一度だけ
「お母様に会いに行くのね…」
「そんなにいいもんじゃない――お前はどうなんだ?『オズ』に行くだけならハイネに付けばいい。わざわざ組織を敵に回すような真似を」
「そんな事しないわよ。唯、友人に会いに行くだけよ」
実際私にはそれぐらいしか出来ず、それすらも出来ないかもしれない。
それでも今は、『オズ』より大切なことの様な気がする。
『女性街』に来てからは、『オズ』への焦りは無くなっていた。
『女性街』が実在して、『オズ』の手掛りそのものだったのだ。それ以上のことを、友を差し置いてまで探すことではない。
「魔法を使って騒ぎを起こせ――会場が騒然としている隙に、あたしは二代目を探す。お前は囮になれ。そのついでにお仲間を探せばいい」
「それでいいの?約束通り魔法は使わせてあげる。但し、一回。一回だけ――一度しか使えない。その使いどころは貴女に任せるわ。何が起こるか私にも分からないけど、貴女がそれでも良ければ呪文を唱えて」
「無暗に使うなってか――あたしに使えるのか?魔法が」
「一度だけなら。一度しか使えない魔法――『チェスト』を」
彼女が魔法を使うというのなら、私は彼女のそばを離れられない。
一体何が起こるか、何度も使わないか見張らなくては身が持たない。
それに彼女と一緒にいた方が良い事もあるだろう、さすがに彼女には手荒な真似はしないだろうし、彼女の言う事なら或いは――。
太い二本の柱の間には数段の階段があり、その先に唯一の入り口。
結局のところ、この扉が開かない事には作戦も何もない。最悪この扉を開ける為に魔法を使う羽目になるかもしれない。
中の様子も分からない以上、一か八かになり、もし入れたとしても大勢の人間が居るであろう会場内から都合よく見つけ出し、話が出来る暇があるだろか――。
いや、ここまで来て悩むのはやめよう。話せなくとも顔さえ見れれば…。
「あたしは信じるぜ。魔法を、『オズ』を――」
「私も、今はそう思うわ。だから、貴女を――」
「――夜音だ。呼び捨てでいい。そうだろ?おとめ」
「そうね、夜音――」
私と夜音は、覚悟を決めた。左右の扉の取っ手を、二人で片方ずつ握り、顔を見合わせ合図し、その扉を開いた。
ガチャ――。
今になって気が付いたが、何故、扉が開くか確かめなかったのか、何故、中の様子を確認しなかったのか――。
扉に鍵は掛っておらず、勢いよく開いてしまった。
中は床一面絨毯が引かれ、階段が奥にあるだけの何も無い、徒広い空間になっていた。
所謂、豪勢な館の広間そのものだった。
「やられた――」




