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八百万の果て  作者: 三雲にに
真偽ノ甘噛(世界編)
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68話 研究施設の破壊

地上では畑にしか見えなかった場所。その地下には、一つの都市にも匹敵する巨大施設が眠っていた。

天井を走る無数の配管。

白く冷たい照明。

機械の駆動音が絶えず壁の奥から響き続けている。

「侵入したことはまだばれてないようね」

ヴァレリが腕に装着した端末を見つめながら囁く。

金色の髪を後ろで束ねた十二歳の少女。その瞳だけが年齢を裏切るように冷静だった。

「監視ルートは三分ごとに変わる。予定より二分遅れてるわ」

鈴凛は小さく頷く。

「アルマ」

アルマは背中の肉をもりもりっと動かした。

「ウホ」

体格だけ見れば暴れ回る怪物そのものだ。

しかし足音は驚くほど静かで、分厚い指先は精密機械すら壊さず扱えるほど器用だった。

彼女は爆薬入りのケースを隠し持っていた。

「!」

「爆破するの」

「見学でもしにきたの?」

ヴァレリがつらりとして鈴凛を睨む。

「いや……そうだけど」

どう見ても施設は巨大で、爆弾をしかけて巻き込まれずに地上まで戻れるのか?と不安がよぎる。

アルマはそんなことなどまったく気にしていないのか、理解していないのか、フルーツのように爆弾を長い爪でつまみあげて不思議そうに観察していた。

「最初は研究区画から」

ヴァレリが先導する。

鈴凛たちは爆弾をつけてまわった。

廊下の左右には厚い防爆ガラスがある。

中では白衣を着た研究員たちが何かを培養している。

巨大な水槽。

青白く光る液体。

中には人間にも動物にも見えない影が浮かんでいた。

「……何を研究してるの。」

鈴凛が思わず呟く。

ヴァレリは一瞥しただけだった。

「知らない方がいいかもね」

その声には珍しく迷いがあった。

あの水槽にまさか翔嶺が入れられるのだろうか—

そう考えると胸がザワザワした。


アルマが壁際へ爆薬を固定する。

爆弾は壁に吸着する不思議な素材でできていた。一度くっつくとびくともしない。

ヴァレリが持っている装置でタイマーを同期しているようだった。

「……」

赤いランプが一度だけ点滅する。

「設置完了」

三人は一言も交わさず次の区画へ移動した。

次は倉庫らしき場所だった。

高さ二十メートル近い空間に、無数のコンテナが積み重なっている。

兵器らしきもの。

電子部品。

燃料タンク。

どれにも企業名はなく、管理番号だけが記されていた。

「軍でもここまで隠さない」

鈴凛が眉を寄せる。

アルマは巨大なクレートを片手で持ち上げ、その裏へ爆薬を設置する。

鈴凛は周囲を警戒した。

遠くで靴音がしたのだ。

「!」

三人は同時に息を止めた。

巡回兵が二人。

ライフルを肩に掛け、何気ない会話をしながら通路を横切る。

「上の発射試験、明日らしいぞ」

「また徹夜か……」

その言葉だけを残し、足音は遠ざかっていく。

三人はしばらく動かなかった。

やがてヴァレリが小さく息を吐く。

「行こう」

発電区画。

巨大なタービン。

高圧電流。

振動が床から伝わる。

爆薬。


二つ目。


三つ目。


四つ目。


施設の骨格となる柱や送電設備へ次々と固定されていく。


「あと一か所よ」


そこだけ壊せば、地下施設全体が崩壊する。


ヴァレリは端末を確認する。

「中央制御核」

「そこが最後?」

「ええ」

「急ごう」

「……」

長いエレベーターでさらに地下へ降りていく。

数字は止まらない。


地下五百メートル。


六百。


鈴凛の喉が乾く。


「深すぎる……」


「普通の研究施設じゃないから」


ヴァレリの表情も険しかった。


やがて扉が開く。

「!!」

そこから先は、今までの通路とはまるで違っていた。


一直線に伸びる巨大な搬入口。


壁には耐熱タイル。


床には異様に太いレール。


「これ……」


ヴァレリが立ち止まる。


「どうした?」


返事はなかった。


三人はレールを辿るように歩く。


数百メートル。


やがて最後の隔壁が開いた。


その瞬間だった。


誰も言葉を失う。


目の前には。


地下とは思えないほど巨大な空間。


天井は見えない。


何百本もの照明が夜空の星のように並び、その中心には一本の白い巨塔が静かにそびえ立っていた。


ロケット。


ソラリスを宇宙へ送り出すための巨大なロケットが、発射台に固定されている。


周囲には整備用アーム。


燃料供給管。


巨大クレーン。


そして天井へ続く円筒状の発射シャフト。


「……嘘」


ヴァレリの顔色が変わる。


彼女は震える指でロケットの奥を見つめる。


そして鈴凛も、発射台の周囲に林立する無数のロケットを見て気付く。


そこにあったのは一本だけではない。


暗闇の奥には、次の発射を待つ同型機が何本も静かに眠っていた。


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