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第18話 北地邪竜決戦 その1

 「行くぞ!!」


バシュンッ!!


次の瞬間――

フェルの身体が、弾丸のように飛び出した。

竜の翼が猛烈な風を巻き起こし、地面の砂埃を吹き飛ばす。

そして、そのままフェルは一直線に邪竜が待つ瘴気の渦へと突入していった。


バフッ!!


フェルが濃密な瘴気を突き抜ける。

視界を覆っていた黒紫色の霧が一瞬で晴れ、視界に広がったのは――

かつて妖狐族の里があった場所であった。

崩れ落ちた建物。

枯れ果てた木々。

黒く変色した大地。

そして――


「……!」


ヒュンッ!!


その瞬間、一筋の魔導(マナ)が下方から凄まじい速度で飛来する。


いや、ただの魔導(マナ)ではない、魔導(マナ)を圧縮して作られた、一つの塊。


魔弾だった。


「はぁっ!」


フェルは飛行速度を一切落とさず、迫り来る魔弾へ視線を向けると――


紫俠(シキョウ)を抜き放った。


キィンッ!!


すれ違いざまに、魔弾が真っ二つに両断される。そして、フェルの左右を通り抜けた魔弾が、そのまま後方で爆ぜる。


「これは……お熱い歓迎だな。」


フェルはそう呟きながら、先ほどの魔弾が飛んできた方向へ視線を向ける。


そこには、一体の竜がいた。

黒く、ギザギザとした皮膚。

ところどころが朽ちたようにボロボロになった巨大な翼。

大地を抉るほど鋭利な爪。

そして、鋭い刃物を思わせる長い尾。

その巨体は、かつて妖狐族の里が存在していた場所に横たわっていた。

まるで、ここが自分の領域だと言わんばかりに。

そして何より。

フェルを見つめるその目は、明らかに自分よりも格下の存在を眺めるような、挑発的なものだった。


「…………。」


フェルは、その竜を睨み返す。

邪竜ドルガロ。


(完全に俺を舐めてるな。)


フェルは口元を僅かに吊り上げた。


「なら……好都合!」


フェルは紫俠(シキョウ)へ視線を落とす。

脳裏に浮かぶのは――

出発直前。

この剣を手渡してくれたヘルメスとの会話だった。



「……毒の魔導石を、嵌め込みました。」


「毒の魔導石?」


「はい……。」


 ヘルメスは頷く。


「フェル様の魔導(マナ)と相性がいいものを選びました。魔導(マナ)を流せば……所有者の毒の魔導(マナ)を増幅してくれる……はずです。」



やがて、フェルは頷き、


「……試させてもらうよ。」


そう呟きながらフェルは紫俠(シキョウ)へ手をかざす。

すると、柄に埋め込まれた紫色の魔導石が、淡い光を放ち始めた。


「……!」


次の瞬間。


ブワァッ!!


紫俠(シキョウ)の刀身から、魔導(マナ)が炎のように噴き上がった。そして、まるで毒そのものが燃え上がっているかのように、紫色の魔導(マナ)が刀身を包み込んでいく。


「……なるほど。」


フェルは紫俠(シキョウ)を握り直す。


「こいつは……想像以上だな。」


その姿を見たドルガロは――


グルルル……。


と喉の奥を震わせる。まるで、フェルの力を嘲笑うかのように。


「……上等だ。」


次の瞬間、フェルの翼が大きく開く。


バサァッ!!


「行くぞ、ドルガロ!」


バシュンッ!!


フェルの身体が、一気に急降下する。


「――!」


風を切り裂きながら、紫俠(シキョウ)を振り上げる。

そして、そのまま、ドルガロの巨体へ向けて――


「はぁぁぁっ!!」


ズバァッ!!


刀身を振る。

しかし――


キィィン!!


「……っ!」


ドルガロの尾が、フェルの一撃を真正面から受け止めた。

硬く、鋭利な尾と紫俠(シキョウ)の刃が激突し、耳をつんざくような金属音が響き、無数の火花が散った。


「くっ……!」


フェルは力任せに押し切ろうとはせず、

瞬時に刀身の角度を変える。


ギィンッ!


