第14話 第一の覚醒
ビッツは、里の入口へと続く道を見つめていた。
先ほどヘルメスから聞かされた情報が、頭の中を駆け巡っている。
――冒険者、およそ五十人。
目的は不明。
この里を目指している以上、警戒するのは当然。
「……みんな、準備はできていますか?」
ビッツが振り返る。
「はい!」
そこには、十人の志願兵たちがいた。
ビッツは一人ひとりの顔を見渡すと、小さく頷く。
「では、予定通りに。」
「はい!」
志願兵たちは声を抑えながら、それぞれ指定された場所へと散っていく。
木々の陰。
岩陰。
決して目立つことなく、しかし里の入口を完全に包囲できる位置へと身を隠していった。
ビッツ自身も、入口の前に立ち、腰に差した双剣へ、そっと手を添える。
しばらくして、地面を蹴る無数の蹄の音が聞こえてくる。
ついには、湯けむりの向こうからその姿が見えてくる。
一人。
また一人。
その後ろからも次々と現れる冒険者たち。全員が馬に乗り、武器や防具を身につけている。
「…………。」
ビッツの表情が険しくなる。
志願兵たちも、物陰からじっと彼らの動きを見つめていた。
その先頭を走っていた金髪の少年が、里の入口まであと少しというところまで来たその時、
「そこの一行!」
ビッツが声を張り上げた。
「――止まってください!」
その声に、冒険者たちの動きが止まる。
馬たちが足を止め、土煙がゆっくりと舞い上がった。
ビッツは腰の双剣へ手を添えたまま、彼らを真っ直ぐ見据える。
「ここは僕たちの里です!」
一歩、前へ出る。
「一体、何用ですか!」
緊張が走る。
冒険者たちも、それぞれ武器へ手を伸ばす。
「……」
「おい、どうする?」
「ここが目的地なのか?」
「殺るか?」
小さなざわめきが起こる。
しかし――
「……待て。」
先頭にいた金髪の少年が、右手を上げた。
その仕草だけで、後ろにいた冒険者たちが一斉に動きを止める。
「全員、武器から手をはなせ。」
「……はい。」
冒険者たちは素直に従った。少年は馬上からビッツを見つめる。
その表情に敵意はなかった。
むしろ、こちらを刺激しないように慎重になっているようだった。
「私の名はケビン。」
少年は静かに名乗った。
「エルリアの国王にして――冒険者ギルドのギルドマスターをしている者だ。」
ビッツの眉が僅かに動く。
まさか目の前にいる少年が、一国の王だとは思っていなかった。
少し驚くビッツをよそに、ケビンは続ける。
「我々は、この里の首領を名乗るフェル殿に会いに来た。」
「フェル様に……?」
ビッツの手に、僅かに力が入る。
フェルを名指ししている。
それだけで警戒を解く理由にはならなかった。緊迫した雰囲気が流れまさに一触即発という感じであった。
その時だった。
「ちょっと通してくれ。」
突然、冒険者たちの後方から声がした。
「……?」
ビッツは、聞き覚えのある声に目を細める。
人の波が左右へ分かれる。
そして、その間から、一人の男がひょいと顔を出した。
「よっ! ビッツの兄ちゃん。」
「あなたは!ガルさんじゃないですか!」
そこにいたのは――
少し前までこの里に滞在していた冒険者のガルだった。
「久しぶりだな。」
ガルは軽く手を上げる。
「お一人なんですか?リルさんとゴンさんは?」
「あぁ、あいつらはもっと後ろの方にいるぜ。」
ガルは後方を指差す。
「まぁ、ビッツの兄ちゃんが警戒するのもわかる、だが安心しろ。こいつらは悪い奴らじゃない。」
「……本当ですか?」
「おう。」
ガルは笑いながら、自分の上司であるケビンへ視線を向けた。
「ドルガロが復活したこと、この里のこと、あとその里の首領のフェルの旦那がドルガロ討伐を考えているって、うちの大将に伝えたら協力しようって、うるさくってな。」
