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八百万の果て  作者: 三雲にに
真偽ノ甘噛(世界編)
194/218

53話 花将と戦姫

「技蛇」

「う!」

次の瞬間、長虫の腹から回転する凶器が飛び出して、血がぶわりと広がった。

「?!」

それが引き抜かれると、長虫が血を吐いてよろめくのが見えた。

気が付くと咲がいない。

「よくも……」

咲がゆらりと長虫の後ろに立っていた。

「よくも……わたしをこんな体に−−!!」

長虫が倒れると、咲がめちゃくちゃに回転する刃のついた腕を振り回す。

「いかん!!」

鯨山が叫ぶ。

「退避するのじゃ!」

咲のそばにいた白麗衆が薙ぎ倒されると、ぷしゅりと穴があいた砂袋のように崩れた。

「!!」

自分自身を守れない白麗衆が咲に襲われ、バタバタと倒れその犠牲になった。

「ひい……!」

真緒が驚いて背を向ける。

「許さない!!許さない!!」

咲は回転する刃をメチャクチャに振り回しながら、目についたものに次々に襲いかかっていく。

「ファック!」

ベスが叫ぶ。

「横穴へ逃げろ!」

鈴凛は必死に体勢を立て直す。

咲とまともに戦っても今は勝てない。となると、宇宙空間への穴が空いている五十棟の穴に突き落とすしか止める方法はない−−。

「死ね!!死ね!!」

「むう!」

車椅子で動けなかった鯨山が犠牲になって倒れたのが見えた。

末兎が身を翻して鯨山を助けようと戻ろうとする。それを牛満が止めた。

「やめろ!」

「鯨山様!!」

「ひ、きゃあああああ!!!!」

咲は次に逃げ惑う真緒を咲はとらえると、真緒もその刃の犠牲になるのが見えた。

「!!」

「みんな逃げろ!!」

虎頭たちが湍津姫の横穴に向かって逃げるのが見える。

鈴凛は咲めがけて走った。

止めなければ全員が死ぬ。

「咲やめて!!お願い!!」

鈴凛は刃をよけると腰にタックルをした。必死で取り押さえようとしても、今は咲のほうが圧倒的に素早く。

「りり……よくも……」

憎しみの声が漏れた。

「どけ!!」

その声をきいて鈴凛はとっさに離れる。

「額の角を破壊しろ!!」

青蛾に抱えられた玄武が叫んだ。

「!!」

牛満が壊れたエレベーターの扉を投げつけると、咲に命中し、籠がとれた。

咲がうめいて倒れている。

「いまだ」

鈴凛は倒れた咲に馬乗りになると、綺麗な髪の中にはえた小さな輝く角をむしりとった。

「!?」

急にばたりと咲が動かなくなる。

「……止まった……の」

白麗衆はそのほとんどが刃の犠牲になったが、何人かは、指揮系統を失って、うろうろと徘徊している。

「ふう……」

牛満が安心してしりもちをついた。

鈴凛も咲から離れると、息を整えた。

「なんとかなったな……」

「姉妹そろって、とんでもないですな」

亀のほうが咲をみやって言った。

「死んでいますね」

アガサが動かなくなった長虫と真緒と鯨山を確認していた。

「こっちの人はどうなのかよくわかりませんが」

アガサが咲に近寄る。

「まだあぶないかも」

アガサを虎頭が止めた。

「やっちまったな」

蛇が末兎をみやって言った。

「……」

末兎は放心状態で立っていた。

「しかしまあおまえのおかげで助かったぜ」

末兎は首を横にふった。

「……佳鹿−−……」

末兎は絞り出すようにそう言って声を詰まらせた。

「末兎」

「ありがとう」

鈴凛がそう言うと、末兎はもっと首を横に振った。

「あなた様は何もしるべきではなかったのに−−」

末兎は顔を両手で覆う。

「なんで技蛇が生きてるの」

鈴凛が呆然と言うと、ベスが歩み寄って、冷たい目で技蛇を見下ろした。

「影姫を消したからこいつは出世したのさ」

「なん……で……どういうことなの」

鈴凛がそう言うと、末兎の方がびくりとなった。

「花将は戦姫を管理する」

「だけど、管理できなくなった戦姫は、十二宮にとって害悪でしかない」

ベスが低い声をだした。

「花将の仕事は、戦姫を強くすることだがそれだけじゃない。万が一の際には一番近くにいる自分で処分することが含まれる」

「!!?」

影姫は欧州へ極秘任務で派遣され、影姫と技蛇はアメジストによって惨殺された。

鈴凛は恐ろしいビデオの記憶が蘇る。

