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永遠(TOWA)  作者: 三雲
真偽ノ甘噛(世界編)
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50話 五十塔

「百姫様をお探しですね」

亀の方が五重塔の一番うちにある小さな欄干の間から顔をだした。

ここから夜の扇町が見渡せた。

検非違使の提灯の灯りが右往左往していた。

「本当なのね。神々がわたしたちの声を聞いていないのは」

夜の風にふかれながら鈴凛は言った。

「ま、連中は今それどころじゃないしな」

蛇が足元でにやりとした。

「白昼と結合したガキが野放しになってる。天照は岩戸にこもりやがったし、神々の連中は今後どうするか安河原で大会議中だ」

「ソルアを誰も止めることはできないのね……照日ノ君も−−」

「思金と素戔嗚が機嫌とりながら面倒みてるが、いつまた何をしでかすかわからねえからな。何かしらを使って脅すなり、ご機嫌をとるなり、あらゆる手段をご検討中だろうよ」

「ソルアの機嫌をとる」

鈴凛は心底そんなことは馬鹿馬鹿しいと思った。

「いままで通り。嘘や隠蔽やらあらゆる無知で無邪気なやつらの犠牲を払って、丸くおさめるのさ」

「……そんなの」

鈴凛はこぶしを握りしめた。

「神々が宇宙の死を救ったことからはじまった。無理やり、宇宙の死を八岐大蛇と神器に変えたことから全てははじまったのさ。連中は宇宙を救うためには何でもする」

「なんでも−−」

頭では理解できる。本当に宇宙が死んでしまうのなら、全ての意味はなくなってしまう。それはあらゆる犠牲を払って止めなければならない。

でも−−

「……どこまでが嘘なの?」

一番上から美しい高天原の街が見下ろせた。夜になりあかりがともっている。

少しだけ検非違使たちの提灯が騒々しかった。

もし田心姫が白麗衆を作っているのなら−−

怖い。たまらなく怖い。

「……」

鈴凛はどこまでと聞いたのに少しだけ後悔していた。

金鵄城が見えて、真誌奈がかつて囁いた言葉が思い出された。

美しい嘘がそこら中でうごめいている−−

本当は知りたくもない。

知ってもきっともっと絶望するだけだ。

聞いてどうするというんだろう。

人間の自分に何かを変えられるわけがないのに。

「……」

真誌奈は全てを知って行ったからこそ、この醜い世界で強く生きているのだろうか。

だから子どもを−−周馬を−−

「さあな」

やっと蛇が返事をした。

「……」

「いつから考えてたの、ここを出ること」

「つい最近までまったく考えてなかったさ」

適当な答えが返ってきて驚く。

「え?」

「ここが反吐がでるほど嫌いだったが、こんな大それたことするなんてなあ……」

鈴凛は不安になった。

もちもちの実と泥で固められた箱を見る。

「本当にあんなもので落下して大丈夫なの?衝撃はちゃんと吸収できるんでしょうね」

「一応、計算はした」

鈴凛はその体でどうやって—と言いかけたが、別のことが浮かぶ。

「そんな適当な感じで虎頭さんたちを焚き付けて、地上の世界に期待をもたせるなんて」

蛇はまたたいただけだった。

「下は今戦争中だし、そんないいものじゃない、追っ手もきそうだし、失敗したらどうするつもり? 彼女たちは行き場を失うし、もし計画がばれたりしたらそれこそ白麗衆にされたり、殺されるかも」

鈴凛の中にどんどん悪いことと不安が溢れた。

自分は玄武に焚き付けられてとんでもなく間違った方向にいこうとしているのではないか。

「俺もやめたほうがいいとは思うな」

「?! 無責任にもほどがある! 地上におりて、あんたは神だからインカネーションできるのかもしれないけど、人間は、虎頭さんたちは死ぬんだよ!」

「絶対に成功する作戦なんかあるかよ」

「人のこと散々あれこれ言っといて、あなたも最低じゃない!」

「いや、この人は」

亀が蛇の弁護をしようとして身を乗り出したが、それを蛇が制した。

「ああ最低のクズ野郎さ。全てに気がついて、何千年もどうにもしてこなかった。ごらんのとおり、俺はただの亀にくっついたクズ蛇だ」

「……」

「何百人も白麗衆にされたのをみてきた」

「俺は何もしなかった」

「……!」

「今は湍津姫が死に、たまたま外にでていけるようになっただけだ」

「ただの能無しな亀にくっついた蛇だ」

「違う」

ベスがやってきた。

「作業は終わったのか?」

「この素直じゃない蛇の言葉を間にうけるんじゃない」

「……ベス」

「全てが揃ったから、今高天原が開かれたのさ」

ベスは玄武と鈴凛を交互に見て言った。

「絶対にうまくいく」

そして鈴凛に下で作業する青蛾をみやるように手をさしのべて促した。

「え?……青蛾ちゃんが?なに?」

「あんたが青蛾を助けたいと思ったからこそ、ここを出ていける全ての条件がそろったのさ。愛は世界を救う。あんたが本気になったから、全ての条件がそろった。全てが逆なのさ」

