インターミッション 本作の世界観11 ー 法喪失編 ー
法喪失rechtlosは人権停止処分とでも訳したらイメージしやすいような気がしますが、このお話の中の法喪失は現実の歴史に比べ、ずっと単純化しています。
歴史的な法喪失は、身分差別に起因するものや、結婚制度からの逸脱によるもの、肉体的な刑罰を賠償で免れた者や裁判所に出頭しない者へのペナルティなど多岐にわたっていて、人権上で受けている制限もそれぞれ違います。
法喪失者だから裁判が無いとかいう話中の発言は明らかに嘘でありまして、相手の法律知識が乏しいのを馬鹿にしている発言です。本当に法喪失者なのかどうか争う裁判が当然あります。
出生身分と言いますか「出生の秘密」を問うて法廷で争うなら、原告を含めて7人の証人が必要です。法に則った結婚で生まれていないことで権利能力が奪われるという差別的な社会ですが、皆で陥れたり中傷がまかり通ってしまったりが無いよう厳しくチェックする仕組み自体は公正ですね。紆余曲折はあれど、被告の権利を保護する法の姿勢は中世から続いているのです。
お金を払って処刑を免れた者も後半生を日陰で暮らすよう運命付けられます。これは被害者と和解して裁判にならなかった場合ではなく、有罪判決が出た後に金銭で執行を免れる場合です。再び強盗や窃盗を犯した容疑がかかった時、被害者だと主張する者はプロの決闘人を雇って法廷でカタをつけるよう要求できます。本人が死のリスクを負わないでいいわけです。 ・・・あ、負わないわけでもありませんね。差し向けたプロの殺し屋(合法)が負ける可能性もありますから。
このプロの決闘人というのも差別されている世襲的な職業で法喪失者ですが、上記のような扱いは受けません。金で処刑を免れた者特有の十字架です。
法喪失になった騎士が馬上槍試合で優勝すると名誉回復されるとか、元いた身分独特の特典があったり、面白いですね。
この法喪失と近しい関係の刑罰に「アハト」というものがあります。8という言葉が村八分と似ていて面白いです。偶然でしょうか? 本質的には法廷に出頭しないで逃げているものを出頭させるために基本的人権をことごとく無効にする宣告という感じで、その状態が1年と1日続くと法喪失を宣告することが出来ます。一定期間以上裁判から逃げていると審理抜きで敗訴で決定するという形です。
お話の中の法喪失は、法喪失とアハトが混ぜてあります。
人狼の話は本当で、狼の扮装のままで絞首刑になっている人の銅版画とか残っています。
父方の祖父祖母、母方の祖父祖母、計四人に中に法喪失者がいると法喪失者になるという、この悪意の優性遺伝は一体何でしょう。騎士身分と似ています。騎士身分の者は父方の祖父祖母、母方の祖父祖母、計四人に中四人とも騎士身分であるべし。貴種の劣勢遺伝です。
この法喪失という制度、古いゲルマンの風習のようですが、アウトローを拡大再生産するようで実に不条理です。