「ガルさん……。」
ビッツは目を丸くする。
「そうだったんですか……。」
その言葉を聞き、ビッツは改めて冒険者たちを見渡した。
冒険者たちは珍しそうに周囲を見回している。
中には、緊張した面持ちで里の様子を観察している者もいた。
ビッツは「はぁ〜。」とため息をつき、肩の力を一気に抜いき、少しだけ苦笑した。
「……すみません。」
そして、ケビンの方を向き、
「突然これだけの人数が来たものですから……警戒させていただきました。」
と言いながらビッツは双剣から手を離す。
そして、深々と頭を下げた。
「無礼を働いてしまい、申し訳ありません。」
「いえ。」
ケビンは首を横に振る。
「警戒するのは当然でしょう。これだけの人数が突然押しかけたのですから。」
「そう言っていただけて、ありがたいです。
みんな!出てきていいですよ!」
里の周囲へ向かって声を張り上げた。
すると――
ガサッ。
木々の陰から一人。
岩陰から一人。
次々と志願兵たちが姿を現していく。
「……え?」
「いたのか!?」
冒険者たちの間から、驚きの声が上がる。
「俺、全然気づかなかったぞ……。」
「俺もだ。」
志願兵たちは何事もなかったかのようにビッツの後ろへ整列する。
その光景を見て、ガルはニヤリと笑った。
「へぇ……いつの間にこんなに仕込んでたんだ?」
「この里を守るためですから。」
ビッツは少し照れたように笑う。
だが、その目には以前以上に確かな自信が宿っていた。
ケビンもまた、志願兵たちを見渡す。
「……なるほど、これは敵に回したくないな。」
ケビンは馬から降り、そしてビッツの前まで歩み寄った。
「改めて頼みたい。」
ケビンは真っ直ぐにビッツを見る。
「我々を、フェル殿のもとへ案内してくれないだろうか。」
ビッツは一瞬だけ考え――
「……分かりました。」
穏やかに微笑んだ。
「フェル様も、きっと喜ばれると思います。」
そして、里の奥へと手を向ける。
「――ようこそ、僕らの里へ。」
ケビンたちはビッツに続いて歩き出し、郷へと入っていた。
毒槍が振り下ろされる。
フェルは身体を横へ滑らせ、紙一重でそれを躱した。
ドゴォォォンッ!!
槍の先端が地面へ突き刺さり、岩盤が大きく砕け散る。
「――ッ!」
フェルは間髪入れずに六本の触手を振るった。
ギィィンッ!!
毒刃が空間を切り裂き、土人形の触手を一本、また一本と切断していく。
「はあぁっ!」
さらに踏み込み――
ズバァッ!!
土人形の胴体を横薙ぎに両断する。
上下に分かれた身体が、べちゃりと地面へ落ちた。
「……やったか?」
フェルが息を荒げながら振り返る。
しかし――
ブクブクブク……。
切断された土人形の身体が不気味に蠢き始める。
「……やっぱりかよ。」
次の瞬間。
ドッ!!
土人形の身体が跳ね起き、切断面から伸びた無数の触手が互いを繋ぎ合わせ、瞬く間に元の姿へと戻っていく。
その時、土人形の胸部に一瞬だけ、淡い光が見えた。
「――そこだッ!」
フェルはそれを見逃さなかった。
六本の触手を一斉に伸ばし、毒糸を絡める。
ギュンッ!!
土人形の身体が強引に引き寄せられ、フェルはその勢いを利用し、一気に懐へ潜り込んだ。
「今度こそ……!」
毒を圧縮。
触手の先端へ鋭利な刃を形成する。
『――毒刃!!』
ズドンッ!!
土人形の胸部へ突き込む。
それには土人形の心臓である核を捉える確かな手応えがあった。
――だが。
「……やっぱり…。」
刃は核の直前で止まっていた。
「硬いな…。」
土人形の核に纏った毒が硬質化し、フェルの毒刃を押し返しているのだ。
「くっ……!」
フェルはさらに魔導を注ぎ込む。
「押せぇぇぇぇ!!」
ギギギギギッ!!
刃が震える。
しかし、それは核には届かない。
そして――
ドゴォンッ!!
