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八百万の果て  作者: 三雲にに
真偽ノ甘噛(世界編)
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59話 病気の青蛾

ジャングルの奥深くに建つラムジーの邸宅で、鈴凛は青蛾を見守っていた。

「はあ……」

荒玉に触れる。それは怪し気な光を放っていた。

未来妃や八岐大蛇を探すどころではない。

「……う」

大きな天蓋付きベッドに青蛾が横たわっている。

広々としたバルコニーからどこまでも続く熱帯雨林が広がっている。

遠くから聞こえる鳥の鳴き声。木々の間を吹き抜ける風。無数の昆虫が奏でる絶え間ない羽音。

数日前まで元気だったのに。しかし今は高熱で顔を赤くし、額には冷たいタオルが載せられていた。

「寒い……寒い……」

彼女はそう呟き、震える手で毛布を握り締めた。

室温は快適なはずだった。それでも悪寒に襲われているらしく、肩が小刻みに震えている。

「青蛾」

鈴凛は水の入ったグラスを差し出した。

彼女はゆっくり身体を起こそうとするが、思うように力が入らない。ようやく一口だけ水を飲むと、再び枕へ沈み込んだ。

青蛾は高天原にずっといた普通の人間より免疫が弱いのかもしれない。

「……」

苦しむ青蛾の顔を見ていると、やるせなかった。

自分は本当に無力だ。

いや無力なこともわかってない。

「こんなことで……」

何ができるというのだろうか?

心が折れそうになる。

自分には本当に何もない。

サイドテーブルには抗マラリア薬、体温計、説明書が置かれている。

窓の外を見ると、闇に包まれたジャングルの上に満月が浮かんでいた。

皮肉なことに、この美しい熱帯雨林こそが彼女を苦しめる病気の発生地だった。

「氷持ってきたで」

LJが氷嚢を持ってきた。

「ありがとう」

「薬がもうないで」

「もらえないなら……全員ぶちのめして、青蛾おんぶして出ていくしかない」

鈴凛がぽつりとそう言うと、LJは冗談と思ったらしく、少し笑った。

「おお、そんときゃわいも助けてな」

「そんな余裕ない。街まで全力で走らなきゃいけないから、自分でどうにかして」

「……!」

LJは鈴凛の様子に少しぎょっとしたようだった。

誰かがやってきた気配が玄関のほうでしたあと、開け放されたドアをノックする音がする。

「!」

「あまりよくないようですね」

数人を引き連れたラムジーが一週間ぶりに現れた。

あいかわらずひとりだけ中東風の格好をしている。そして今回はもう一人黒人の立派な服をつれている人物がいた。

おそらくこの屋敷の本来の所有者である。

「……」

男はラムジーの後ろでじっとしながらも、鈴凛を上から下まで流し見た。

「マラリアに感染なされたとか」

ラムジーがそう言って、青蛾のベッドに近寄ると、LJがびくりとして部屋の壁のほうに後ずさった。

「おおう……これはよくなさそうですね」

「医者にみせて」

鈴凛ははっきりとラムジーに言った。

「今は戦時中で……なかなか医者も……」

ラムジーはもったいぶるように髭をなでながら言う。

「嘘だ。あなたは十二宮でしょう。なんでもできる力があるはずだ」

鈴凛は従えている黒人たちをみやって言った。

「ほほう……」

ラムジーはにやりとした。

「ここからわたしを出せないって言うなら、医者を連れてきて、もしくは青蛾だけでも」

「恐れながら、今は戦時中なのです、プリンセスセンチュリー」

「じゃあ、あなたを殺すしかない」

自分の口からとんでもない言葉がでた。

その時、脳裏で柊木省吾がにやっと笑った気がした。

LJが正気か?と言わんばかりに鈴凛をあっけにとられた顔でみている。

「それは困りますね……こういうのはどうでしょうか?」

ラムジーは肩をすくめて笑った。

LJが驚いて今度はラムジーを見た。

「実はこちらも少々問題が発生しまして……」

「……問題?」

鈴凛は視線でラムジーに続きを促した。

「内密にやっていただきたいことがるのです」

「内密?」

鈴凛は身構えた。戦姫の自分に言ってくることだ。ろくなことでない。

「はい」

「あなたもどうやら高天原を危険な方法で降りてこないといけない身のようなので、簡単に告げ口をなさるといくことはないでしょうが……」

「!」

ラムジーはやはり鈴凛たちたちが無理やり高天原を出たことに気がついているようだった。

「つまり取引です」

「!」

「そう。青蛾さんを治す引き換えにです。どうです?」

「……」

青蛾が人質というわけである。

「わかった何」

「西側の塔から逃げた猛獣を探して欲しいのです」

「猛獣?」

「はい」

LJが今度はラムジーを正気か?と言った顔で見ていた。


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