『私は一番ここが好き』
周りを囲んでいた殿方達が、大の大人達が、女学生二人を降ろそうと土俵へ上がって来た――何をそんなにムキになっていたのか。
しかし、私にとっては、その様な明確な敵意を殿方から受けたことは無く、唯々恐怖だった。
土俵際、たじろぐ私とは引き返、大郷司万千は私を守る様に仕切り、ドレス姿を気にも留めず身構えた。
その背中は大きく見えた。
「時間いっぱい、といったところかしら――大丈夫ですわ、何があっても貴女を土俵から出させはしない。わたくし、少々貴女を見直しましたわ」
ハッ――。
はっけよい――のこった。
そんな間合いだった。
彼女はドレス姿にも拘らず、土俵へ上がって来た殿方達と組み合い、大の男達を次から次へと投げ飛ばしていった。
それは何と爽快で、面白い光景だろうか。
大の大人が、彼女より大きい男達が土俵の外へ投げ出されていく。
幾ら彼女の体格が良くても、彼女は乙女なのだから、何と滑稽だろうか。
「あの娘、なんとはしたない。婦女子が相撲などと…。女性なら女性らしく、女学生なら女学生らしく、おしとやかに――」
土俵の周りに集まっていた女性の言葉だった。
当たり前過ぎて気付かなかった――あの女性が言ったことは間違いじゃない。私もそう教えられ育った。
しかし、それは唯女性が女性を差別しているだけではないのか。
私は、私を差別していただけではないか。
それそのものが女性差別ではないのか。
私はその事に気が付かずに…。いや、気付かないふりを、気付いていても見て見ぬふりをしていたのだ。
もし、今日の様な事が彼女の噂の源だとしたら、大郷司万千は何時からそのことを、何時からそれらと戦って――。
「――はぁ、はぁ。もう、終いですの?たわい無いですわ」
あっという間だった。十人は居たであろう大人達は投げ飛ばされ、彼女に敵わないと、既に戦意喪失し諦めている。
「大郷司さん、怪我は?貴女は何時もこんな事を?――貴女がやらないといけないことなの?」
「今日はまだ、投げ飛ばせるだけ増しですわ。世の中、寄り切りや、小手投げでは片づけられない事ばかりですわ――わたくしの戦う相手は、そのほとんどが目に見えないものばかりですの。しかし、確かにそこに有る。誰が決めたのか、何故存在するのか。その理由さえ分からない様なもの。それは執拗に纏わり付き、わたくしを苦しめる。わたくしはそれだけには勝てない。だから抗うしかない、戦うしかないのよ」