穢レを暴走させられて、影姫は自分の影の闇に飲まれた。

あの時の仮面の人物はアメジストではなく−−技蛇だったのか。


だとすると、全てが−−


鈴凛は気がつきたくもない事実にまたぶちあたった気がした。

末兎は首を横にふった。


「技蛇は」


影姫はあの時—

本気で戦って、戦いを終わらせようとしていた。

みんなで平和に暮らしたいと言っていた。

でもだからこそ、きっと、いくら戦っても終わらないことに気がついてしまった。

「技蛇が影姫を殺したの−−」

「そんな……」

「これは神々の人間をめぐる戦いじゃない」

「……」

「十二宮に都合の良い世界を作るための戦いだ」

「わたしたちが……鬼族と戦っても何も変わらない……」

「常に戦わせるためには敵が必要なのさ」

「じゃあ……」

ベスはやっと答えに辿り着いたかといった顔をした。

「佳鹿も−−」

「……!」

鈴凛ははっとして、望姫の白麗衆を探す。

無事だったが、うろうろと他の白麗衆と同じように徘徊することしかできなかった。

「……」

鈴凛は知りたくなかた事実に気が付く。

「佳鹿が……望姫を白麗衆にしたの?」

「え……!?」

青蛾が驚いた顔をした。

「おそらくな。この娘も十二宮の真意に気がついてしまっただろ」

鈴凛ははっとする。

「周馬−−」

もしかしたら、

その真実を伝えたのは−−周馬ではないのか

鈴凛は愕然とした。

だとしたら−−

「影姫様は戦姫をやめようとなさっていました」

「!」

「佳鹿はそれを止めることができず、とても後悔していました」

末兎がくるしげに言った。

「そんな……」

鈴凛は佳鹿が大好きだった。

ショックだった。

佳鹿が望姫を白麗衆にした。

佳鹿はもし自分が気がついてしまえば、自分のことも、そうするつもりだったんだろか。

「死者は美化されがち」

ベスが言う。

「ちがうと思いやす」

亀が口を開いた。

「戦姫はこの高天原を離れて生きることはできない」

「それは歴史が証明している。結局ここを一番に逃れた市杵島姫も死んだ」

「……!」

「秘密を知れば、消される」

「遅かれ早かれ秘密を知ってしまった戦姫は、神々か田心姫に消される」

「!」

「自分で育て上げた戦姫。もし殺されるのだとしたら、そればらば自分で−−」

「そんなの優しさじゃないだろ」

ベスが吐いてすてるように言った。

「他の戦姫たちは……」

鈴凛は棘姫とキアラの不思議な目配せを思い出した。

「棘姫様もキアラも……知っていたのね、棘姫様はキアラが死んで−−」

泣いていた。あの二人は自分たちのそんな関係をわかったうえであの優しいブルーベルの庭にいた。

どんな気持ちだったのだろう−−。

「間狸衣は−−」

哀の花将の間狸衣の顔が浮かんだ。

「哀を」

時折みせていた間狸衣の重苦しい表情が思い出される。

「真実をみんなに知らせなきゃ」

「知らないほうがいいこともあるのです」

末兎が鈴凛の腕をつかむ。

「いけません」

「……!」

「さきほどのことは、貴方様をとっさに守るためでした。でも鯨山様は間違ったことはおっしゃっていません。何も知らず戦うのが戦姫様がたのためなのです」

戦姫は修羅の道。

鈴凛は末兎の涙ぐむ顔をみて、佳鹿が言った言葉を思い出していた。

「今ここをされば、貴方様は全てを失います。煌姫様は知ってしまえばあの性格ですから黙ってはいられません」

「十二宮を敵にまわします」

「娘たちをおろせば、月読姫も照日ノ君も貴方様を守ることはできません。全てを失います」

鈴凛はそれを聞いてうんざりした。

そしてすっかり目が覚めた気がした。

「神々はあてにはできない」

「!」

「照日ノ君は何もできず岩戸に篭っている」

「!」

「この十二宮による体制を長年よしとしてきた。悲しいけど、それが事実だ」

「……」

「しかし、出て行こうにも」

「箱は全部、壊されてしまった」

「ひとつだけあるぜ」

滑車のロープを牛満がひっぱりあげると、ひとつだけせり上がってきた。

「もちもちの実を塗って、ほしといたんだ。そのまま忘れてた」

「!」

「ひとつ……となると二人しか乗れねえ」

「……」

「おまえはいくしか無い」

玄武が鈴凛をみやった。

「え……」

「となると、こっちからは誰か一人しか降りられない」

「虎頭、おまえがおりろ」

牛満が言った。

