61話 獣姫
「なん……」
鈴凛はあたりを見回した。
どこにもいない。でも近くにる。
神経を研ぎ澄ます。
こちらの様子を伺っているのだ。
「!」
麻酔銃を構える。
「どこ……」
鈴凛はジャングルの闇を睨んだ。
いや、あれは何だったんだろう?
人?
獣?
猿?
忌?
黒っぽい顔はびっしりと毛が覆われており、瞳は豹のように金色だった。
匂いは忌に近かった気がする。
やはり忌だろうか。もしくは発症前の目隠し者。
「−−!」
後ろから気配が—と思った時にはもう遅かった。
手が弾かれ、麻酔銃を失う。
「!?」
しまった。
後ろから飛び出してきた獣は信じられない速度で、身をくねらせ方向転換すると、鈴凛に飛びつこうと両手を広げて覆い被さる。
「あ!!」
首を押さえつけられる。信じられない力だ。
どちゃりと、泥に叩きるけられる。
金色の目が爛々とこちらをみていた。口の中には牙がみえる。
「イノチ」
唸るような声で獣が言葉を発した。
しゃべれることに鈴凛は驚いた。
「……!」
そして驚いたことに低い声が漏れた。しかもおそらく女の声だった。
「……え?」
「イノチ」
また同じように言った。
じいっと瞬きもせず見つめたまま獣女はそう言った。
鈴凛は馬乗りにならたまま、けむくじゃらのかを見つめてそういうことしかできなかった。
額の上のほうに2本の捻り上がった角が生えている。
雨狼と同じ—
「イノチノニオイ」
鼻さきを近づけて、獣女は鈴凛の額の匂いをかいだ。
「!……命の……匂い?」
日本語だ。
鈴凛は驚いた。
「あなたは……だれ?」
獣女ははじめて瞬いた。
「イノチ」
「え……」
力が緩む。
「!」
獣女は鈴凛をはなすと、四つ足の獣のように後ずさる。
「!」
彼女の背中にはタテガミのようなものがあり、その毛がぶるんぶるんと震えた。
「!」
すると顔の毛がどんどんなくなっていく。
黒いなめらかに光肌に黄色くちぢれた髪、はっきりとした黒人風の顔立ちが見てとれた。
「ワイは、アルマ」
ワイ?
「!!?」
その時後ろで気配がした。
「だめ!!」
凄まじい銃撃音が鳴り響く。