ドルガロの尾を刀身で受け流し、そのまま身体を捻る。


ブンッ!!


直後――

ドルガロの尾が、凄まじい速度で振り抜かれた。

フェルの身体が、紙一重でその一撃を躱す。

尾が空を切り裂き、空間が霧散していく。

フェルはそのまま、翼を大きく羽ばたかせた。


バサッ!!


「まだまだ!」


ギュンッ!!


そして、一気に加速し、目にも留まらぬ速度で、フェルはドルガロの周囲を旋回する。


「…………。」


ドルガロの瞳がフェルを追う。

そして――


ヒュンッ!!


魔弾が飛来する。

フェルは身体を捻ってそれを回避するが、


ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!!


と続けざまに、無数の魔弾が飛んでくる。


「ちっ!」


フェルは翼を巧みに操り、それらを次々と躱していく。

すぐ後ろで魔弾が爆ぜる音が響き、砂塵と爆風が舞う。

さらに――


ズバァッ!!


空間そのものを切り裂くような斬撃が、フェルのすぐ横を通り抜けた。


「……!」


フェルは咄嗟に身体を逸らす。

次の瞬間。

フェルの背後にあった巨大な岩が――


ズルッ。


斬撃によって、綺麗に切断され滑り落ちていった。


「…………。」


フェルはそれを横目で確認する。


(フィーネの情報によると…やつの魔導回路(マナ・サーキット)は『斬撃』。)


ヒュンッ!!


またしても斬撃が飛んでくる。

フェルは身体を翻し、それを紫俠(シキョウ)で受け流す。


(視界に入っている場所を指定して……。)


ズバァッ!!


斬撃が背後の大地を切り裂く。


(そこへ斬撃を飛ばす。)


「……なるほどな。」


フェルの口元が僅かに笑う。

確かに、この魔導回路(マナ・サーキット)は強い。フェルが唯一再生できない『心臓』に喰らえばおそらく即死であろう。


「なら……!」


フェルは翼を大きく畳み、一瞬だけ速度を落とす。その時、ドルガロの視線がフェルを捉えた。

その瞬間――


バッ!!


フェルが再び翼を広げ身を翻す。


『ヴェイン・レイヴズ』


詠唱を破棄した『ヴェイン・レイヴズ』は一本の矢ではなく、複数の矢となりフェルと並走して飛ぶ。


バシュンッ!!


そして、フェルは一気に急加速し、ドルガロとの距離を、迫り来る斬撃を『ヴェイン・レイヴズ』で受け流し、相殺しながら詰めていく。


「視界を奪うまで!」


そして、フェルはドルガロの眼前まで迫りる。


ドルガロの瞳が僅かに見開かれ、フェルは紫俠(シキョウ)を構えた。

刀身を包んでいた紫色の魔導(マナ)が、さらに激しく燃え上がる。


『――紫毒一閃(しどくいっせん)!!』


ズバァァァッ!!


紫俠(シキョウ)の軌跡を辿るようにして、燃えたぎるような猛毒が走り、


ドルガロの両目を、一瞬にして切り裂いた。

だが、ドルガロは切り裂かれた両目から黒い瘴気を噴き出しながら――


「……グルルルル……。」


ゆっくりと口角を吊り上げた。

まるで――


「その程度か?」


そう言わんばかりに。

ドルガロは、視界を奪われたはずだというのに、フェルのいる方向へ顔を向けていた。

そして――


シュゥゥゥ……。


傷口から黒い煙が立ち上り、ドルガロの傷口が、見る見るうちに塞がっていく。

切り裂かれた網膜が繋がり、失われた水晶体すらも形成していく。

そして――


ギョロッ。


再生した両目が、不気味に動きながらフェルを捉えた。


「再生もするのかよ…。」


フェルは小さく呟く。


(やっぱり、ケビンやフィーネの言う通り、魔導結晶の塔から、今も魔導(マナ)を供給され続けているようだな。)


フェルは、再び紫俠(シキョウ)を構え、今一度己の魔導回路(マナ・サーキット)を練り直す。


(……そもそも、俺たちの攻撃は魔導障壁によって威力を削がれているんだったよな。)


