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八百万の果て  作者: 三雲にに
真偽ノ甘噛(世界編)
210/214

69話 追っ手

入り口のほうで気配がした。

「!」

「いけませんねえ」

聞いたことがある声がした。

「!」

毛利就一郎とラムジーが武装した男たちを連れて入ってくる。

「毛利」

「ラムジーわたしを売ったのね」

「あなたはもともと黄猿様のものでしょう」

「……」

「みつけしだい引き渡すようにお願いしていたのです」

毛利就一郎がにっこりとした。

「爆弾は」

「俺が解除しました……」

申し訳なさそうに小さな影がでてきた。

「シャオラン」

「戦姫様がたは我々がお守りしたします」

ラムジーがにやりと笑って毛利就一郎をみやる。

「そうですよね」

「ええ」

毛利就一郎がにこりとする。そして、次の瞬間、その右腕があがった。

「!!?」

銃声がして、毛利就一郎がラムジーを撃った。

「?!」

予想だにしていない行動に呆気にとられる。

「な……」

「?!」

「な……なにを……」

何が起こったのだろう。

「昨日の友達は今日の敵」

銃口に目を落としながら毛利就一郎は笑った。

「我々の世界では常識です」

まわりにいた武装勢力たちも毛利就一郎買収されていたのか、微動だにしない。

「油断大敵。そうですよね?」

毛利就一郎がラムジーの死体に笑いかけていた。

「なんてことを……!」

「この世界は食うか食われるか」

「わたしのお姫様は」

「!」

毛利就一郎がつかつかと歩いてくる。

「何度痛い目をみればわかるのでしょう」

「ガウ!」

アルマが牙をむいて鈴凛の前に立ち塞がってくれた。

「おやおや……」

毛利就一郎は笑っていた。

「やはり戦姫様がたは一筋縄ではいかないようですね……」

「!?」

後で金属が擦れ合う乾いた音が響いた。

研究所の床を、こつんこつんとヒールの音を響かせながら一つの影が歩いてくる。

毛利就一郎がにこりと笑って口を開いた。

「お姉さんに、おしおきをしてさしあげなさい」

その姿を見た瞬間、鈴凛の呼吸が止まった。

アルマが唸る。


「……咲」


返事はない。


なぜ毛利就一郎たちが咲を—

鈴凛は混乱する。

真緒が高天原から父親に送り込んできたのだろうか。


半分機械化された美少女は、かつて妹だった面影を残していた。

肩まで伸びた髪はまっすぐで茶色のストレートはそのまま。

静かな瞳も、その輪郭も。

だが高天原で見た時よりさらに改造が進んでいた。

人間だったはずの身体はもうほとんど存在しなかった。

首から下は鈍い銀色の装甲に覆われ、胸部には青白く脈動する動力炉が埋め込まれている。右腕は大型の砲撃ユニットへと変わり、左腕には刃渡り一メートルを超える高周波ブレード。脚部は逆関節型の機械脚となり、一歩踏み出すたびに地面へ深い亀裂を刻んでいく。

