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【02】 退職願を賭けた条件

課長「いいか、聞いてるのか?

速水爽香が『美女来9丁目』に

住んでいると言うのなら、

今すぐ本人をここに連れてきて、

一緒に部屋まで行って、

速水爽香が部屋の鍵を開けて中に入り、

そこに速水爽香の家財道具があれば

認めてやる。

それが出来ないのであれば、

お前はもう明日から来なくていい。

明日から月末の退職日まで欠勤扱いにしてやる」


丹沢は黙って聞いていた。


丹沢の頭の中が真っ白になっていた。


この真剣勝負に勝ったつもりが、

負けてしまったのだった。


そして丹沢は、

競艇事務局に電話したことを思い出していた。


(自分がボートレース場で電話した時に、

事務局職員が『速水爽香は開催期間中、

当宿舎に寝泊まりはしておりますが、』

と話していた。

だからハッピーハイツの部屋に

明かりはつかなかったんだ。

しかし、それだけで爽香の自宅が

ハッピーハイツだという証拠はどこにもない。

自分の勝手な思い込みだったのだ)


課長席の前で、

丹沢と課長のやりとりを聞いていた戸部が

ふと思いついた。


戸部「もし、これから速水爽香の部屋に行って

速水爽香が居たら

課長が預かっている丹沢さんの退職願を

破り捨ててもらえますか?」


課長は、丹沢が持ってきた

ボートレース専門紙を見ながら、


課長(こいつも丹沢と一緒で馬鹿な奴だ。

私も昔は散々ボートレース場に

足を運んでいたんだよ。

今開催のボートレースは、

木曜が初日で、火曜日が最終日。

開催中に速水爽香が部屋に帰って来る訳がない。

ボートレースファンなら常識だ)


課長「いいだろう、

今持っている丹沢の退職願を破り捨ててやる。

その代わり速水爽香の部屋に行って、もし、

速水爽香が居なかったら戸部、お前も同罪で

退職願を出してもらうからな!」


戸部「わかりました」


それを聞いていた君本早苗が駆け寄ってきた。


早苗「そんなの約束しちゃダメ!

第一、戸部さんが辞める理由なんて

なんにもないのよ。

たとえ仕事でミスをしたって

退職にはならないのよ。

重大な法律違反でもしない限り、

市長は、あたしたちをクビにはできないのよ。

私たちは民間の会社員と違って

失業保険をかけてないから、

辞めたら生活できないわ。

失業保険がないというのは、

それは身分が保証されてるってことなのよ。

まして、たかが課長ひとりで

職員の進退を決められる訳がないでしょう?!」


「バン!!」課長が机をたたいた。


課長「『たかが』だと!

お前もクビになりたいのか!」


今度は、君本早苗を大声で怒鳴りつけた。

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