【15】 賞金の出ない厳しさ
丹沢「乳児や子供は、
泣いてストレスを解消しているんでしょう?
女性がドラマを見て泣くのも同じ効果があるらしいじゃないですか。
とにかく涙を流すのは、前を向くための手段のひとつだから泣いたらいい」
爽香「ありがとう。ごめんね、
感情が抑えられなくなってしまって」
丹沢「いいんです。今の社会、こういうことが必要なんです。
私も先週末は泣きたかったから」
丹沢は、住民課長に退職を迫られた時のことを思い出していた。
丹沢(戸部さんや仲間にも迷惑をかけたしな)
爽香「あなたも? 」
丹沢「それはもう毎日がつ……」
爽香「あたしだけじゃないのね、辛いのは」
丹沢「はい。私も辛いことだらけです」
爽香「自分の考えが甘くて情けなくなっちゃう」
丹沢「お互い様です。
でもお互いにまだまだ、これからですから」
爽香「そうよね、あたし、まだ社会に出たばかりだものね」
爽香は自分に言い聞かせるつもりで言った。
丹沢「こんなこと言っては失礼ですが、
生活費が足りないんじゃありません?」
爽香「ええ、まぁ……」
丹沢「今回走ったボートレースの賞金というのは
いつごろもらえるのですか?」
爽香「賞金はもらえないの…… 」
爽香は小声だった。
丹沢「えっ! どうしてもらえないの?
違反したから? 賞金を没収されちゃったの?」
丹沢の口の利き方がタメグチになっていた。
爽香「丹沢さんは本当にボートレースを知らないのね。
だからあたしを1着にして舟券を買うのよね。
もし本当にボートレースに詳しい人なら
私の舟券なんか絶対買わないものね」
爽香の目に涙が溜まった。
丹沢「それは、舟券を買うと言うより、夢です。
あなたが勝つという夢を買ったんです」
爽香「……ボートレースの賞金というのはね、
1着から3着までの選手にしか出ないのよ」
丹沢「4着の選手は?」
爽香「4着も5着も6着も賞金は無し。
だから毎回6着のあたしなんか、
ちょっとうまくなったところで賞金にさえありつけないのよ」




