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八百万の果て  作者: 三雲にに
真偽ノ甘噛(世界編)
198/217

57話 LJ

茅葺きの高い天井に、夜がゆっくりと染み込んでいる。

太い木の柱に支えられた広々とした部屋は、アフリカの大地と一続きになるように開かれ、正面のテラスからは果てしない平原が見渡せる。遠くには霞んだ森の輪郭が伸び、コンゴの風が、白い蚊帳のカーテンを静かに揺らしていた。

室内には、素朴な木製のベッドや革張りの椅子、深い赤の織物が置かれ、自然の色合いと調和している。

「これが下界の家ですか」

青蛾が感動したように木彫りの家具に手を置いてぽつりといった。

「いやこれは……」

これが普通の家だと思ってもらっては困る。

ラムジーが案内した屋敷はまるでアフリカの王様の城だった。

アフリカってこんな感じです!といった文化を取り入れつつ贅沢をつくした部屋だった。

「できるだけ他の戦姫様の情報をお集めいたしますね」

「お願いします」

「屋敷はどこへいってもかまいません」

「ただし、西側の離れにはいかないでください」

雨季の名残をわずかに含んだ夜風は涼しく、遠くからは虫の声と、湿った大地の匂いが漂ってくる。

「西側?」

「はい」

ラムジーは目をきらりとさせた。

「あと、青蛾さんは英語ができないので、一応通訳をご用意しました」

「ありがとうございます」

「LJ」

そう言われると、うすよごれたひょろりとした白人の男が入ってきた。

青いつなぎを着ており東洋人ではない。

手にはスパナを持ったままだった。

手の甲にLの刺青がある。

「……!」

なぜだろう。見覚えがある気がする。それなのに記憶を辿っても思い出せなかった。

「日本語がわかるやつはこいつくらいで」

四十ぐらいの小汚い白人はぽりぽり髭のはえた頬をかいている。

金髪は青く染められていた。

「余計なことはきくなと言ってはあります。こやつは八咫烏の事情を知らないので。ただおしゃべりなやつなので、お気をつけください」

「わかりました」

ラムジーが消えると、男がにかっとやいばをみせる。

やはり見覚えがある。

「あんたどっかで−−……」

むこうもそうらしく、白人なのに流暢な日本語、いや関西弁をもらす。

「!!」


鈴凛は蒸し暑さとともに、夏の花火大会に一気に引き戻された。


花火の音、ディーゼルエンジンの匂い、りんご飴の味、つないだ手。浴衣。


周馬の笑顔−−


いつかの男の声が響いた。


豚に真珠


「あなた−−」

「おん?」

やっぱりそうだ。

工具を持っている男に目をやった。

遠い遠い田舎の街の夏祭り。奇妙な全自動かきごおりりんごあめわたあめ製造機を作っていて、妙に話しかけてきたてきやの男である。

鈴凛は身構える。

「どっかでおうたっけ?」

「あなたは日本人なのに、なんでこんなところに?」

白人なので日本人と言うべきなのかよくわからなかったが鈴凛はとりあえず日本語で男にそう聞いた。

「話せば、まあ、長いんやけどな、まあざっくりいうとな、日本のヤクザに売られたんや」

「……」

「あやうく臓器とられるとこやってん」

「でも今は日本語できる、日本の車いじれるで重宝されてんねんで」

「トヨタ多いやろ?」

あっけらかんとしてそう言った。

「……」

鈴凛は肩の力を抜けた。

一時はこの男を陵王と疑ったこともあったっけと過去を思い出す。

目の前の男はきっちり歳をとっており、相変わらず妙な男だった。

「こんなところで再会するなんて」

「やっぱりどこかでおうたことあんねんな?」

男はうーんと考えているようだったが思い出せないようだった。

むこうは鈴凛は見た目の年齢が変わっていないし、出店で出会った少女などとわかるはずもなかった。

「大木組の店の子やったけ? いやこない貧相な子おらんかったしな……」

「それにこない可愛い子とセットやったらわい覚えてるはずねんけど」

青蛾にみせる外界人のサンプルの男はましな男がいない。

「……」

−−LJ!ちょっとこい

「まあなんか困ったことあったらゆうてや」

「……」

「あ、西側の建物にはいかんほうがええで」



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