出会い
取り敢えず、明日にでも環の家か、万千の家にでも行って話を聞きたいところだが、どちらの家にも出来るなら行きたくない。
正確には二人の両親に会いたくないのだ。
環の両親は、私を軽蔑しているし。万千の所も横柄極まり無いし。学校はこんなだし、電話は面倒だし、どうしようか――。
そんなことを考えながらふらふらと歩いており、気が付くと駐輪場まで来ていた。
登下校は自転車を使っていた。女だてらにとい言われるが、これほど便利でモダンなものはハイカラの極みでしかない。
乗らぬ手はない――とはいっても少しの距離だけで、まだ長距離は乗った事が無い。
自転車には乗らず押して歩いていると、校門から一台のクルマが出ていくところだった。
学校ではクルマを余り見かけず珍しかった。さらにその黒塗りのクルマ、何処かで見た様な――しかし、乗っている人物には見覚えはなかった。
ドキッ――。そのクルマに乗っていた女性と目が合った。
すると女性は、私に向け目配せをしてきた。本日二度目の女性からの目配せ。
驚いた訳でも、それにときめいた訳でもなく、その人物が一体何者で、ここで何をしていたのか。
もしかすると――今日の出来事が頭を過った。同時に、私はそれに賭けた。
押していた自転車を、さらに押し込み、駆け出した私は、勢いよく自転車に飛び乗った。
門を出たクルマは、追い付けない速度ではない。まだその姿を追える距離に居た。
人っ子一人居ない道には、そのクルマしか走っておらず、見紛うこともない。おまけに、クルマが通れそうな大きな道は、ひたすら真っ直ぐしかない。
連れて行ってもらおう、『女性街』まで――。
これを逃すと、何時また会えるか分からない。
再び巡り会えた機会を無駄には出来ない。
『オズ』の為にも。さらに噂の『女性街』にも行けるかもしれない。そう思うと、自ずと漕ぐ足にも力が入る。
おかげで、慣れない自転車と、増す速度の恐怖や、緊張を忘れ、興奮が急かしていた。
早く、速く――焦るあまり、私はクルマしか見ておらず、その速度に気付いていなかった。
それでもクルマとの距離は徐々に離されていく一方だった。
「ハァハァハァ…もう……限界」
こんなに息が切れたのは初めてだ。苦しい。死ぬ――頭がボーっとして、世界が歪む。
まるで時間の流れがおかしくなった様な、似た感覚をついさっき体感した様な。
交差点に差しかかり、渡った先で休もうと思った。
その曲がり角から彼女が出て来さえしなければ――。
彼女さえ出てこなければ――。