「ぐぁっ!!」
土人形の触手がフェルの身体を打ち飛ばした。
地面を何度も跳ねながら、フェルは壁へ激突する。
「……っ、痛ぇ……。」
身体を再生させながら、フェルは土人形を睨みつける。
胸の奥。
正確には、土人形の魔導回路の中心。
そこに確かに核がある。
何度も見た。
何度も狙った。
だが――届かない。
「……これで何回目だよ……。」
フェルが呟く。
「五十回……いや、もっとか?」
この四日間。
フェルは何度も核を破壊する方法を考えては実行し失敗する。
その流れを繰り返していた。
斬る。
潰す。
貫く。
吹き飛ばす。
そのどれもが、阻まれ続ける。
土人形の身体を両断することなら、もう珍しくもない。
触手を切り落とすこともできる。
攻撃も避けることもできる。
再生能力を利用して、致命傷を避けることもできる。
それでも、核だけが壊せない。
「……俺の攻撃じゃ、届かない。」
フェルは自分の触手を見つめた。
毒。
毒刃。
毒針。
毒糸。
どれも自分が生み出した魔導添加
自分がこれまで積み上げてきた戦い方。
なのに。
「……なんでだよ。」
土人形は、そんなフェルに追撃を仕掛けるべく肉薄する。
だが――
「なんで…。」
その時だった。
フェルの中に、ふと疑問が浮かんだ。
『俺は、一体何を越えようとしているんだ?』
目の前にいるのは、自分自身。
自分の姿。
自分の魔導回路。
自分の魔導。
自分の戦い方。
つまり――
『こいつを倒すってことは…
こいつを超えるってことは…』
その瞬間、フェルの動きが止まった。
そんなことはお構いなしに土人形は迫ってくる。
そして刃が振り下ろされ、
ズバッ!!
フェルの身体が斜めに裂けた。
「……ッ!」
それでも、フェルはすぐに再生し土人形との距離を取るだけだった。
『俺は……どうしてポイズンスライムになった?』
元はただの人間だった。
佐伯蓮
どこにでもいるサラリーマン。
特別な才能があったわけじゃない。
剣術を習っていたわけでもない。
魔法の知識があったわけでもない。
それでも。
この世界に来てから、何度も戦った。
トラブルにも巻き込まれた。
そして、生き残った。
『俺は……何を使って戦ってきた?』
毒の魔導回路。
それしかなかった。
最初から。
それでも、工夫した。
毒を糸にした。
雨にした。
刃にした。
槍に、針に、壁に……
そして――
「……俺は……。」
フェルの身体がゆっくりと起き上がる。
土人形が再び迫る。
六本の触手が、一斉に振り下ろされた。
フェルはそれを、避けなかった。
一本。
また一本。
触手が身体を貫く。
フェルは土人形を見つめていた。
「……俺は、俺だ。」
その言葉が口から零れた。
不思議だった。
何かを理解したわけではない。
何か特別な答えを見つけたわけでもない。
ただ、今までの自分をもう一度見つめ直した。
人間だった頃。
ポイズンスライムになったこと。
フィーネと出会ったこと。
たくさんの仲間ができたこと。
そして、この里をみんなを守りたいと思ったこと。
自分は、強者だから戦うわけじゃない。
勇者だから戦うわけでもない。
「……守りたいから、戦うんだ。」
その瞬間だった。
フェルの中へ一筋の光が差し込んだ。
「……え?」
それは、フェル自身の魔導だった。
今まで自分の中に無秩序に流れていたものとは違う。
細く。
静かで。
けれど、確かな意思を持った光。
それがフェルの魔導回路を走り抜けていく。
そして、フェル自身の意思に応えるように、魔導回路が形を変え始めた。
「……これ、は……?」
土人形がしつこく迫ってくる。
再び両断され、再生するのを繰り返す……
否。
フェルには、その姿が妙にゆっくりと見えた。
振り下ろされる触手。
身体の動き。
魔導の流れ。
そして――
核。
今まで何度狙っても届かなかったそれが、まるで光の中に浮かび上がるようにはっきりと見える。
「…………。」
フェルは、ゆっくりと触手を上げた。
毒が触手の先へと収束していく。
そして、何より口がひとりでに動いた。
自分の意思で喋っているはずなのに。
まるで、誰かに言葉を教えられているように。
「命あるものは……。」
口が勝手に言葉を紡いでいく。
「やがて朽ちる。」
フェルは構えを崩さず、土人形を迎え撃つ。
「鋼は…錆び……。」
一歩。
「大地は風化し……。」
また一歩。
「星でさえ…静かに終焉へと還る。」
土人形の触手が目の前まで迫り、フェルはそれを触手で受け止る。
ギギギギギッ!!
