ちっぽけな…
「何をそんなに――わたくし、何かなさいましたか?」
「土俵は女人禁制じゃ!女が上がれば神聖な土俵が穢れるじゃろ。今すぐにそこから降りるのじゃ!」
その一言がきっかけだろう。
神主の言い分には、私も頭に来たが、大郷司万千はそれ以上だった――。
彼女の周りを漂う空気の様なものが歪み、その場一帯が張り詰め、変わるのを感じた。
その張り詰めた空気に私は、その時の状況よりも、彼女に恐怖した。
大郷司万千という人物に偏見を持っていた事は事実だった。
彼女の体格、容姿、噂から想像するに、彼女は怒りで我を忘れ、闇雲に暴れる性格だと思い込んでしまっていた。
しかし、彼女は見た目とは裏腹に、怒りで逆に冷静になる人物で、それは恐ろしくも思えた。
彼女は余りにも冷静で、こういった事に慣れている様に私には見えた――。
「罰当たりもんが、いいから早く降りるのじゃ!」
「わたくし、降りませんわ――わたくしが本当に穢れているか試してみましょう」
「何を言っておる、そんな事をしたら罰が、祟りが起きるぞ!」
大郷司万千は土俵の上から仁王立ちし、神主を見下ろしていた。
「罰でも祟りでもお好きになさればいい。わたくし、逃げも隠れもしませんわ!しかし、万が一にもわたくしに罰が当たろう事がございましたら、それは神がわたくしを差別した証。そのような神、デモクラシーを生きる、このわたくしが許しませんわ!」
神をも恐れぬ言動に、神主は唖然としていた。
神や仏について私はよく解らないが、そういったものに対して罰当たりなことをする。いかにそれらが信仰や迷信だとしても、普通はやらない、出来ない。
何か起きるかもしれないと、罰が当たると。しかし、それが唯の慣習だったら、唯の差別だったら――。
彼女はそれをやってのけたのだ――。
――私にも出来るだろうか――。
『だから私、土俵に上がったわ――土俵の上はとても高く感じ、見渡す海さえ小さく思えた』
「あら貴女、罰が当たるわよ――」
「それはお互い様――」
神主は言葉も出なかった。
それでも、騒ぎに気付いた大人達が集まって来て、土俵を囲まれてしまった。
ちらほら顔見知りが居り、流石にまずいと思った。
しかし、後悔はなかった。
「何してる、お前達。そこから降りろ!」
「あれは、環さんとこのお嬢さん?――貴女、何をして」
「この罰当たりが!降りろ!」
「わたくしをここから降ろしたかったら、力尽くにでも降ろしみてはいかが?もっとも、出来たらの話ですが」
「何~、待っていろ。今引きずり降ろしてやる」




