インターミッション 本作の世界観2 ー 刑法と相続法 ー
後ほど、第一部最終話をUPします
お家騒動の話なので、身分制度や法律の話が出てきます。
ヨーロッパ中世をベースにしつつも、まあドラゴンや魔法使いの跋扈する話ですから、当然改変しています。
中世は、犯罪者を収監したり労役を課したりするよりサッサと吊るすが社会のためにも吉、という殺伐とした世界だったらしく、盗みは絞首刑がデフォで軽微な窃盗でも手の切断、特に夜の盗みは重罪だった様です。そこはそれ、地獄の沙汰も何とやら、賠償金で処刑は免れることが出来るのですが公民権は停止されて結婚はまず無理。社会の底辺行きです。戦争で英雄にでもならない限り名誉回復はありません。婦女暴行はもちろん不倫にも厳しい世界でした。
それで本作には「非嫡出子を冷遇する社会が生み出す悲劇」みたいな話が随所に出てきます。教会が幸せな結婚と正しい家庭のあり方をご推奨なさった光と影ですね。それを古い道徳感で真面目に受け止めて破滅に向かう人と、いくらでも誤魔化しゃ利くんだと嘯く連中、もともと気にしてない異民族。そんな対比の人間模様を感じ取っていただけたら幸いです。
これら制度も前出のAuctor vetusやSachsenspiegelが下敷きになっています。
人は古来、紛争の解決手段に暴力を使ってきました。それを迷信の力や談合で怪我のない解決を志向するようになり、ついに我々は、個人には正当防衛以外の暴力が否定されるところまで辿り着きました。
紛争解決手段としての暴力を、なんとか最後に手段に祭り上げ封印しようという努力の歴史は、ある意味、文明の歴史そのものかも知れませんね。
中世には、人を殺しても罰を受けない例外が正当防衛と、そして仇討ちが残っています。もう一つ、フェーデ。この後者2つは、紛争解決手段としての暴力を制限していく歴史の中で、同じものが二つに枝分かれしたような印象を受けます。
フェーデは焼き討ちも誘拐も略奪もありの集団暴力。戦争と変わりません。それを四週間前に事前通告が必須という制限を課して平和的解決の時間を稼いだと考えることが出来ると思います。まぁ末期には法の裏をかいた鉄腕ガッツの飯の種になったり、反乱同然になって車折に処せられたコールハース(映画で演じたマッツ・ミケルセンは格好良すぎ。もっと狂った人です)など変質しまくり。
仇討ちは正しくは血讐(totvintschafft:不倶戴天)ですが、あくまでも殺された肉親の仇を討つんだから、例え仇の肉親でも「自分は関与してないと宣誓した者」に手を出すのは禁止だとか、放火や略奪したら賠償義務を負うとか制限が加わっていきます。そして参加できる人間の範囲を、被害者の父親か相続権者のみとか言った具合に狭めていくことで周囲への無害化を図リました。フェーデとはもう完全に別のものですね。ロミオとジュリエットの実家のあれです。
本作中でも血讐が発端で大規模なフェーデが始まる場面がありますが、実際の歴史では小規模なフェーデが発端で根深い血讐の応酬が始まるケースが多かったようです。史料として残る和解誓約書に「血讐を除き停戦」のような文言が見られます。
こういう自力救済の暴力も「裁判でカタが付かない場合のみ容認」というような方向で制限されて行きます。しかし、私闘を許可しない代わりに「裁判官の前での決闘」は割と後世まで生き残っています。「どうしても話し合いで決着が付けられないなら法廷で当事者同士で好きなだけ殴り合え」というわけですね。そう突き放して和解に誘うわけです。上から目線のお裁きなど下しません。東洋的な専制君主のいない部族社会では、裁判官も格闘技のレフェリーのようなもの。戦う方法が暴力でも弁論でも、本質的には同じですから。
こういう合理化の一方で、Sachsenspiegelにおける「死体が法廷に出頭して被疑者を告発する(実際は法廷となる広場に遺体を運び込んで遺族が皆の前で下手人を糾弾する)」かのような奇怪な規定は、古い時代に部族あげて報復を宣告する時のお作法とかを色濃く残しているように見えます。被害者の遺体が下手人を指さす伝奇譚とか、元ネタはこれですね。
ジュディシャル・コンバットは原告vs被告ばかりでなく、証人vs証人で真偽を争う場合もあります。本作中でも備えに貴族が庶子を下男として手元に置く話がちらと出ます。
また、出てしまった判決に不服の場合、控訴でなく「判決非難」として評決した裁判員全員に決闘を申し込むことが出来ました。これも話中に出てくる話ですが、ストーリーには影響しません。
ーー「判決非難」の決闘は「彼の同等身分者七人で、他の七人(裁判員=判決発見人の判決提案に全員一致で評決した参審人)を相手に戦わなくてはならない。多数者の戦いに勝った方が判決を獲得する」SSPL2-12-8
血の雨降っちゃう話です。裁判はあくまでも同等身分同士の争いですから、レフェリーの判事さんは無事。
中世の裁判は決闘、雪冤宣誓、神判など現代人には納得し難い方法から、プロの法律家による証拠主義の世界に移行して行きます。
しかし、本作は神判で終わります。(ドラ猫最終話参照)




