138 友人は自分を映す鏡
私が会社に戻ったら、室長と久志くんはすぐに出かけてしまった。お好み焼きを食べながら打合せして、そのまま梨香のうちに行くのだとか。楽しそうだな。謝罪に行くってわかってる?
しかし、ということはゲーム機のセットをしてくれる人がいなくなるのわけで。
私の午後の仕事もなくなった。
『こっちの都合なので、バイト代は定時まで出しても……』
と久志くんは言ってくれたが、それでは時給扱いのバイトを雇う意味がなさすぎるので辞退した。
損しか出していない会社から、仕事をしない時間の分まで給料をむしりとるほど私は強欲ではない。お見舞い品を買いに行ったついでにお茶を飲んできた分の時給はもらうけど。
ついでに久志くんに、
『こういうときでも、現行品のハードだったらひとりで装着して仕事の続きが出来たんですが。久志さんは、ひとりではスタートできないゲーム機を売り出すことについてどうお考えですか?』
と直訴した。
久志くんは『えっ?』という顔をして、それから『あっ、そうか……。ひとりでは始められないのか。開発中だからって思ってたけど、もしかして完成後も……?』と、あわてだす。その点に初めて考えが至ったのだろう。まあ、自分で装着されてみないとあのハードの甚大な欠点は実感しにくいかもしれないが。
『久志さんは、話題のゲームをプレイしたりなさるんですか?』
とやんわり聞いてみたところ、
『や、やるよ。やるやる。○○○○ とか……、××× とか……』
といくつかの有名タイトルが出てきた。このあたりはやはり高校生。初めての企業にゲーム会社を選んだのも、ゲームに興味があるからなのかもしれない。
『じゃあおわかりになりますよね。ひとりで始められなかったら、けっこう困りますよね』
と言ったあたりで室長が、
『久志さん。そろそろ行かないと、お好み焼き屋が混んじゃいますよ』
と口をはさんできて、話はなあなあになってしまったが。
ざまあみろ。東丸に言ってもなしのつぶてだったが、社長にチクってやったぜ。
それはともかく、お仕事がなくなったのでその日は思いがけず早めに帰宅することになる。
家に帰っても別にやることはない。ないので、たまには料理をしてみたりする。
サクラちゃんが SNS に上げてくるような意識高くてカッコいい料理を作りたいところだが、私の料理の腕と予算の都合で『米飯・豆腐の味噌汁・豚肉の生姜焼き・生トマト』というお手軽メニューに。
生姜焼きは雑に作ってもそこそこおいしいところが優秀だよね。
一応、SNS に上げてみた。翠から『盛り付けヘタだね』とレスが付いた。『金返せ』と返しておいた。いや、金返せ、本当に。
サクラちゃんは忙しいから、二、三日既読がつかないことはよくある。梨佳は……見てないよね、やっぱり。
晴のこともだけど、最近なんだか反省モードになってばかりだ。
いや、それだけ私が自己中に生きていたってことで、きちんと反省しないといけないんだろうけど。
でも落ち込んでばかりでも能がないから、心機一転してサクラちゃんみたいにカッコよく生きようとしていたわけだけど。
結局のところ、私はサクラちゃんにはなれない。
サクラちゃんのおすすめカフェは私には分不相応だし。料理だって簡単なものしか作れない。
そもそもアルバイトだって不平不満を吐き散らかしながらイヤイヤやっているばかりで。
手の届かないものに憧れてばかりで、まわりにいるひとのことをきちんと見もしないで、文句ばっかり一人前に言って。梨佳は入院してしまった。
あー。入院のことも SNS に書いておいた方がいいよね。サクラちゃん、私と梨佳のこと心配してくれてたし……。
私 『ところで梨佳が入院しました』
翠 『はあ? 下手くそな料理とかアップする前にそれを先に言いなよ』
私 『あんたじゃなくてサクラちゃんに言ってるの』
翠 『私も梨佳の友達なんですけど?!』
私 『いいからお前は私に金を返せ』
あーもう、ホント、この女とは相性が悪いな。
翠 『ちょっと、それより梨佳は大丈夫なの?』
私 『検査して問題なければ二、三日で退院らしい』
借金の話を流されたとは感じつつも、それでも一応、翠も梨佳のことを心配しているのだと感じる。
翠についても、私はちょっと偏見を持ちすぎかもしれない。それだけのことが過去にあったとはいえ。あと、金は返せ。
翠 『お見舞い、行ったほうがいいかなあ。咲は行くの?』
私 『わかんない』
久志くんと室長のためにお見舞い品は買いに行ったが、自分がお見舞いに行くという発想はなぜかなかった。すぐに退院できると聞いたからかもしれないけど。室長の話から、お見舞いに行くよりゆっくり病院で休ませてあげたほうが良さそうだと思ったからかもしれないけど。
なんとなく顔を合わせづらい。それが本音だ。
私 『梨佳の上司が今日、ご家族に話を聞きに行ってるから。お見舞いに行っても良さそうか明日、聞いてみる』
私は判断を保留した。
翠 『そっか。行くんだったら声をかけてよ、私も一緒に行く』
私 『じゃ、そのときにお金を返してね。六千円ね』
翠 『は? 五千円でしょ』
私 『利子だよ。貸してから何年経ってると思ってるんだよ』
翠 『ケチ。たかが二年じゃーん』
私 『二年もだよ! さっさと返せよ!』
ダメだ、こいつとやりとりしているとカッコいい人生とは真逆のほうに引っ張られる。
いや、これが私の本来の姿なのかも。翠と同レベルの人間だと思うと落ち込むが。
翠 『じゃー。忘れないで連絡してよねー。アタシ風呂入ってくるから』
と告げて翠はやりとりを終わりにする。また五千円のことをうやむやにされた。絶対に返すと言わない、そんなあいつの原動力はどこから湧いてくるのだろう。
スマホを置いてため息をつく。
翠とやりあっても私の気分は晴れなかった。そりゃそうか。
とりあえず、早く梨佳に元気に職場に戻ってきてほしい。そう思った。




