この国へ
朴「夜音が私を――」
おとめ「私は、夜音の目を通して貴女を見続けた――貴女は私の、夜音の手を振り払った。でも、貴女の記憶ではその手を振り払わなかった…。それは貴女の願いでもあったからじゃない?」
朴「――!」
おとめ「夜音と貴女の願いに魔法が応えた――貴女が生きている。それが、それだけが答え。私はそう思う」
朴「私は――」
おとめ「夜音は貴女を大切に思って――きっとここへ来た理由も…」
――――。
ハイネ「――彼女の身に何があったの?」
おとめ「残念ながら、私は全てを見たわけではないし、過去に何があったのか知らない――断片的にしか見てないわ」
朴「私から話すわ――自己紹介が遅れたわね。それとも、もう知っているのかしら」
おとめ「――そういえば、貴女、お名前は?」
朴「――やっぱり…」
おとめ「?」
朴「――あれは、私がこの国に来たばかりの頃――偏見と差別に苦しんでいた日々。そんな時に現れたのが、夜音だった」
――――。
この国での生活は、偏見と差別ばかりの日々だった――。
徴用で忙しい父はまともに働く事も出来ず、母は働こうにも女というだけで働く事もままならなかった。
況してや私達を雇う訳もなく、その日に食べるものも無い有様…。
お金が無いのは仕方なかった――しかし、人々から蔑まれ、相手にもされない。
買い物をしようにも相手にもされず、病院へ行こうものなら追い返される始末。
私達が一体何をしたのか――道を歩けば、石を投げられ、罵倒を浴びせられる。
怒りなど疾うに無く、唯々耐えるしかなかった…。
そんな時、父が死んだ――。
同時に、それは徴用からの解放を意味した。
祖国に帰る事が許されたのだ。
私達は、殺されたに等しい父の死を怒り悲しんだが、それ以上に祖国に帰れる事が嬉しくもあった。
祖国に帰ったところで貧しさは変わらないが、今の生活から抜け出したかった。
偏見と差別のない場所へ。