「あれ……あんたの妹?」

ヴァレリが情報の記憶をたどるように言って顔をしかめた。

「!」

男たちが銃を構えたので、アルマが弾かれるように、天井へ飛んだのが見える。

「?!」

同じタイミングで背中にある六枚の展開式スラスターを開く音がする。

機械の羽のように広がり、蒼い粒子を夜空へ散らした。

「やばい!!」

「生体認証……一致」

咲の口が動く。

しかし聞こえてきたのは、感情を削り取られた電子音声だった。

アルマが男たちやラムジーを蹴散らしているのが目のはしに見えた。

「対象確認」


咲の赤い瞳が鈴凛を捉える。


「任務開始」


震える声を漏れた。


「咲……あなた、生きて……」


「対象」


機械の瞳がわずかに光る。


「!」


言葉が終わるより早く、咲の姿が消えた。


轟音。


空気が弾ける。


次の瞬間には鈴凛の眼前へ現れ、高周波ブレードが一直線に振り下ろされる。

ヴァレリが鈴凛のほうに走り込むのが見えた。

「!!?」

金属同士が激突し、火花が夜を裂いた。

受け止めた衝撃だけで足元のコンクリートが粉々に砕け散る。


「くっ……!」


ヴァレリの箱からも妙な縦のようなものが飛び出している。


ヴァレリがそのまま押し返そうとした瞬間、咲の背中のスラスターが咆哮を上げた。


爆発的な推進力。


鈴凛は防御ごと吹き飛ばされ、研究所の壁を三枚突き破る。


瓦礫が降り注いだ。何本か骨が折れている。


咳き込みながら立ち上がる鈴凛の前へ、再び咲が静かに降り立った。


その顔だけは昔と何も変わらない。

「!!」

咲が鈴凛をつかみあげると、体を思い切りほうった。

「きゃ」

どさりと地面にたたきつけられる。

痛みにもだえながら体を起こすと影がさした。

「いいながめですね……」

毛利就一郎がにっこりと微笑んでいる、咲が命令で毛利就一郎に鈴凛を放り投げたようだった。

「あなた……咲を……」

「肋骨をだいぶやりましたねえ、足もですか?」

「……く」

「抵抗は懸命とは思えませんね」

毛利就一郎はにっこりと笑った。

「械姫様と獣姫様とて勝てないと思いますよ」

鈴凛から視線を戦いへと移しながら、ガムを口にほうると毛利就一郎が言った。

「!!」

械姫と獣姫

それが十二宮によってふたりにつけられた戦名だったようだ。


咲の右腕の砲身が展開される。


無数の照準レーザーがヴァレリの全身をなぞり、赤い光点が心臓、頭部、四肢へと次々に浮かび上がる。


「やめて!」


鈴凛の叫びが響くよりも早く、咲の右腕から放たれた光弾が一直線に迫る。


アルマがヴァレリを突き飛ばし、自らが盾となるようにまた前へ躍り出た。

「く!」

「ビッチ!」

ヴァレリの背中からも負けていない兵器の量が飛び出して、咲の動きが計測するように止まる。

「おやおや……頑張りますねえ」

毛利就一郎が一人だけ傍にしりぞいており、戦いを眺めみていた。

ヴァレリの光弾が咲の左肩を貫き、白銀の装甲を砕く。火花が散り、紫色の血が地面へ飛び散った。それでも咲は歯を食いしばり、ブレードを構え直す。


「ヴァレリ……」


しかし咲は感情を見せない。


「脅威度、再計算。対象・ヴァレリ。優先排除。」


背部スラスターが青白く輝き、一瞬で間合いを詰める。


高周波ブレードが閃く。


甲高い金属音。


ヴァレリは辛うじて受け止めるが、圧倒的な出力差に押し負け、地面を抉りながら数十メートルも吹き飛ばされた。


「ヴァレリ!」


鈴凛の叫びが響く。


その隙を逃さず、咲は標的を変える。


「次目標──アルマ。」


戦場の奥で、巨大な影が唸り声を上げた。


岩のような筋肉を持つ巨体が胸を叩き、真正面から咲へ突進する。


「ウオオオオオオッ!!」


大地が震える。


アルマの拳は鉄の箱すら粉砕する威力を持っていた。


だが。


咲は避けない。


左腕のブレードを収納すると、代わりに機械の腕を開き、アルマの拳を真正面から受け止めた。


轟音。


衝撃波で周囲の窓ガラスが一斉に砕け散る。


「……出力、確認。」


機械音声が静かに告げる。

「捕獲」


油圧シリンダーが唸りを上げる。


アルマの拳を掴んだまま、その巨体を軽々と持ち上げた。



アルマは苦悶の咆哮を上げながらも逃れようとしている。


しかし咲は追撃を止めない。


膝の装甲が展開し、至近距離から圧縮衝撃弾が撃ち込まれる。


「ガアアアアアッ!!」


爆発がアルマの胸を直撃し、巨体は何度も地面を転がった。


「やめて!!」

鈴凛が叫ぶ。


それでもアルマは震える腕でなんとか抵抗しようとしている。


血に濡れた毛並みの奥で、その瞳だけは決して折れていなかった。


咲の赤い瞳が、その姿を静かに見据える。


「対象確認」

背中の砲門がゆっくりと展開される。

「やめて……」

「無力ですよね」

悪意など微塵もみせない顔が綺麗に微笑んでいた。

「……!」

鈴凛は泣いていた。

「二人を助けたいですよね?」

毛利就一郎のにっこりとしていた狐目が開く。

鈴凛は混乱と悔しさで何も言えなかった。

「ほうら」

「……!」

「神刀がないと何もできないでしょう?」

毛利就一郎が鈴凛の前にひざをついて、目にかかった髪を指でよけた。

「お姫様」

「……!」

毛利就一郎が婚約指輪のように鞘指輪を鈴凛の鼻先へ差し出した。

「これが欲しいでしょう?」

「……!」

鈴凛は吐き気がした。

これを使えば明が使える。力が戻る。だが、明は精神的に鈴凛を支配し、鞘指輪は戦姫を昇華させいつでも殺せる力を持っている。

つまりそれは−−

「さあ」

毛利就一郎が囁いた。

「いつまでもわがままを言ってないで」

完全な隷属を意味した。

これをもう一度つけるということ。

それはこの男の完全な奴隷に戻ることを意味した。

戦姫に戻り、十二宮の支配下でなんでもやらされることを意味した。

「二人は」

アルマが息もたえだえにこちらを見ている。

ヴァレリも倒れたまま青い目でこちらを見ていた。

「ええもちろん助けてさしあげますよ」

「!!?」

「そんなこと望まない!!」

鈴凛は指輪を弾き飛ばした。

鈴凛が歯を食いしばって、毛利就一郎を睨みつけたその瞬間だった。


──ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


足元が震えた。


兵士たちも一斉に顔を上げる。


「な、何だ?!」


振動はみるみる激しくなる。


壁の向こう側から、岩盤を砕くような轟音が響き始めた。


ヴァレリの目が見開かれる。


「壁の向こう……何か来る!」


次の瞬間。


ドォォォォンッ!!


コンクリートの壁が内側へ爆ぜた。


鉄筋がねじ曲がり、岩石と粉塵が爆風のように吹き荒れる。


兵士たちは思わず身を伏せた。


土煙の中から現れたのは、巨大な鋼鉄のドリルだった。


直径三メートルはあろうかという螺旋状の刃が高速で回転し、壁を紙のように削り取っていく。


「な……」


「地下掘削車だと」


ドリルが止まる。


続いて、丸みを帯びた車体がゆっくりと姿を現した。


まるで巨大なモグラを思わせる地底戦車。


「モグリン……」

「モウル!」

ヴァレリがすかさず訂正する。


装甲は土色に塗られ、前面には丸い強化ガラスの窓が並び、左右には履帯ではなく掘削用の補助スクリューが何本も突き出している。


土煙をまとったその姿は、地下世界そのものから現れた怪物のようだった。


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