先ほどの一撃も、確かな手応えはあった。

しかし――

このまま攻撃を続けても、ドルガロを倒すことはできないだろう。


(……ただ、作戦通りだ。)


フェルの瞳が鋭くなる。


(おそらく、この再生も魔導障壁によるもの……今は、時間を稼ぐ。)


二つの塔が破壊されるまで。

そのために――


(こいつの意識を、俺に釘付けにする。)


『毒針(リベリオン)。』


その声と共にフェルの周りに無数の毒針が現れる。


「……へへ。」


フェルの口元が僅かに吊り上がる。


「こんなもんかよ、邪竜!」


紫俠(シキョウ)の刀身が再び魔導(マナ)を纏う。


「もっと楽しませてくれよ。」


その言葉に反応したのか。

ドルガロの口から――


「グルルルルル……。」


再び、低い唸り声が響いた。



 フェルがドルガロの相手をしている間にも、それぞれの戦場で戦いは激しさを増していた。


「怯むな! 進め!」


ヒョウの怒号が戦場へ響き渡る。


「「おおおおおっ!!」」


その声に応えるように、兎鬼月(トウキゲツ)の兵たちが一斉に前へ駆け出した。

彼らの前に立ちはだかるのは、かつてこの地で暮らしていた妖狐族。

今はドルガロの瘴気によってアンデットと化した、民たちである。


「くっ……!」


「囲まれるな! 二人一組で対応しろ!」


妖狐族のアンデットが次々と襲いかかってくる。

その身体能力は高く、最低でもレベル二。

一体一体が決して侮れない戦力だった。

しかし――


「そこだ!」


ザシュッ!


兎鬼月(トウキゲツ)の一人がアンデットの攻撃を躱し、その隙を突いて反撃していく。


「今だ! 進めぇ!」


一体、また一体とアンデットを退けながら、兎鬼月(トウキゲツ)は少しずつ前進していく。


「あそこです!」


ビッツが叫ぶ。


「塔まであと少しです! 絶対に止まることのないように!」


「「おう!!」」


だが、敵もそう簡単には道を譲ってくれない。

新たなアンデットが次々と押し寄せてくる。


「くそっ…ぬかった!」


兵の一人が血の滲む肩を抑えながら膝をつく。

そこへ、ビッツがすぐさま駆け寄る。


「フェル様から頂いた回復薬です!使ってください!」


「…ありがとうございます!」


「お礼は戦いが終わってからでお願いします!」


ビッツは真紅のスカーフを翻し、前方へ駆け出す。

次の瞬間、スカーフが大きく揺れ、その先端から炎が噴き上がり、


『――フレアバレットッ!』


アンデットの身体を火球が薙ぎ払う。

その隙に、兎鬼月(トウキゲツ)が一気に前へ進む。

その横ではヒョウが、一人黙々と敵を斬り伏せ乱戦の中を走り抜けていた。


「…………。」


彼女の目の前に、二体のアンデットが現れる。その顔を見た瞬間、ヒョウの動きが僅かに止まる。

だが、『ここで止まっては意味がない。』そう心に決めたヒョウは、すぐさま太刀を構える。


「すまない。…レイ…キョウカ…。」


次の瞬間――


ヒュッ。


ヒョウは二人の間をすり抜け――


「……眠ってくれ。」


ズバッ!!


