【14】 水面のクズと呼ばれても
丹沢「私はあなたに期待してるんです。
そして信頼もしてます。あなたに夢をかけています。
あなたの舟券を買ったのは、
私があなたに勝って欲しいという夢なのです」
爽香「勝って欲しいという夢……、そして信頼されている……」
無意識の内に、爽香が丹沢の言った言葉を口にしていた。
爽香にとって生まれて初めて、
人から頼りにされる言葉だった。
爽香(こんなバカでなんの取り柄のないあたしに?)
丹沢「頑張ってくださいね、
1着を取るところ見せてくださいね」
爽香(『頑張って』は私の嫌いな言葉なのに、
この人が言うとなぜか励みになる。
あぁ、また泣きそう……)
『夢』、爽香が忘れかけていた言葉だった。
一年前レーサー養成所へ入った時は、
持っていたはずの『夢』を、
今はどこかへ置いてきてしまっていた。
そして、昨日の管理者に怒られた言葉が思い浮かんだ。
『速水君、ボートレース選手だけが職業じゃないんだ、
見切りをつけるなら早いうちだよ』
他のボートレーサーからは、
『成績は悪いし、ルールは守れないし、辞めたらどう?』
と、言われた。
爽香の目に涙が溜まってきた。
丹沢「どうかした? 」
爽香は泣き始めた、また、丹沢の胸に顔をうずめて。
そして、5分ほど泣いて爽香は泣き止んだ。
丹沢「落ち着いた? 」
爽香「うん」
爽香が神妙にこっくりとうなずいた。
丹沢「よかった」
爽香「泣いてすっきりしたわ」
丹沢「どうしたの?」
爽香「だって……」
丹沢「『だって』なに?」
爽香「だって、あなたが『期待してる。信頼してる。あなたに夢をかけている』
なんて言うんだもん。泣いちゃうわよ」
丹沢「……」
爽香「観客からは『水面のクズ!』とか『浮遊物』と言われ、
他のレーサーからは『辞めたらどう?』と言われているのに、
丹沢さんだけがあたしにやさしくしてくれるんだもん、
そりゃぁ泣いちゃうわよ」
丹沢「そうか、そんなひどいことを言われたんだ」
爽香「うん」




