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4-3 付き合ってはいけない男、推し(1)

「団長はいないよ」

「そうですか……。ありがとうございます」


 その日、郵便局員のジェイから受け取ったトロピカ宛の荷物を届けに来たものの、ヘイルは不在だった。最近ヘイルの不在が増え、なかなか顔を合わせられない日が続いていた。


(アスコットと言い、団長様と言い最近何か起こってるのかしら。忙しすぎるんじゃない? まあレナータ様に会わないのはまあ良いとして、グレーヴ様にもお会いできていないのは……いやいやいや、お会いしても特に何があるわけじゃないわ! いつも通り愛でたいだけよ)


 ルトアシアがヘイルの行き先を尋ねた団員ははじめ無愛想に答えたが、何かを思い出したかのようにニヤニヤと声をかけてきた。


「なあ、あんただよな。レナータさんが言っていたのは。よく取り入ったもんだ」

「レナータ様が……」


 明らかに面白がるような口調の団員はジロジロとルトアシアをなめ回すような視線を這わせた。


(あのお方、何を言いふらしているか知らないけれど、ロクな噂が立ってないのは間違いなさそうね)


 ルトアシアは目の前の団員について調べるべく、脳内俳優名鑑をめくる。


(このお方は最近入団なさった方ね。劇団を仕切るレナータ様のやりようもあるでしょうけど、こんな態度を取る方がいるなんて正直がっかりだわ)


 脳内俳優名鑑を閉じ、もやもやしたまま顔を上げると団員はまだルトアシアを見ていた。


「それで、何か?」

「よく見たらきれいな顔してんじゃん。俺はどう? 団長とかグレーヴさんよりはまともだよ」

「え……?」


 ルトアシアが団員の口から出た言葉を理解する前に、団員はあからさまに嘲弄する口調で続けた。


「特にあの人、グレーヴさんは絶対付き合ったら駄目な男だぜ。毎晩女とっかえひっかえしてさ。知ってた? ってそりゃ知ってるか、あんたもその中の一人なんだろうからなっ。あはは……!」


 団員の口にした内容はきっと事実だ。ルトアシアは唇をきつく噛んだ。


(グレーヴ様の女性関係はまだしも、私もそのうちの一人に見られていたなんて……。グレーヴ様になんとご迷惑をおかけしてしまっていたのかしら。情けないし、自分の甘さに腹が立つわ)


「それにあの人金ねぇからレナータさんから離れられねえんだよ。だから諦めた方がいいぜ。そのくせに他人のファンにも手当り次第に粉かけるしさぁ。ケントさんもめちゃくちゃ怒ってんだから」


 団員はわざとらしく肩をすぼめて見せた。

 レナータから離れられないというのも事実だ。ただそれは彼女の気持ちを繋ぎ止める必要があったからで――


(いいえ、違う。もちろん彼女が出資を味方につけて強引な態度を取っていたことは一つの理由だけど、そうすることを選んでいたのはグレーヴ様本人。他の方法もあったはずなのに不器用すぎるわ。頭が固いわ。まあそこもきっとグレーヴ様の魅力なのですが)


 団員の話などそっちのけでグレーヴのことを考え出したルトアシアだったが、次の言葉にはさすがに反応せざるを得なかった。


「小さいときに拾われて恩があるって言うのは聞いてるけど、大した才能ないくせにいつまでも居座られちゃこっちが困るんだよな。早いとこ、レナータさんと一緒になって席空けてくんねぇかなぁって皆言ってるよ」


(大した才能がない、ですって……?)


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら団員は乱暴にルトアシアの腕を取った。


「だからさ、グレーヴさんなんかと遊ぶなら俺が――」

「お黙りなさい」

「……へ?」


 ルトアシアは自分の腕を掴んだ団員の手を、反射的に掴んだ。それまで抱えていた劇団宛の荷物がバサバサと床に落ちる。豹変したルトアシアに驚き、間抜けな声を上げた団員を、殺気すら帯びた紅い瞳が睨みつけた。


「お黙りなさいと言ったのです」


 団員を掴むルトアシアの手にギリッと力がこもる。所詮は女の力と思っていたものの、振り払えない程の迫力に団員はみるみる顔が青ざめていった。


「な、なんだよ……?」

「そのおしゃべりな口ごと焼き払われたいのですか?」


 ルトアシアの足元で動くはずのない空気がゆらりと動いた。同時に団員は足元から湧き上がる得も言われぬ不安に襲われていた。


「グレーヴ様が大した才能を持っていないですって? 何をおっしゃいますやら。笑止千万。片腹痛いですわ」


 ルトアシアは青ざめる団員を睨みつけたまま、ジリッと距離を詰めた。


「私が、グレーヴ様の魅力をたっぷりと教えて差し上げます。二度と『席を空けて欲しい』などと言えなくなるように――」

「っひぃ……は、離せ。離せよ!」


 団員はすぐにでもルトアシアから離れたいとばかりに自分をつかむ手を引き剥がそうとしたが、まるで吸盤に吸い付かれているかのようにルトアシアの手はピクリともしない。


 その時、廊下の向こうからバタバタと駆け寄る足音が聞こえて来た。


「おーい、待った待ったぁ!」


 何度聞いても耳が幸せになるその声を聞き、ルトアシアは我にかえった。


「グレーヴ、様……」


 グレーヴの姿を見たルトアシアは団員の腕を秒速で振り払った。ようやく自由になった団員の腕にはくっきりと、何やら丸い形が痣となって浮かんでいた。

明日更新の次話に続きます。

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