凄まじい衝撃と共に、身体が軋む。
それでも言葉を紡ぐことをやめない。
「それは……滅びではない。」
紫色の魔導が、さらに濃くなる。
それはやがて夜そのものを集めたような禍々しくも神秘的な光を放ち始めた。
「万物に等しく与えられた…。」
フェルの声が震える。
「避けることのできぬ……。」
息が詰まる。
魔導回路が悲鳴を上げる。
「……“終着”という名の……理。」
ドクン。
魔導が爆発的に膨れ上がった。
フィーネは、遠くからその光景を見つめていた。
「…フェル。」
その彼女の表情からは、確信が漏れていた。
フェルが今、自分自身を超えようとしていることへの…
『困難を果たそうとしていることへの確信が。』
フェル自身は分かっていた。
これまでの四日間、何度挑戦しても詠唱は完成しなかった。
言葉が続かなかった。
魔導が暴走した。
形にならなかった。
けれど――
今は違う。
自分が何を使って戦うのか。
何のために力を振るうのか。
その答えが、ようやく一つに繋がった。
「ならば我は……。」
フェルの身体から、黒紫色の魔導が噴き上がる。
「その終焉を……。」
触手の先に、一本の巨大な矢が形成され始める。
「……この一撃へ託そう。」
フェルの身体が、この空間自体が震える。
それでも、まだ言葉を紡ぐ。
そして、フェルの瞳がまっすぐ土人形を捉えた。
「冥蝕の理よ……。」
赤、黒、紫の異様な魔導を放つ矢が完成していく。
「百の命を喰らい……。」
さらに魔導が凝縮される。
「千の希望を侵し……。」
土人形はその光景に対し、本能的に危険を察知したのか後退する。
だが。
もうそれは遅かった。
「逃れられぬ死を……刻め。」
フェルは触手を突き出す。
「冥府へ至る道標となり……。」
魔導の光が洞窟を埋め尽くす。
「……その魂を……。」
フェルの身体が裂け始め、魔導が暴れ始める。
それでも。
フェルは叫んだ。
「―― 永久の静寂へ導け!」
刹那。
洞窟そのものがまるで悲鳴を上げるが如くひしめく。
『――百蝕穿つ冥葬の矢ッ!!』
ズドォォォォォォォォォンッ!!
猛毒の閃光が、一直線に放たれた。
それは矢というにはあまりにも巨大で。
槍というにはあまりにも禍々しく。
一本の終焉そのもののようだった。
土人形は咄嗟に両腕を交差させ、防御態勢を取る。
だが、触れた瞬間。
その防御が、まるで存在しなかったかのように崩れ落ちた。
ズブッ!!
やがて、矢は土人形の身体を貫通し、これまで何度攻撃しても傷一つつかなかった『核』に、亀裂が走った。
ピシッ。
「……!」
フェルは目を見開く。
全身が悲鳴をあげているのがわかる。
ピシ。
ピシピシピシ――。
亀裂が広がっていく。
そして。
――パキィィィィンッ!!
