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神祇の彼方 -B.T.D.-  作者: VBDOG
■第一章:この身に三つの色を
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第十三話 その3 「星の檻」

「闢則。纏鎖枷!」


 これだけ唱えてきたのだ。

 いい加減上達してもよさそうなものだが——青というのは、そういう努力でどうにかなる類ではないらしい。


 拙い理解度で生み出したひょろひょろの紐を横目に、依月は広場を駆け巡る。


 依月はまず、地面に転がる巨岩どうしを細い青い紐で結ぶことにした。

 ところどころほつれていて頼りないそれらを、なるべく太く束ねるようにして張る。


 迫る朝伏たちはそれを意にも介さず駆けてくる。


 最初の一人が岩のあいだに足を踏み入れたところで、依月は紐をぐいと引いた。


 巨岩に引っかかっていた紐が張り、男の膝へと食い込む。

 前のめりに転びかけたところを、すかさず依月は次の術を放った。


「泡風吹!」


 男の顔の前に大きな泡が膨らむ。

 勢いのついた上半身がそのまま泡に突っ込み、すっぽり中に収まった。


「ひとり!」


 だが、それだけだ。赤を纏って力任せに暴れれば、すぐに抜け出してしまうだろう。


 だから依月は止まらない。

 すぐ横から来た二人目、三人目に向かって、今度は泡入りの石を放る。


「えーい!」


 足元で割れる泡。岩が大量にばら撒かれ、足が埋まって二人ともつんのめる。

 そこを同様に泡で包んで、確保する。


 人が入った三つの泡に纏鎖枷を繋ぎ、広場の中央へとより集める。


「こわされる前に……闢則。墜星っ!」


 既に配置した巨岩の一部。その隙間を埋めるように、追加で墜星を生み出した。


 真ん中の泡を囲うように作られる、巨大な岩の檻。


 彼らの『剛』の強さ次第だが……余程のことが無ければ抜け出すのは難しいだろう。


「あと3人!」


 対応済みと仮定して、残りの朝伏たちに向き直る。


 大上段で薙刀を振りかぶってきた一人の攻撃をのけ反って躱し、赤を纏って突進してきたもう一人には、自身との間に泡風吹を発生させ、泡の弾力で弾く。泡は弾いたのち、耐えきれずに割れてしまった。


 この二人——薙刀を持つ女性と、素手で突っ込んでくるガタイのいい男性は能力的に得意なのか、やたらと赤を纏う頻度が高い。


 『迅』と『剛』を高頻度で使ってくるが出力は強くない素手の男のほうはともかくとして、薙刀の女性のほうが特に厄介だ。『迅』は使ってこないが、その代わりかなり強力な『剛』を持っている。


