62話 アルマ
夜のジャングルに、激しい銃声が途切れることなく響き渡った。
「やめて!」
獣の女は木々の間を猛スピードで駆け抜け、枝から枝へと飛び移る。暗闇の中で懐中電灯の光が何本も揺れ動き、そのたびに黒い影が森の奥へ消えていく。男たちは叫びながら追いかけ、引き金を引き続けた。銃声は雷鳴のように反響し、周囲の生き物たちは恐怖に駆られて逃げ去る。
−−ビーストskh!
男たちの罵声の中で英語が聞こえる。
すさまじい速さで走り出し、鈴凛もあわてて見失わないように追いかける。
動きが全く違う。
訓練された兵士だ。
鈴凛は脳裏でそう思いながら、ひとりに追いついて、後ろから後頭部を殴ると、銃を奪った。
暗視のヘルメットがとれると、中東風の顔がちらりと見えた。
兵士たちは鈴凛を無視して、獣を追いかけている。
しかし、そのアルマはただ逃げるだけではなかった。
突然、頭上の木々が激しく揺れた。闇の中から鋭い鳴き声が響き、男たちは思わず足を止める。次の瞬間、アルマは高い枝から飛び降り、予想もしない方向から現れた。懐中電灯の光が乱れ、木の葉が激しく舞う。
男たちの間に混乱が広がる。
「!?」
見失ったと思った瞬間には別の場所で枝が折れる音が響く。
鈴凛も緊張で体が止まった。
本能的にやめてと言ったが、兵士たちは攻撃してこないところをみると、連中はラムジーから派遣された鈴凛の捕獲を手伝いに来たのだろうと思う。
しかし彼女は—
なぜか鈴凛はジャングルの獣姫が自分に重なって銃撃されるのはいたたまれなかった。
闇の中で光る目だけが一瞬見え、すぐに消える。森そのものが敵になったかのような不気味な空気が広がり、男たちは互いに怒鳴り合いながら周囲を警戒する。
「やめて」
「任務を遂行しろ」
一人が英語で苛立った声で唸る。
「でもあれは猛獣じゃなくて人間だ」
「!!」
ひとりが物陰をとらえて乱射する。
銃声はさらに激しくなるが、暗闇は何も答えない。
「まって!」
「!」
男たちの緊張が一気に高まった。鈴凛にもわかる。
囲まれている。
何かが鈴凛たちの一段を囲んでいた。
「!」
湿った空気の中、木々の上から聞こえる不規則なずるずるという物音だけが男たちを追い詰めていく。
「なんだ」
ジャングルの奥深くで、獲物を追っていたはずの者たちは、いつしか自分たちが何かに見張られているような恐怖に包まれていた。
ぶわりと、何かがひろがった。けむくじゃらの無数の蛇、いやアルマの腕だった。
鈴凛も足を救われる。
「!!?」
夜の森で、銃声は止んでいき、男たちの叫び声が響いた。




