第十三話 ようこそ冬休みさん②
期末テストが終わって一週間、俺は完全燃焼したらしくダラダラとした生活をしていた。
テストが終了したその日、毎夜繰り返されていた勉強会は惜しまれつつも終了となった。
俺の勉強会打ち切り案をきっかけに反対意見も出たが、俺の案に乗ってきた絵梨ねぇの一言が決め手?となった。
「あんた達が居ると歩ちゃんが私との愛を育めなくて困るだろうが!!」
決め手には程遠かったが絵梨ねぇの物凄い剣幕に押され、兄貴と勇吾の意見はかき消されてしまった。
勿論絵梨ねぇの言う事を否定しようにも、遠慮するなとか、気を使わなくてもいい等と言われ聞く耳持たれなかった。
結局最後に主導権を握ったのは絵梨ねぇであり、後に残された三人は半ば呆れて勉強会は幕を閉じた。
テスト勉強から解放された俺は夜遅くまで深夜アニメを堪能し、毎朝お袋に叩き起こされる生活に逆戻りしていた。
いつものように時間ギリギリで家を出て登校してると勇吾が疑問を投げてきた。
「勉強会終わりにして良かったのかよ?」
「う~ん、最初は兄貴の事も考えて言い出したんだけどな。」
「あぁ、そうか。武志君も受験生だもんな。」
「それなのに絵梨ねぇのお陰でなんか違う方向に話が進んでくからさぁ。」
「俺も武志君も、姉貴が暴走してたのは分かってるよ。」
「そうでなきゃ困る!」
正直勉強なんてしたくない、けど自分より弟を優先してくれる兄貴に悪かったから頑張った。
それにこっちはなんとか区切りがついたから自分の方に専念してほしかった。
「お互いの事を考えてるなんて良い兄弟だよな~。」
「絵梨ねぇは?実は家じゃ仲良しとか?」
「無い無い、昨日なんて顔合わせる度に舌打ちしてくるんだぞ。良い訳ないだろ!」
「あはは…。」
気の毒過ぎて渇いた笑いしか出なかった。
弟すら毛嫌いするなんて筋金入りの男嫌いなんだな。
そもそも男嫌いになった理由って何なんだろ?
聞いてみたい気もするけど流石に話してはくれないよな。
「てか今日辺りテストが返ってくる頃だよな。」
「あっ、う、うん。」
「赤点取ってないか心配なのか?」
「まあね。」
「あれだけ勉強したんだから流石に赤点は無いだろ。」
「だと良いけどな~。」
テストが返ってくる、この一言で朝から憂鬱になる。
手応えはあったけど答案用紙が手元に来るまで安心しきれない。
神様仏様お願いします、良い点取らせてください!
ってなんであんな神様にお願いしなきゃないんだよ!
学校に着いて教室に入るとやっぱりみんなソワソワしていた。
ウチのクラスは割りとみんな勉強が出来る方だから(俺と黒川を除く)、そんなに心配してはいないだろうけど。
俺は自分の席に着くと先の不安からか重い溜め息を吐いた。
それを隣で聞いていた優花が声をかけてきた。
「おはよ~、朝から溜め息吐いてどうしたの~?」
「おはよ、テストが返ってくると思うと憂鬱で。」
「あゆちんいつも良い点取ってたでしょ~?」
「えっ?あぁ、だけど今回は自信無くてさ。」
「あゆちんで自信無かったら私達どうすれば良いのさ~?」
なんか地味にハードル上げられてるし、女の歩はどんだけ頭が良い設定なんだよ。
これで赤点なんか取ってしまったら…、しかも咄嗟に『今回は』なんて言ってしまったけど毎回自信なんて無いんだけど!
憂鬱が増していく、冬休みの為に必死で勉強したけどいまいち自信が無いし、良い点を取らなければならないプレッシャーまで掛けられるし。
先程より重く長い溜め息を吐き頭を抱えていると担任の春山が笑顔で教室にやって来た。
こっちは溜め息の吐き過ぎで半分くらい魂が抜けかけてるのに、無駄に明るい笑顔に腹が立った。
春山は小脇にクラス名簿と共に明らかに答案用紙と思われる沢山の紙束を持っていた
その紙束に気付いたのは俺だけではなく、みんなも同じく気付いたようで春山の小脇にみんなの視線が集中した。
「みんなおはよう、早速だがテストを返すぞ。」
「「ええっ~!」」
明らかにテストが返ってくると分かってても一斉に上げられる不満の声、最早お決まりと言ってもいい。
しかし春山が笑顔で登場したって事はテストの出来が良かったのかもしれないとみんなの期待が高まる。
そんな期待が高まる中、名簿順に答案用紙を返され歓喜の声を上げる者もいれば肩を落とす者もいた。
「次、黒川~。」
「うぃ~す。」
呼ばれた黒川が気だるそうに答案用紙を受け取ると目を見開き、雄叫びと共にガッツポーズまで繰り出していた。
な、なんだ?良いの?何点なの?どうなの??
いつも答案用紙が返ってくると紙飛行機作って飛ばしてるのに何だあの喜び様は?
普段興味なんて欠片も無い奴なのにこの時だけは黒川が気になってしまった、いや本人では無く、もちろん『黒川の答案用紙』が。
いつもクラスの最下位争いは俺と黒川だった。
俺達はクラスでもダントツで頭が悪く最下位争いに他の奴が絡むことは一切無かった。
簡単に表すと
勇吾>>>良>>普>>>>越えられない壁>>>>>>>>俺と黒川
と、こんな感じになる。
もちろんトップは勇吾で、良とはいつも高得点を叩き出す奴らで赤点なんて都市伝説だと思っている。
普は至って普通で当たり障りの無い点を取る所謂モブキャラだけど、そこから俺達との間には越える事の出来ない壁が立ち塞がっていた。
気になる!黒川は何点なんだ?あいつ勉強してなかったのに何でそんなに良い点取れるんだ?
