怒号
御家の為、父に認めてもらう為。
そう言っていれば自分を誤魔化せると思った。思っていた。だから自分でも分っている。
『私』という大義名分を盾に、見合いから逃げる算段を立てていたに過ぎない事を。
もし次に縁談が来ようものなら、私は父を――。
「あれは何かしら?――あちらで何かやっていますわ」
彼女が窺っていたのは、近くの神社の夏祭りだった。
地元の祭りだが、柄の悪い殿方が多く私はあまり行ったことが無かった――。
しかし、彼女が何やら興味を持ち、嫌な予感がした。
「あれは地元の神事を行う夏祭りです――今日はまだ本祭りではない筈なので、行っても何もありませんよ」
「――行ってみましょう。貴女と居てもつまらないだけだわ」
つまらなくとも、私は行きたくなかった。
祭りがどうこうではなく、今の自分の格好を大勢の人に見せたくなかったからだ。
しかし、彼女を置いて帰る訳にはいかず、そんな事をしたら、父に何と説明したらいいか。
出来る事なら破談については、彼女の口から説明してもらいたかった。
――祭りはまだ準備の最中だった。
境内には屋台が作られ、鳥居の近くには土俵まであった。
詳しくは知らないが、神事というのは相撲を取る事なのだろうか。
屋台も神事も準備はしているものの、人はまばらで助かった。これなら人目につかず、彼女も諦めが付くだろう。
「今日は祭りの日ではないようですし、帰りましょう」
「面白いものが在りますわ。わたくし一度、こちらに上がってみたかったの――」
そういうと彼女は、脇目も振らず、躊躇もせず土俵に上がって行った。
土で固められた土俵の上で、悠然と海を眺め、上がれた事に満足したのだろう、腕組みまでしている。
土俵に女性が上がる事。それが何を意味するか――私も知っていたのなら止めたのだが、それこそ後の祭りだった。
「馬鹿者!何をしている、今直ぐ土俵から降りろ!そこは、お前の様な女が上っていい場所ではない」
怒鳴り近付いて来たのは、神主であろう袴をはいた老男だった。
物凄い剣幕に、私は唯驚き、何故怒鳴っているのか理解出来なかった。