二体の首が同時に跳ね飛ばされる。

ヒョウは決して振り返らなかった。


「…………。」


ただ太刀を振り払い、次の一撃のため鞘へ収める。

そして――


「……次。」


ヒョウはさらに速度を上げていく。

その横をビッツが追いかける。


「さっきの方、お知り合いでしたか……。」


ビッツが静かに尋ねる。


「……たった二人の幼馴染です。」


ヒョウは前を見たまま答える。


「そうでしたか。」


ビッツも、それ以上は聞かなかった。

ただ――


「僕たちで必ず、仇を取りましょう。」


「…えぇ。」


ヒョウは短く答えた。

そこには、深い怒りと妙な冷静さが含まれていた。

目指すは、目の前にそびえ立つ魔導結晶の塔。しかし――


「…………。」


ヒョウの視線が、ふと塔の頂上へ向いた。

そこには、カイザードラゴンが塔の上に佇みながら、こちらの戦況をただ静かに眺めていた。


「…………。」


ビッツも、その存在には気づいていた。


「……おかしいですね。」


「ええ。」


二人は進軍しながら、カイザードラゴンを見上げる。先ほどから、奴は一向に動かない。

兎鬼月(トウキゲツ)がアンデットを蹴散らし、少しずつ塔へ近づいているというのに――。


「そろそろ仕掛けてきてもいい頃でしょう。」


ヒョウが呟く。

このまま何もしなければ、兎鬼月(トウキゲツ)が塔を破壊するのは時間の問題だ。


「なのに……なぜ?」


ヒョウが、塔の上のカイザードラゴンを睨む。

その刹那――


――ズンッ。


ヒョウの視界が、ゆっくりと歪んだ。

世界のすべてが、まるで水の中に沈んだかのように遅くなっていく。

風の音。

兵たちの声。

遠くで響く戦闘音。

すべてが、ゆっくりと流れていく。

ヒョウはこうなるまで気づかなかった。

自分のすぐ横から迫る――


一つの殺気に。


「…………!」


一体のアンデットが、ヒョウの懐へ潜り込むように身を低くしていた。

その手には、巨大な大太刀が握られていた。

振り上げられた刃が、ゆっくりとヒョウの首へ迫る。

ヒョウは、そのアンデットの顔を確かに見た。


その顔。


その構え。


その大太刀。


見間違えるはずがない。


「……お兄様……。」


ヒョウの兄――カイリ。

かつて、自分を守り、共に鍛錬し、背中を追い続けた兄。

だが今、生前の太陽のような笑顔は深淵の底は消え。瞳には光がなかった。

ただ、ドルガロの瘴気によって動かされるアンデットとして、そこに立っていたのだ。

ヒョウには、それがゆっくりと見えていた。

避けなければならない。

分かっている。

だが、その一瞬。

ヒョウの脳裏に、これまでの記憶が駆け巡り、それを拒む。


幼い頃。


兄の背中を追いかけた日。


太刀の握り方を教えてもらった日。


共に鍛錬した日。


くだらないことで笑い合った日。


「…………。」


大太刀が首に迫る。


「もう……避けられない。」




その瞬間――


ガンッ!!


轟音が戦場へ響き渡った。


「……!」


死を覚悟したヒョウが、その目を見開く。

と、考えもしなかった光景が広がっていた。

自分の首へ迫っていた大太刀が止まっていたのだ。

そして、その刃を受け止めていたのは。


「……ぐッ……!」


他でもない、ビッツだった。

ビッツは双剣を交差させ、大太刀を首の僅か数センチ手前で食い止めている。

だがよく見ると、勢いを殺しきれず、横腹から脇にかけて、大太刀の刃が深く食い込んでいた。

それでもビッツは、歯を食いしばりながら刃を押し返す。


「……っ!」


ギリギリと武器が軋む音が戦場に響いていた。


ヒョウは知っていた。

兄――カイリの大太刀は、生前、一度たりとも防がれたことがなかった。

それほどまでに強烈な一撃。

それをビッツは、受け止めたのだ。


「……ビッツ殿!」


その瞬間。

カイリのアンデットの表情が、僅かに変化した。


「…………。」


まるで、その光景に驚いたかのように。

ほんの一瞬だけ、その顔から力が抜けたのだ。

だが、次の瞬間。

カイリは大太刀を強引に引き抜いた。


「ぐッ……!」


ビッツの身体が大きくよろめく。

そしてカイリは――


ドンッ!!


