幕間 人心操作の魔術具(3)
あの日、魔術具の起動に成功したと思った日からアスコット様が部屋に閉じこもる日が続いている。
私も何度かメイド長の目を盗んで覗きに行ったが、寝ているか、作業机に向かっているかのどちらかだった。
しかもあのルトアシアとかいう女は、今まで通り屋敷で生活を続けている。とは言え、アスコット様とあの女の接触が無くなっただけでも良しとすべきだったのだが、私はアスコット様が思い通りに私を見てくれないことに不満が溜まっていた。
気が散っているのか、メイド長にも注意される回数が増えた。このままでは暇を出されてしまうと、仲間から心配されることもあった。
「何よこれ、全然役に立たないじゃない! あんなに苦労して手に入れたのに!」
私は裏庭でブローチを思い切り地面に叩きつけた。
「手に入れるためにどれだけ私が苦しんだと思っているのよ……! 全部あの女のせいだわっ。こんなものっ!」
ぎりっと音がなるほど歯を噛み締め、私は地面に落ちたブローチを何度も踏みつけた。
「どうしてっ、どうして! アスコット様は私を見てくれないのよ!」
何度も踏みつけるうちに、次第にブローチの宝石に亀裂が入り始めた。あの小瓶の中身を垂らして以来絶えることのなかった光が、徐々に弱くなっていく。
「――全部、いなくなればいい! 全部、全部!!」
光が完全に消える、その時だった――。
「どうしたの?」
私にかけられた静かな声。
飛び上がるほど驚いて振り向けば、そこには私が愛してやまないアスコット様の姿があった。
「君、そんなところで――」
アスコット様は何か言いかけて、私に近づいて来た。私はアスコット様に声をかけてもらえた嬉しさと同時に、今していたことを咎められるのではないかという恐怖で顔が奇妙に歪んでいくのが分かった。
「も、申し訳――」
「そんなところにいたら汚れてしまうよ。こっちにおいで」
「え……?」
悲鳴に近い声を上げかけた私に、アスコット様は優しく手を差し伸べ、自分の方へ引き寄せてくれた。
「ああ、ほら。こんなところに土がついてしまったね」
そう言って私の足元にアスコット様が跪いた。仕事着から覗く私の足首に、さっきブローチを踏んだ時に飛び跳ねたであろう土汚れがついていた。
「――お見苦しいものを! 申し訳ございません!」
私は慌てて身を引こうとしたが、アスコット様がそれを許さなかった。
アスコット様は私の足元に跪いた姿勢のまま、私の汚れた足首に自分のハンカチを当てた。
「美しいよ、誰よりも」
そして顔を真っ赤にして動けない私を、アスコット様はその美しいヘーゼルの瞳で捕らえた。
「君の望みを叶えたいな。教えてくれる?」




