70話 ブタ
車体の側面ハッチが勢いよく開く。
中から聞いたことのある関西弁が響く。
「はよせえ!」
鈴凛は驚く。
LJだった。
「乗ってください!」
青蛾も横から顔をだす。
アルマは一瞬も迷わず最後の力で走ってくる。
「ホナイクデええええええ!」
誰に習ったか今わかった関西弁を叫びながら鈴凛の体をひょいと抱え上げ、そのままハッチへ飛び込む。
「ハッチ閉鎖!」
青蛾が叫ぶ。
ガシャン、と重い音を立てて扉が閉まる。
中に入ると、小さな部屋ほどの空間があった。
操縦席では、知らない男たちが計器をいじっている。
「はやく行きなさいよ!」
ヴァレリが叫ぶと
「イエッサー! ヴァレリお嬢様!」
中の男たちが大合唱して答えた。
直後、外の兵士たちが一斉に発砲した。
「わ」
銃弾が装甲へ雨のように降り注ぐ。
しかし分厚い鋼板には傷一つ付かない。
「掘削出力、最大!」
操縦者がレバーを押し込む。
前方の巨大ドリルが再び咆哮を上げる。
ギュォォォォォンッ!!
「うわわ」
ものすごい揺れで近くのパイプに鈴凛はしがみついた。
車体は岩盤へ突っ込み、まるで水の中へ潜るように地層の中へ消えていった。
背後では兵士たちの怒号が遠ざかっていく。
「追え!」
土と岩が流れるように車窓を横切り、地底戦車は暗い地下トンネルを猛烈な勢いで駆け抜ける。
鈴凛は荒く息をつきながら、ようやく緊張を解いた。
「助かった……」
「なんで、毛利がラムジーを」
「ウホ」
関西人からゴリラに戻ってしまったアルマがぼりぼりとお尻をかいていた。
「黄猿氏は自分の利益のためなら何でもする。前からそうだったじゃないです」
「!」
どこかで聞いたことのある喋り方。
「久しぶり、百姫氏」
見たことのある太った男がじとりとこちらを見ていた。
鈴凛は口があんぐりあいてしまった。
「鯆多丸−−!」
「あの時から年老いてなくてなにより」
鯆多丸がチラチラこちらを見ながら相変わらず失礼なことを言った。
「なん……てゆうかなんでヴァレリと鯆多丸が?」
鯆多丸がはっとしたようにびくりとなる。
鈴凛との話を中断し、なにやら小型冷蔵のような場所をあけはじめた。
「あーつかれた……」
ヴァレリがのびをしながら歩いていく。
「いままでどこにいたの、行方不明になったって……」
鈴凛を無視して、鯆多丸がドリンクを持ってすさまじい速さで通りすぎていった。
「!」
「はあ疲れた……」
ヴァレリが自分の指定席であろう、ふかふかのソファにぼふりと座った。
横にすぐさま鯆多丸が飛んでいった。
「!!?」
「お疲れ様でした!! ヴァレリ姫、お飲み物をどうぞっ!!!」
鯆多丸がひざまづいて、頭をさげて飲み物をさしだしていた。
「?!」
「ああ、このロリコン、あんたの下で働いてたんだっけ? どっかの施設で助けだしたのよ、もうどこだったのかも忘れたけど……」
鯆多丸は下を向いたままとみせかけて、まだ幼いヴァレリの真っ白で若いふとももを下衆い目でチラチラ見ている。
「……」
心底気持ち悪い。
「……あの」
なんで助けたの?と聞いてしまいそうになりながら、鈴凛は次の質問を考えた。
鯆多丸は今までどこに−−
「このブタ、ちょーう、気持ち悪いわよね」
ヴァレリは囁くようにそう言って、組んだブーツの足先で鯆多丸の頭をこづいた。
「……おほ……」
鯆多丸が気持ち悪い野太い声をだす。
「……」
鈴凛は鳥肌がたった。
「ヴァレリ様はこの腐った世界に降り立った唯一の天使でございます」
「そうよね?」
ヴァレリが満足そうに鯆多丸を見下ろしていた。
どうして二人は出会ってしまったんだろうか−−
鈴凛はその様子にドン引きしてしまう。
「てゆうか、わたしの時と対応が違いすぎるんだけど!」
「あっ……!」
ヴァレリがわざとらしく、飲み物のストローをつまみあげて落とす。
「ああ、ストローがああああ!!」
鯆多丸が慌ててそれをひろって、ポケットからビニール袋をだして、ひろって入れていた。
「え、それどうするの」
「吾輩のコレクションに決まっている」
「……きも……」
鈴凛は思わず声がでてしまう。
「ね、このブタ、世界一きもいわよね……」
ヴァレリは面白そうにその様子をにやにやして見下ろしていた。