ベスがにやりとした。

鈴凛はぎょっとして蛇を見る。

「青蛾が好きなの……?」

「!?」

蛇が今度はもっとぎょっとした顔をした。

「バ」

「素直になりなよ」

「バカいうな! ちが、ちがう! 俺もここを出て行きたかったんだ! 湍津姫が死んで! あいつは人間で、俺は蛇で—なに考えて……」

蛇は珍しくムキになっていた。

亀のほうはやれやれといった顔をしている。

「そ……」

「虎頭たちだけじゃここを出る事は無理だっただろう」

「……」

「今全てが揃った」

「ほんとうは全て逆なのさ」

「……」

「だからこの作戦は、絶対に失敗しない」

「おめでたいやつだ」

「必要な巡り合わせやタイミングは偶然を装ってやってくんのさ」

ベスの言う事は馬鹿げているが、なぜか正しいのではないかという気がした。

「は。たかだか20年くらいしか生きてないやつが偉そうに」

蛇はふんっと鼻息を荒くした。

「たしかに、このままずっとあっしらも燻っていただけだったでしょうね」

亀が最後に見る高天原かのように目を緩める。

「……」

たまたま照日ノ君が岩戸に入り、ソルアが湍津姫に入ってしまったせいで殺され、たまたま高天原が開かれて、たまたま青蛾と玄武が出会って、そのタイミングが一緒で—

今たまたま、自分がここにいた

「全ては逆……」

頭ではよくわからないが、なぜか感覚的に正しいような気がした。

「まあでも失敗するかもしれないし、好きってちゃんと伝えるタイミングはもうこないかもよ?」

「違うっていってるだろ!」

蛇が真っ赤になってベスに怒鳴った。

「素直じゃないんだから」

「玄武」

「お、俺は……」

「玄武」

「勘違いすんな、俺は……」

「俺は—人間でもないし」

「玄武、」

「……あなたたちは何なの?」

「……!?」

蛇と亀がぎょっとした。そして黙る。

「四神は思金様の実験によって作られた神なの?」

「……」

二人は悩んだような顔をして、顔を見合わせた。

「……わからねえ……」

「わからない?」

「俺たちにもわからないんでさあ」

亀も静かに言った。

「四神になる前のことは」

「なる、前……?」

「わかっていることは、この体は俺たちのものじゃなかった」

「……どういうこと?」

「こりゃあ、推測にすぎませんが、俺たちはもともとあちら側の神だったんじゃないかと」

「あちら側って、鬼族の?」

「はい」

「神籬を分解されたのか、四神になる前のことは、なーんも覚えちゃいませんが」

「……神籬を分解」

「この体への違和感だけは残ってる」

亀に蛇が巻き付いた体を見て、まあ、それはそうだろうと鈴凛は思った。

「何も覚えちゃいませんが。あっしら、あのお方がとてもとても好きだという気持ちだけは共通しているんです」

あのお方。

「それは八雲のこと?」

「はい」

「会ったこともないのに?」

「それは……」

思金とトパーズのやり取りを思い出す。トパーズは娘である鈴凛の存在が八雲の心を乱すとして殺そうとした。

「八雲に口蜜によってかつて縁血を受けていたから?」

「わかりやせん」

「俺たちはもともと天津神たちと同じ何かなのだろう。司る……つまり四神としての崇敬を糧とする能力があり、この動物の肉体に入れられた何かだ」

「まあ考えても仕方ない。とにかく俺たちが長い時間をかけて一致したことは、俺たちはここが嫌いだ」

「!」

「この高天原も、天照と月読が作りあげた人間の世界も」

「……!」

「全部が……ふたりのせいというわけでは、どうしようもないことも−−」

「それが口蜜の作用だ」

「!?」

「おまえは盲目的に天照や月読を愛されるようにされてるのさ」

「……そんなわけ……」

照日ノ君は確かに人間を愛していた。

「縁血は誓だ。神籬—精神に作用する。応声虫でもそれは奪えない」

「ま、誰が俺だって記憶が無いんだ。あいつらが本当はいいやつか悪いやつかなんて知らん」

「!」

「結局は、ずる賢くて、他人から何かを奪い取ることを何も思わないやつが、他の人間を支配する構造になってるだろ」

「……!?」

「あいつらは、支配者としては無能だな」



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