 もちろん、皐月や依月のものと比べると見劣りするが……それでも常人よりは強力な膂力や速度を持つので、侮れない。


 この二人は拘束が難しく、生半可な岩檻では崩されるか、飛び越えられるだろう。


 そして……残りのもう一人にちらりと視線を向ける。


 ひょろりと背の高い人、というのが依月の第一印象だ。

 彼は金属製の長い棒を持っており、それを構えてうろうろしている。表情こそ狂気そのものだが、こちらにはなかなか近づいてこない。


 代わりに、棒を強引に振り回しながら、闢則のなり損ないを依月へと飛ばしてくる。


 依月が今採っている戦法が「待ち」の立ち回り主体なので、近寄ってこない彼もまた厄介だ。

 捕らえるには、依月から仕掛ける術が必要になるが……今の所有効な戦法は思いつかない。


 男は涎を垂らして睨みながら、おもむろに杖を振りかぶった。


 棒の先から飛んできたのは、青い輪っかだった。


 輪っかといっても、皐月が使いそうな綺麗なものではない。ところどころ歪んでいて、繋ぎ目も怪しい、今にも崩れそうな光の輪だ。

 それでも、依月の足首に引っかかるには十分だった。


「ひゃあ!?」


 足元を掬われて、今度は依月が転ぶ番になった。

 その隙をついたわけではないだろうが、薙刀の女性が赤光を纏って一気に踏み込んでくる。


「っ……!」


 振り下ろし。地面が爆ぜる。


 依月は横に転がりながら必死で避ける。続けて大柄な男が、『迅』と『剛』を纏って真正面から加速してきた。


「泡風吹!」


 依月は咄嗟に体と地面の間に泡を作る。

 膨らんだ泡の上に乗って依月が浮かび、男がその泡に勢い余って突っ込んだ。

 泡は大きく撓みながら割れ、接地面を失った依月はそのまま真下に着地する。


 依月の後ろで、どん、と大きな衝撃音がした。

 見ると後ろの巨岩に男がぶつかっていたようで……岩は大きく揺れたが、壊れはしていない。

 ——彼の『剛』では、巨岩には対抗できない証左だ。


「ふー……っ」


 短く息を吐く。


 神経が削られる。


 一番の課題は、あの後ろのひょろ長い男だ。


 近づいてこないことがとにかく厄介だ。

 遠くからずっと嫌がらせみたいに闢則もどきを飛ばしてくる。輪っかだったり、細い蔓だったり、時々意味の分からない塊だったり。どれも完成度は低い割に、ずいぶんと依月の動きを鈍らせる。