「もたもたしてたら母ちゃん、死んじまうかも知れねえだろ」

「そうですね」

アガサが言った。

「虎頭さんは、お母さんに会わなくちゃ」

青蛾がぎゅっと虎頭の両手を握った。

「しかし……」

「このチャンスを逃したら、もうお母さんに会えないかもしれない」

「でも……青蛾ちゃん−−」

「わたしのは、男の人をみてみたいっていう、くだらない欲望みたいなもんですから」

青蛾は無理やり笑ってみせた。

「そんな、そんなことはないわ」

「まだわたしは若いですし、チャンスがあります」

「そんなのわからないじゃない……」

「本当にいいんです」

青蛾がにっこり笑った。

「……ありがとう……」

「心配すんな。おまえが降りている間、こいつらの面倒は俺がみる。なんたって、強力な共犯を得たんでな」

玄武は末兎をみやって、にやっとした。

「おまえは吸威をぬいていない。まずは抜くところからだな」

「……」

「わたしが降りなければ、席はひとつあく」

鈴凛がそう言うと、蛇がむっとした顔をした。

「この期に及んで」

もしかしたら、この決断は間違いかもしれない。

鈴凛にまた迷いよぎった。

自分に何ができる。下は戦争中で混乱しているし……

明も抜けている、穢レは使えない。

今の自分はただの生身の貧弱な人間に等しい。

「おまえはいくんだ」

玄武が言い切った。

「そして、俺たちを助けるために、必ず戻ってこい」

「!」

「やるべきことはわかっているはずだ」

鈴凛にも薄々それがわかっていた。

玄武が亀の甲羅の中を漁る。

「うひょ」

蛇がとんでもないものをくわえてでてきた。

「!?」

それは粗々しい形の勾玉だった。

「これ……」

鈴凛はそれに恐る恐るふれた。

「もっていけ。とあるルートで手に入れた」

「神器を……神々から盗んだのですか?!」

末兎が顔面蒼白になった。

「未使用の荒玉だ」

「百姫様が神器を高天原から持ち出したら、大罪人です」

末兎はまだ納得していなかった。

蛇は無視して鈴凛をみやった。

「わかるな?」

「……」

「おまえが鍵だ。おまえだけが鍵なんだ」

「……それは」

「おまえだけが、世界を塗り替えられる」

「未来妃を使える能力があるから−−」

「そうだ。おまえだけが唯一、命の巫女の力を使える」

「あの血を使い、荒玉を使え」

「荒玉で夜闇の八岐大蛇の力を奪うんだ」

「!」

「支配する側へ行け」

「わたしにこんな重要な……」

「夜闇の八岐大蛇の力は、見て願うだけで相手を破壊できる」

「誰にも何も言わせない力だ」

鈴凛は途方も無い決断な気がして、目眩がした。

この勾玉の使い方も知らないし、力を手に入れてどうやって世界を正しくしていくのかもわからなかった。

しかし、同時にやるしかないこともわかっていた。

「おまえだけができる」

「……」

「死に物狂いで、命姫を手に入れろ」

未来妃の顔が浮かんだ。

「……」

「神々も追いつけないほどの、途方も無い力を手にして」

「戻ってこい」

「それだけがここを救う方法だ」

鈴凛と虎頭が吊るされたエレベーターに入る。中には一応ふわふわの何かが詰められていた。戦姫の布団に使われていた雲のような綿だった。

「本当に大丈夫なんでしょうね……」

「大丈夫だ」

「時間がない、しのごの言ってないで、しめる……」

「!」

「虎頭さん−−?!」

急に虎頭が青蛾をひっぱり落とすと、自分は飛び出してドアを固くしめる。

「!?」

「虎頭さん?!」

エレベータの透明の窓を青蛾がたたく。

「……あなたがいくべきよ」

虎頭は泣きながら笑っていた。

鈴凛は横であっけにとられていた。

「出してください」

「虎頭さんなんで!」

青蛾が隣でどんどんと扉をたたく。

「虎頭さん!?どうして?!お母さんにもう会えないかもいしれないのに」

「あなたは、あなたは−−……あなたはまだ若い」

「!」

「まだやり直せる」

「?!」

「そ、そんな……そんなの……」

「あなたはまだ自分の人生を取り戻せるの」

「そんな」

「いってらっしゃい」

「……!」

「待っているわ」

「いくぞ−−」

牛満が箱を吊り下げていたロープを切り落とした。



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