走馬灯
走馬灯というものは、大抵死に際、その一瞬に見るものだろう。だとするなら今がそうだ。
私は今まさに死ぬのだろう、他人の走馬灯を見ながら――。
しゃかりきになって自転車を漕ぎ続けた私は、体力の限界を迎え、視界が歪み始めていた。
吐き気さえ感じる。その所為だろう、時間の流れの異常に気が付かずにいた。この感覚は今さっき体験したばかりだ、時間がゆっくりと動くこれを。
死の予兆を――。
唐突だが、赤バイといえば警察の乗る乗り物だ。二輪自動車に側車を付けたそれは、見た目の赤さから『赤バイ』と呼ばれていた。
しかしそんな事はどうでもよく、問題なのはその赤バイが交差点へ、私目がけて突っ込んで来たことだった。
歪む世界で気が付くのに遅れたが、今まさにぶつかる寸前であった。
時が止まったかの様に時間がゆっくりと動くおかげで、歪んではいるが運転していた人物を見た。
おかしなことにその人物が警官ではなかった――あれは、女性?だろうか?よりにもよって、また金髪だった。
――私は意識を失っていたらしい、気が付くと歪みも時間の異常も治まっていた。
しかし目覚めてはいない、きっと夢か幻を見ているのだろう。何故なら何一つ見覚えのない場所に居るのだから。
唯一分かる事は、ここは天国や地獄ではないという事だろう。そこは唯の教室だったのだから。
今の今死にかけていたということは、これはもしかして走馬灯かも知れない。走馬灯と呼べるものかどうかは分からないが、そうと思いたい。
何故なら走馬灯は生きている時に見るものだからだ――もしそうだとしたら、私はまだ死んではいないという事だ。
『これは夢?現実?――私、死ぬの?』
見覚えのない教室には誰も居らず、どうやら私の通う学校とも違った――もしかすると女学校かもしれない。なんとなくそう感じた。
「嵐山さん。どうしたの?早く行かなくては遅れてしまいますわよ?」
驚いた。彼女一体何処から、何時の間に現れたのか?
嵐山?一体誰の事だ?私を呼んでいるのか?
『貴女はどちら様?ここは一体何処なの?嵐山って?――』
私の問い掛けは彼女には届かなかった。まるで聞こえていない様な、私が見えていない様な。一方的な。私を誰かと――。
『夢。それも、これは私のものじゃない…。まるで誰かの夢を見ているみたい。それなら一体誰の――』