核が砕け散ったその瞬間。
土人形の身体から、一気に力が抜け、全身が崩れ、ただの土塊へと戻っていく。
「…………。」
フェルは、しばらく何も言えなかった。
自分の前に広がる光景を、ただ呆然と見つめている。
やがて――
「……俺……。」
自分の触手を見つめる。
「……できたのか?」
その声は、やはり震えていた。
フィーネはゆっくりとフェルの横へ飛んできた。
「…………ええ。」
そして、口元をわずかに緩める。
「――できたわよ。」
フェルの身体からは、これまでにないほど大量の魔導が溢れ出していた。
その光は洞窟の奥深くまで広がり、やがて。
フェルの身体を包み込んだ。
「……な、なんだこれ……?」
「フェル……!」
光はさらに強くなる。
フェル自身も、身体の奥で何かが変わっていくのを感じていた。
魔導回路が。
自分自身の存在そのものが。
新たな段階へと書き換えられていく。
そして、光の繭は、内側から溢れ出した魔導によって大きく脈動した。
パキンッ――
まるで薄いガラスが砕けるような音が響く。
次の瞬間。
光の繭が無数の美しい雫となって弾け飛び、周囲へと淡い輝きを撒き散らした。
そして、その中心から一人の青年がゆっくりと姿を現す。
紫がかった銀髪。
アメジストを思わせる紫色の瞳。
整った顔立ちはどこか中性的で、男性とも女性とも取れる不思議な美しさを宿している。
その身体から放たれる魔導も、これまでのフェルとは明らかに違っていた。
禍々しい毒の気配を内包しながらも、それを覆い隠すような神秘的な輝きが全身を包んでいる。
青年は、ゆっくりと瞼を開いた。
「……フェル、だよね?」
見守っていたフィーネが、唖然とした表情で呟く。
フェルは返事をすることもなく、自分の両手を見つめた。
指を一本ずつ動かす。
手のひらを握る。
そして、恐る恐る自分の足元へ視線を落とした。
「……俺……。」
フェルは自分の身体を何度も見回す。
白い肌。
細身ながらもしっかりとした四肢。
「俺、人間になってる……。」
洞窟中に生まれ変わったフェルの声が響く。
「すごい! すごいわよフェル!」
フィーネは目を輝かせ、嬉しそうに空中でくるりと一回転する。
「おめでとう! レベル二『ヒューマノイドポイズンスライム』に進化したわよ!」
「ヒューマノイド……ポイズンスライム……?」
フェルは呆然と自分の身体を見下ろす。
「それだけじゃない!」
フィーネはフェルの周囲を飛び回りながら、興奮した様子で彼の身体を観察する。
「魔導回路まで成長してる……! これ、単純に身体が人型になっただけじゃないわ!」
「え?」
「魔導の流れそのものが、以前とはまるで違う。回路の密度も、循環速度も……何もかもが一段階上がってる!」
フィーネの瞳がさらに輝く。
「一体どうなってんのよ!?」
「いや、俺に聞かれても分からないって……」
フェルは困ったように頭を掻く。
そして、胸に手を当てる。
「……人間っぽい心臓まであるのか。」
「あるみたいね。」
フィーネも興味深そうにフェルの胸に耳を当てながら頷く。
「でも、普通の人間と同じだと思わないほうがいいわ。あなたの身体の中には、ちゃんとポイズンスライムとしての魔導構造も残ってる。」
「つまり?」
「人間みたいな姿をしているけど、中身はちゃんとポイズンスライムってこと。」
「……なんか複雑だな。」
フェルは苦笑した。
そんなフェルを見つめながら、フィーネはふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「それに!ちゃんと詠唱も成功させた!」
その言葉に、フェルは目を瞬かせる。
「……あぁ。」
脳裏に蘇るのは、何度も失敗したあの詠唱。
言葉が途中で途切れ、魔導が霧散し、何度やっても形にならなかった。
それでも諦めず、自分自身と向き合い続けた。
そして最後には、考えるよりも先に自分の口が勝手に言葉を紡いでいた。
「『百蝕穿つ冥葬の矢』……か。」
フェルは自分の手を見つめる。
つい数分前まで、自分はただのポイズンスライムだった。
それが今では、人の姿を持ち、強大な魔導を操り、そして自分自身の力を言葉によってさらに引き出せるようになった。
「……俺、変われたんだな。」
その呟きには、驚きと喜び、そしてこれから先への期待が入り混じっていた。
フィーネはそんなフェルを見て、満足そうに微笑んだ。
「ええ。あなたはしっかり変われているわよ。」
達成の喜びに満ちる広間には、心地よい時が流れた。
カツ……カツ……。
すると、広間へと続く入り口の奥から、微かな足音が響いた。
「……ん?」
二人は同時に振り返り、首を傾げた。
「フェル殿ー!どこにいらっしゃいますか!」
そう、聞き覚えのある声が洞窟内へと響き渡る。
「この声……ヒョウじゃない?」
フィーネが首を傾げそう言うと、フェルも声のする入り口へと視線を向ける。
その足音と声は、こちらへと近づいてくるのだった。
次回 第15話 人魔共闘の幕開け