ビッツを蹴り飛ばした。


「がぁッ!」


凄まじい衝撃が身体を突き抜ける。

肋骨が数本、軋むような感覚とともに折れ、ビッツは口から血を吐き出しながら地面を転がっていく。


「ビッツ殿ォォォォ!!!」


ヒョウは青ざめた顔で叫び、そのまま、ビッツのもとへ駆け寄ろうとする。

しかし――


「…………。」


カイリは、そんなヒョウへ目を向けることすらない。大太刀を構え直し、地面へ倒れたビッツへ向かって走り出した。


「……!」


ヒョウの頭の中が真っ白になる。


『まずい!』

『ビッツ殿が危ない!』

『助けなければ!』

『でもどうやって!』


頭の中でいくつもの考えが回るだけで、身体が思うように動かない。

その間にも、残酷にも時は流れていく。

そして、ヒョウに「私には…無理だ…。」と言う思いが浮かんだその時――


「……ヒョウさん!」


血が絡んだビッツの声が響いた。


「……!」


ヒョウが顔を上げると、そこには、ふらつきながらも双剣を力場に、立ち上がったビッツが、すぐさま懐から回復薬を取り出し、傷口へ振りかけていた。


淡い光が傷口を包み込んでいく。


「……っ!」


痛みに顔を歪めながらも、ビッツは双剣を構えた。

その直後――


ブンッ!!


カイリの大太刀が振り下ろされる。


「ッ!」


ビッツは紙一重で身体を横へ滑らせ、その一撃を躱した。


ズガンッ!!


大太刀が地面へ突き刺さる。


「…ッ!」


ビッツは息を切らしながら後退する。

カイリは一言を発せず、ただ大太刀を引き抜き、再びビッツへ向かっていく。


「ヒョウさん!」


ビッツが必死に叫ぶ。


「ここは僕に任せてください!」


「しかし……!」


「行ってください!」


「ですが……!」


「フェル様は!」


ビッツの声が戦場に響き渡る。


「フェル様は、僕たちが塔を破壊するのを信じて、邪竜の相手をしてくださっています!」


ヒョウの身体が止まる。


「僕らが……それに応えなくては!」


ビッツはカイリの攻撃を再び躱す。


「それに……!」


一瞬だけ、ビッツがヒョウを見る。


「あなたに……。」


カイリの大太刀が迫る。


「大切なお兄さんを、斬らせたくない!」


「…………!」


ヒョウの瞳が大きく見開かれた。

その言葉が、胸の奥へ深く突き刺さる。

私は何をしているんだ。

フェル殿は今、たった一人でドルガロを引きつけている。

その間に、私たちが塔を破壊する。

それが、この作戦だ。

それなのに、瘴気に犯された兄を前にして、足を止めていた。


「……不甲斐ない。」


ヒョウの表情が変わる。

先ほどまでの混乱が、少しずつ消えていく。

代わりに、確かな覚悟がその瞳に宿った。


「行ってください!」


ビッツが叫ぶ。


「僕が、必ずここを食い止めます!」


ヒョウはビッツを見つめ、やがて決心した表情になると、腰の太刀へ手を添えた。


カチャッ…


鞘から刃が僅かに覗く。

そして――


シャキンッ!


太刀を抜き放つと、ヒョウは振り返らずに走り出した。

その様子を見たビッツは微笑むと、すぐさま迫り来る一撃を弾き返し、カイリの横腹にヒューマノイドラビッツ特有の強靭な脚力を乗せた蹴りを浴びせた。



 ヒョウは太刀を握り締め、戦場を駆け抜けていく。


「……待っていてください。」


その声は、

この地で命を奪われた妖狐族の仲間たちへか、

道を繋いでくれた今の仲間へなのか、それはヒョウ本人にしかわからない。

ヒョウは走りながら、手にした太刀へ意識を集中させる。


「…………。」


自らの内にある魔導回路(マナ・サーキット)を、改めて構築する。これまで幾度となく使ってきた、自分だけの力。

しかし今は、いつもよりはっきりとその構造を流れを感じ取る。

流れる魔導(マナ)の一つ一つ。

その結晶を、刀身へ。


「……。」


太刀が冷たく淡い光を帯び始める。


「必ず……。」


一歩。


さらに一歩。


そして――


「私が、終わらせる。」


その瞳に、迷いはなかった。

理不尽によって奪われた故郷。

アンデットへ変えられた同胞。

そして、今もその身体を利用され続けている兄。


そのすべてを解放する(終わらせる)ために。



次回 第19話 北地邪竜決戦 その2

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