように叫び返す。
「うん!あたしが事前に確認したから、方向は間違い無いはずだよ!」
「わかった!俺なら狙撃されても再生できる!俺が先頭を切るから、お前は少し間隔を空けてついて来い!」
「あ、ちょっと待って、フェルっち!」
リゼットの制止の声を背に受けながら、フェルはさらに加速し、空間の気配を研ぎ澄ませる。
飛翔しながら、フェルは右手の人差し指を軽く宙に走らせた。
その指先から、冷たく研ぎ澄まされた毒の気配が霧のように立ち込め、音もなく『紫俠』の刃へと形を変えていく。
紫俠の刃は、不気味なほどの気高さを纏いながら、キィン……と鋭い金属音を響かせて天空から降り注ぐ太陽の光を美しく反射した。
――静寂が、世界を支配する。
空気はどこまでも澄み渡り、遥か下方に広がる雲は綿菓子のように穏やかで、ただ心地よい風だけがフェルの頬を優しく撫でていく。
まるで、これから訪れる悪夢のような死の気配を隠すかのように、世界はあまりにも平和だった。
その、ほんの一瞬の静寂の隙間。
フェルの全身の鱗が逆立つような、強烈な悪寒が背筋を駆け抜けた。
(――来るっ……! 狙撃だっ……!!)
ルミネーアの白亜の陰、その一瞬の空間の歪む。
そして、フェルが限界まで見開いた瞳の網膜に、ルミネーアの一点から閃いた『一筋の白い光』が焼き付いた。
それは雷光よりも速く、瞬きすら許されない圧倒的な速度で、こちらへ直進してくる。
(……っ!)
フェルは一気に身体を翻そう体をひねる。
しかし、その思考のスピードすらも嘲笑うかのように、世界が急速にスローモーションへと落ち込んでいった。
光の弾丸は、空間の気流を焼き切り、音をも置き去りにして進む。
気づけば、それはフェルの鼻先に到達していた。
――タンッ!
澄み切った大気の中に、乾いた破裂音が残酷に響き渡る。
次の瞬間。
フェルの頭部は、グチャッ! という耳を塞ぎたくなるような凄まじい肉の潰れるような音とともに、文字通り一瞬で爆散し、乳白色の飛沫となって大空に霧散した。
思考する間すらなかった。
フェルの体は、まるで折れた人形のように力が抜け、重力に引かれるままにただの肉塊のように真下の雲海へと真っ逆さまに落ちていく。
「――っ! フェルっち……!?」
ほんの少し後方を飛んでいたリゼットが、落ちていくフェルを肉眼に収めてコンマ数秒。
彼女のすぐ横を、すさまじい熱量を纏った白き光の弾丸が掠め、風圧だけで彼女の美しい金髪を激しく揺らした。
「……チッ!」
冷徹な死の気配を肌で感じ取ったリゼットの背筋に、冷たいものが走る。
迷っている暇など一秒たりともなかった。
リゼットは反射的に蛇行しながら加速する判断を取る。
しかし、彼女が飛び去ったその残像を追うように、すぐ後ろの空間を、次なる光の弾丸が容赦なく穿ち抜いていく。
(クソッ……避けきれない……っ!)
天空の城塞から容赦なく降り注ぐ無慈悲な死の雨の中で、リゼットは冷や汗を流しながら、必死にその場を逃げ惑う。
無数の光の弾丸が空間を切り裂き、彼女のすぐ脇を次々と通り過ぎていく。
もう一瞬の油断すら許されない絶望的な弾幕の嵐。
リゼットは歯を食いしばり、決死の回避行動を続けたその時――。
ふと、背後から底知れぬ漆黒の気配が爆発的に膨れ上がった。
「――我が権能を持って、全てを溶かし尽くせ。」
空間を揺るがす力強い声が響いたかと思うと、先ほどまで頭部を失い雲海へ消えていったはずのフェルが、頭部を完全に再生させながらリゼットの前に滑り込むように現れた。
『万象喰らう毒蝕!』
フェルが右腕を大きく振りかざすと、その指先が異形のごとくドロリと変化し、周囲の光をすべて飲み込むほどに禍々しい紫黒の液状へと変貌する。
直後、彼の右腕を起点として、まるで暴風雨のように荒れ狂う巨大な毒の竜巻が渦を巻いて発生した。
それはまるで、空間そのものを抉るように凄まじい回転を上げて広がりを見せる。
その刹那、リゼットの背後から容赦なく迫っていた数々の白き光の弾丸が、その紫黒の渦中へと飛び込んだ。
だが、圧倒的な熱量と魔導を秘めたはずの光線は、猛毒の竜巻に触れた瞬間、まるで酸に浸かる雪のようにジュウッと音を立てて急速に形を失い、完全に無へと溶かされて消滅していった。
「フェルっち……!」
「ごめん、油断した。」
リゼットの目の前で、フェルは首をコキリと軽く鳴らしながら平然と言い放つ。
その顔には、先ほど頭部を吹き飛ばされた痕跡など微塵も残っていなかった。
リゼットは彼のその不死性と圧倒的な力に微塵の動揺も見せず、むしろ頼もしい相棒を見るような強い瞳で頷く。
リゼットは、フェルがただの魔物ではないことを最初から知っているのだ。
「まったく、派手にやられた直後によく復活できるよね! でも、助かったよ!」
二人の頭上からは、いまだに容赦のない猛撃が降り注ぎ続けている。
ルミネーアから放たれる無数の光の弾丸は、まるで終わりのない豪雨のようにフェルが放つ毒の渦へと次々に飛来するが、そのすべてがフェルの右腕から渦巻く『万象喰らう毒蝕』の圧倒的な包容力によって無慈悲に捕らえられ、次々と無効化されていく。
紫黒の竜巻が光を飲み込むたびに、周囲の大気が激しく震え、眩い閃光が暗い雲海を照らし出した。
「便利な技を持ってるじゃん!」
「便利と言うか……これ以外にあの超長距離狙撃を防ぐ手立てがないだけだ。……この渦の維持にはかなりの魔導を消費する……正直、長時間はもたない!」
激しい魔導の衝突に歯を食いしばりながら、フェルは一筋の冷や汗を頬に伝わせる。
どんなに強力な能力であっても、無制限に使い続けられるわけではない。
「これからどうする?」
「幸い、この毒の渦が盾になっている間は向こうからの視界も防がれているはず。……この弾幕の切れ目を狙う。一気に間合いを詰めるぞ!」
「了解!」
リゼットはニヤリと不敵に笑うと、全身の筋肉を緊張させた。
天空にそびえ立つ遺跡からの無慈悲な銃撃と、すべてを溶かす漆黒の毒渦が激しくぶつかり合う極限の空域。
二人は、死の雨を潜り抜けるための決死の突入の瞬間を、静かに、そして鋭く伺い続けていた――。
次回 第30話 待ち人




