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永遠(TOWA)  作者: 三雲
真偽ノ甘噛(世界編)
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51話 利用される

「でも……だからといって八雲みたいに、人間を滅ぼすとか、支配するとかいう鬼族を放っておくわけにはいかないし……」

鈴凛はふたたび五十塔から扇町の夜景に目を写す。

誰か悪いのかもはっきりわかっていない今、闇雲にあのエレベーターの空箱で降りるのは全く気がすすまない。

それこそ自分もこのメンバーの誰かが死ぬ可能性だってある。

「しかたないことはあるのかもしれないし……」

鈴凛の頭は混乱していた。

そう言いながらも、何もこれ以上調べたくも無いし、知りたくも無い自分がいる。

これ以上どんな闇があるのか知ってしまったらどうなるのだろうか−−

「おまえ、いじめられっ子だったよな?」

蛇が急に真顔になって言う。

「……!」

鈴凛は突然そう言われて、びくりとする。強くなったはずの戦姫が急に人間に戻されたみたいに、居心地が悪くなる感じがした。それはもう、20年近く遠い昔のはずなのに−−。

素戔嗚のいる竜宮城にいく時に、あれこれ蛇に話したことを今更猛烈に後悔する。

「だったら何」

鈴凛はとりあえず不機嫌にそう言うことしかできなかった。

「いじめた連中の顔を覚えてるよな」

「!」

鈴凛はそう言われると、20年以上も昔のことなのに、昨日のことのように、いじめられていた学校の教室、いじめっ子たちの声、笑い顔がすぐにリアルに脳内で再生された。

「下で何も悪くねえ人間を戦争させてんのは、この上と繋がったそういう人間たちだ」

「!」

「おまえはここで真実を確かめねえのなら」

「おまえも連中と同じだろ」

「!!?」

鈴凛の全身に虫唾が走った。

「ちがう」

壮絶ないじめが思い出される。

「いじめられたくないから、何も知らずいじめる側にへばりついていたほうが楽だもんな」

「ちがう!!」

鈴凛は叫んでいた。

息が乱れて、全身から怒りと悔しさが溢れ出した。

「……」

急に源鈴凛に戻された気分だった。

「ちがう……」

鈴凛は全身の力が抜けた。

蛇は散々鈴凛と話してきた内容を決定的な場面で出してきた気がする。

「よーくみろこの場所を」

「は四季楼に季節ではない草木や花々が植えられ、高天原では優秀な果実だけが蓬莱で複製され、美しい女だけがいる」

「……それは」

「そしておまえらみたいな、たいして美しくはないが、特異体質な少女をみつけては戦わせる」

「たいして美しく無いは余計なんだけど」

「考えてもみろ? 神々連中が自分で戦えばいいだろ?」

「それは……」

「ここはな、神々とその神々にすり寄る道楽の箱庭だ」

「でも、地上は第三次世界大戦なんだよ?降りるなんて」

「いつかはあいつらはみつかってしまう」

「!」

「異物は排除される」

「……!」

玄武は青蛾を助けたいのだ。青蛾はたくましい男の人をみてみたいと言っていた。

玄武は人間では無い。それをどんな気持ちで受け止めたのだろう。

「十二宮がいけないの?マリさんやカーターさんみたいな人たちが……」

鈴凛はアメリカでの壁に向かっていく移民たちや、非業の死を遂げた仲間たちを思った。

「……ていうか……そういえば加鷹、グレース・マリオは死んだ。あのパリの最後の戦いでトパーズが現れて」

鈴凛はふと思い出してベスを見る。

トパーズが裏切ったリガードリングのエメラルドとグレースマリオを殺した。

「どうせクローンだよ」

ベスが肩をすくめた。

「え?」

あれがクローン?

「あいつは自分を量産して、フェイスで支配している。それも新技術の一環だ」

鈴凛は途方も無い物を敵にまわしている気がした。

「……あなたたちが地上におりたいのはわかった」

「でも……」

「どうして、わたしを巻き込むわけ」

鈴凛は一番気になったことを言った。

「おまえを利用したいんでな」

「!」

「おまえは、一応、戦姫だし、おまえは、一応、腹黒く立ち回れるほど、賢くもないだろ」

「……堂々と言うね……」

鈴凛は呆れて玄武をみる。

「おまえはただでさえ、黙って利用されてんだ。利用しますって言ったほうが、フェアだし親切だろう?」

蛇がニヤリとして言った。

余計に腹立たしい気がする。

「俺たちは残念ながら下界のことを何も知らん」

「そうでしょうね」

「おまけにこんな姿だ」

亀が手足をぱたぱたさせ、蛇がしゅるしゅると帯のように体を揺らした。

「下界を知っているおまえがいたほうが何かと都合がいい」

「なるほどで……でも真緒が大三次世界大戦中だって言ってた。本当にここが本当はひどい闇を孕んだ場所だとしても、今降りるのは……」

「神々がここを封鎖する別の手段を講じてない今がチャンスだ」

「あいつらが下界に溶け込んで生活できるようにしてやってほしい」

「溶け込むって。今は戦争中なんだよ?」

鈴凛は簡単に言ってのける玄武に腹がたつ。

「ここにいれば、安全なのに」

「ああ、ここはどこよりも安全だよな」

「……」

「そうやって永久に安全地帯でただ歳をとっていくのさ」

「隠れて生きていくって……」

「そこら中に八咫烏がいるし、そんな無理なこと−−」

と言いった時、頭の中に毛利就一郎が浮かんでいた。自分が真面目に戦姫として今後もあの男のために働くといえば喜んで女たちの居場所のひとつやふたつくらい隠蔽してくれる気がした。

「はあ……」

「おまえは無能だが、いいやつだよな」

「無能は余計なんだけど」

正直なところ、今知りたくはなかった。

巻き込まれたくもなかった。

何も知らなければ−−

「おまえはまだ染まりきってない。なんでか知らんが」

「……」

「穢レが強いだけじゃない。照日や月読の口蜜にも完全には支配されてねえ」

「体質か、誰かの口蜜か、」

「!」

周馬−−

周馬の口蜜がそうさせたのだろうか?

「……そんなことが」

「は?」

鈴凛は小さな小さな希望の光が胸に落ちた気がした。

降りるべきだろうか。みんなを連れてどうやって生きていく?神々の逆鱗に触れるかもしれない。

−−みつけました!

ひゅんと黄金の矢が頬をかすめる。

真緒が封鎖された五十棟の開戸の前で笑っているのがみえた。


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