【07】 水面に消えた声援
出走表の『お知らせ』欄に
『速水爽香、即日帰郷』とあるのを発見した。
戸部(ボートレースの規定で、
ちょっと考えられないようなミスを犯したときは、
違反した当日、選手に『即日帰郷』を言い渡すんだよな)
戸部
戸部(いったい、どんな違反をしたんだ。
レースリプレイをパソコンで見てみるか)
戸部(私も20代はボートレースをよくやっていたからなぁ。
そのときの知識が役に立つとは)
戸部が速水爽香の出た第2レースを
リプレイで見始めた。
戸部「ははははは。そうかぁ~!!!)
パソコンには、速水爽香が
事故艇の内側を走るシーンが映っていた。
【回想の終わり】
話は少し戻り、2時間前。
時計の針が、朝の7時半を指していた。
速水爽香の部屋。
速水爽香は昨日からよく眠れないまま部屋に居た。
昨日の自分の違反走行を思い出していた。
そして、頭の中でボートを走らせている光景を蘇らせた。
爽香(最終第1ターンマーク。
走りながらレスキュー艇は目に映ったが、
救助のことは何も考えないままいつもどおり、
あたしは本能で第1ターンマークに近い所を通過してしまったのよ。
そう本能で)
爽香(通過した後も違反走行に気づかなかった自分。
あのとき自分は何を考えて走っていたのだろう?)
爽香(そうだ! スタートで待機していたときに声援を受けたのだ。
今までの開催で一度だって声援を受けたことがないのに、
初めての声援!! いったい誰が、あたしに声援を送ってくれたのだろう?
スタンドを見たが大勢の観客で誰が言ったのか、ハッキリとはわからなかった。
気持ちがモヤモヤしながら、また最下位を走っていたのだ)
爽香(『また、最下位かぁ』と自分を責めながら走っていた時に、
スタンドから『速水へたくそ! 金返せ!』『帰れ速水!』『水面のクズ!』『浮遊物、引っ込め!』の罵声が聞こえた。
そんな自分にもう耐えきれなくなった。
それで、指示灯の『外』(外側走行の意)のランプも見ないで走っちゃったのよ。
もう、やんなっちゃう!)




