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3-7 俺が抱いた罪悪感について

『――グレーヴ様の魅力がより多くの方に伝わりますよう、毎日祈っています』


 そんな一文で締められた俺宛の手紙からはいつも通り、柔らかい花の香りが漂ってきた。ただいつもと違ったのは、きれいな筆跡で綴られた俺の名前を見ても気持ちが浮上しなかったところだ。


 ルティという黒猫のような女の子は、俺がぶつからないように躱してきたものに真正面からぶつかっていく。

 消極的な団長、劇場に押しかけて来た身勝手なファンたち、そしてレナータ。


 あの時の様子を思い出すとハラハラする一方で、記憶の中の彼女の眩しさに目が眩みそうになる。

 そして真っ直ぐと伝えられた「素晴らしい役者」という言葉。


 お世辞に違いないが素直に嬉しかった。どこか気恥ずかしさを抱いた後、俺を襲ったのは罪悪感だった。


 どうしたって一般的に評価される「素晴らしさ」の枠に俺は入れない。だからレナータの目に留まるまで舞台の隅でくすぶっていたのだ。今となってはどちらがよかったのかわからないけれど。


(そう言えば、あの朝あの子に見られなくてよかったな……)


 俺はふと思った。

 彼女に会ったあの日、俺と関係を続けたがる女の子を振り切るようにして出てきたのだ。


 俺はまだ手に持っていた手紙を大事にしまった。これまでの“黒猫”からの手紙は全て保管してある。

 既に分厚いを通り越して、鈍器のような厚みになった束がすでに三束になっている。


(俺も大概だよな……)


 緩みそうになる口元を抑えて、新しい手紙を束に差し込んだ。甘い花の香りがふわりと舞い上がる。

 その瞬間、大事に郵便物を抱えた彼女の姿が唐突によみがえった。真っ直ぐに向けられる紅い瞳。ただ、その姿と同時に高級そうな馬車に乗り込む彼女の横顔が浮かぶ。


(眩しい、よな……。真っ直ぐ見たら、溶けてしまいそうだ)


 俺は何気なく手をかざした。親指の先に少しささくれが出来ている。


(触ったら、熱いのかもしれないな……)


 伸ばした手の先に、遠目に見た彼女の笑顔を思い出す。


 ……。

 …………。

 …………ん?


「――まてまてまて! そうじゃない、そうじゃないだろ!」


 目の前の彼女を振り払うように、俺はバタバタと手を振った。

次話から第四章です。ルトアシアの迷いは晴れますが、あの人が不穏な動きを見せます。

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