「うーん、先にあっちをなんとかしたいんだけど……!」


 そう呟いた瞬間、首筋がひやりとする。

 左を向くと、薙刀の刃が目前に迫っていた。


「わっ!」


 依月は後ろへ飛ぶ。

 そこへ、今度は大柄な男が逆側から殴りかかってきた。完全に呼吸を合わせているわけではない。けれど理性がないぶん、ためらいもない。

 続けざまに振り回されるだけで、姿勢が安定しないのでかなり不利だ。


 依月は逃げながら必死で考える。


 この二人を、どうやって岩檻の中に放り込むか。


 薙刀の女は大きく振るぶん、隙も大きい。

 大柄な男は一直線すぎる。

 そして彼らには理性がない。

 つまり——。


「……ぶつけれるかな?」


 ぽつりと漏らしたその案は、きっと正鵠を射ている。


 依月はわざと広場の端へ寄った。巨岩と巨岩の間、やや狭い場所だ。


 薙刀の女性が迫る。

 依月は一歩引いて、ぎりぎりまで待った。


 振り下ろし。


 それを、横へ転がるように回避する。


 薙刀は地面を砕き、その勢いで女の身体が前へ流れる。そこへ、遅れて大柄な男が『迅』を纏って突っ込んでくる。


「ここっ!」


 依月は、二人の間に泡を発生させた。


 男がぶつかって、泡は割れる。

 だが、割れるその一瞬前に、柔らかな反発が男の肩をわずかにずらした。


 ほんの少し。

 たったそれだけで、狙いが変わる。


 男は薙刀の女の背中に横から激突した。


「ぎ、あ……!」


 女の足がもつれ、二人まとめて前方へ転がる。

 依月はすぐさまその先へ、小さな岩入りの泡を三つ、四つ、五つと投げた。


「えーいっ!」


 泡が割れ、小岩がばらまかれる。

 二人の上に積み重なっていく岩の山。だが、この二人には効果は薄いだろう。


 だから。


「闢則。泡風吹!」


 ひとつではすぐ壊される。だから、数で押す。適当に、大量に。

 泡の中に泡をどんどん閉じ込めて、積層にする。


「もっと、泡風吹、墜星っ!」


 ぽん、ぽん、ぽん、と弾む音。

 がら、がら、がら、と硬い音。

 二人の身体に泡と岩がまとわりつき、中から外からぎゅうぎゅうに押し込める。

 何重にも外側に重ねたせいで、最早依月の目からは彼らの姿は見えない。


 ここまでやれば流石に突破は容易ではないだろう。


 だが、念には念を。

 依月は更に気合を入れて闢則を追加する。


「堕星!」


 どすん、と。


 二人の泡の周囲を囲うように、新たな巨岩が落ちた。先ほど三人を捕らえたものよりもずっと大きく、重い檻だ。天井すらも岩で塞いでしまっている。


「よーし、どう!?」


 依月が思わず声を上げた、その瞬間。


 横から飛んできた青い蔓が、依月の手首に絡んだ。


「っ!」


 最後に残った、ひょろ長い男だ。


 距離を取ったまま、棒の先から放たれた青い蔓もどきが、ぐるぐると依月の腕に巻きついてくる。


 弱い。

 けれど、依月の自力では解けない。


「ちょ、やだっ」


 引っ張られる。

 その先では、男が棒を振りかぶっている。今度は輪でも蔓でもない、なにか鋭い塊を飛ばしてくるつもりらしい。


「……あ」


 依月は捕まった右手を見て、ほんの一瞬考えた。


 そして、にっこり笑った。


「それ、ありがとー」


 相手は遠距離型だ。近づいてこない。

 なら、こっちから行くしかない。

 それなら、せっかく繋いでくれた“紐”を使わない手はない。


 依月は自分の手首に巻きついた青い蔓を、逆に思いきり引っ張った。


「い、ぎ!?」


 男が間の抜けた声を上げ、体勢を崩す。


 依月は地面を蹴った。

 一気に距離を詰める。


 棒を振るうよりも早く、依月は男の胸元へ泡をひとつ叩きつけた。


「闢則。泡風吹!」


 膨らんだ泡が男を包む。

 腕も、棒も、そのまま一緒に取り込まれる。内側から破るには、赤か青の大きな出力がいる。だが、彼の青は予備動作が分かりやすい。


 男は棒から青い光の塊を飛ばし、泡を一度破るが……それが見えていた依月は、割れた直後にすぐ張り直す。


「最後!」


 依月はそのまま泡を巨岩のほうへ押し流し、新たに岩を落として隙間を埋めた。


 これで——。


「終わったかな……!?」


 依月は荒く息をつきながら、広場を見渡した。


 最初の三人は中央の岩檻。

 薙刀の女と大柄な男は、広場の隅の岩檻。

 ひょろ長い男は、中央横の小さな岩檻。


 それぞれ、不格好だが頑丈で重そうな岩に閉じ込められて、しんとしている。


 完璧とは言えないかもしれない。

 でも少なくとも今は、六人とも自由に動けない。



 依月は、その場にへたり込んだ。



「はぁ……はぁ……っ」


 助かった。

 なんとかなった。


 それも、今日覚えたばかりのたった三つの闢則だけで。

 我ながら酷い条件下で、よくやれたものだ。



 ——そう思った、その時だった。



 六人の身体にまとわりついていた、あの細い黒い糸。

 その気配が、突然さっきよりもはっきりと濃くなった。


「……?」


 依月の笑みが、消える。


 黒い糸は、岩の隙間から、じわじわと広がっていく。

 まるで、何かが「次」を始めようとしているみたいに。


「——っ」


 次の瞬間、三箇所の岩檻から、同時に黒い靄が噴き出した。

纏鎖枷は、泡風吹や墜星と比べてやれることが圧倒的に多い高度な闢則なので、中身もそのぶん複雑です。

(第十話その2で皐月が驚いたのはそれが理由です)

なのでぼんやり輪郭しか理解できてない依月には、今はほつれた紐を作るので精一杯なのです。


依月の使える闢則の中でTier(S〜E)を設けるなら


A:纏鎖枷

D+:墜星

D:泡風吹


といった感じでしょうか。

尚、皐月は存在するほぼ全ての闢則を使えますが、C以下は基本的に普段使いすることはありません。

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