まさか学校では勉強してないフリしてて、実は家で猛勉強してたとか?
今だ男性恐怖症が治っていない(少しは良くなった)俺にとっては直接聞くなんて出来ないし、まして黒川に話し掛けるなんて論外!
こうなったら俺の情報網を駆使して奴が何点なのか探らねば!
「ねぇ、優花?」
「ん?なに~?」
「く、く黒川君喜んでるみたいだけど良い点取れたのかな?」
「かもね~。あいつにしては珍しく喜んでるし~。」
「何点なんだろうね?」
「え~、あいつの点数気になるの~?」
「そ、そんな事無いけどさ。ほら、あんなに喜んでるから。」
ちょ、図星!
俺が優花に聞けば、優花も気になって黒川に点数を聞くと思ったのに。
くっ、やはり自分の事は自分でやらなきゃダメなのか?なんて自問自答していると黒川が満面の笑みでこちらにやって来た。
気になるからって黒川が来るなよ!俺が気になるのはお前の点数なんだから!
「歩ちゃん見て見て!」
「えっ、あっ、どうしたの?」
やっぱり苦手なのは苦手なのでついつい身構えてしまった。
「そんな驚かなくていいよ、ほら俺の点数見てよ!」
「よ、43点。」
「凄いっしょ?久々だよこんな点取るの。」
「40点越えてる…。」
なんて事だ!いつもなら20点台なのに、40点を越えるなんてあり得ない!
しかもそれを態々自慢しに来るなんて、なんて性格が悪い奴なんだ!
「これなら普通に双星受けれるんじゃないのか?」
「んな訳ないでしょ~?これの倍取らないと厳しいんだよ~。」
「ふ~ん、じゃあやっぱりサッカー推しで行くかな。」
「あんたの場合だと態度悪いからそれも無理じゃな~い?」
「なっ、態度は関係無いだろ!」
「大アリだから~。」
なんか二人の会話が遠く感じられる。
いつも黒川と最下位争いしてたのに奇跡の40点越えなんて取られたら俺の最下位決定じゃないか。
絶望だ。赤点で最下位、もう俺の目の前にあるのは補習の二文字しか無い。
さよなら冬休みさん、中学最後の冬休みを冬休みさんと二人で満喫したかったのに…。
「おい三上!早く取りに来い!」
絶望の淵で沈んでいる俺に春山の怒号が飛んできて俺は現実世界に戻された。
何度呼ばれても取りに来ない俺に春山は苛立ちを見せていた。
俺は慌てて答案用紙を受け取りに行くとさっきと打って変わった表情がそこにあった。
「良くやったな三上、今回の期末今まで一番良かったぞ。」
「へっ?」
何がなんだか分からず答案用紙を受け取るとそこには見た事もない数字が書いてあった。
「きゅ、きゅ94点…。」
生まれて初めての90点台に答案用紙を持つ手は震え、足も震えてそこに立っているのがやっとだった。
いや待てよ、もしかしたら他の人の答案用紙を受け取ったかもしれない。
俺は名前の欄を見てみると確かに俺の字で三上歩と書いてあった。
「確かに三上のだぞ、そんなに信じられないか?」
「いや、だって、こんな点数は。」
「何言ってんだ、いつも80点以上は取ってただろ?」
春山の言葉に女の子としての歩を思い出した。
確かに今の俺は頭の良い女の子という設定になってはいるが、中身は男の時と同じまま。
こんな点数見せられたら驚かずにはいられないだろ!
春山は俺には滅多に見せなかった笑顔で肩に手をかけてきた。
「この調子で頑張るんだぞ!」
「うぇ、あっ、はい。」
励ましてくれるのはいいけど、男性恐怖症がまだ治りきっていないから触らないでほしいな…。
一応先生の面目があるだろうから顔に出さない様にしたが、身体中鳥肌が立ってしまった。
俺はこれ以上持たないと思いそそくさと自席に戻り深呼吸をした。
「あゆちん誉められてたね~、何点だったの~?」
「ん、とね、、きゅ94点だっ、た。」
「え~!凄いじゃ~ん。自信無いって言ってたのに~。」
「そ、そうだったんだけどね。」
「私なんて82点だよ~。」
優花は自分の点数を悔しそうに見つめ口を尖らせていた、俺は反対に自分の点数を今だに信じられず眉間に皺を寄せていた。
いつまで見ていても点数が変わる事の無い答案用紙をしまう優花がふと思い出したように声を上げた。
「そう言えばさ~、今年もウチ来る~?」
「えっ?優花の家に?」
「そう、それとも今年は二人で過ごすの?」
「何を?誰と?」
「惚けないでよ~、クリスマスだよ~?」
あっ、思い出した。いつもクリスマスに優花の家でクリスマスパーティーやってたんだ。
俺も一応誘われてたけど、なんか行き辛くて何かと理由を付けて断っていたんだ。
でも今優花が『今年も』って言ってたな…、もしかして毎年参加してる事になってるのか?しかも二人でってのは勇吾の事言ってるんだろうな。
今年は、か、実は毎年クリスマスは勇吾と過ごしてるんだよな、もちろん二人っきりじゃないけど。
優花の誘いを断るのは俺だけでなく勇吾も毎年断っていた、理由は大勢で賑やかにするのは苦手と言っていたが俺に合わせてくれていたのは知っていた。
共に過ごしたクリスマスと言うのは俺、勇吾、兄貴、絵梨ねぇの四人でお袋が用意してくれたご馳走?やケーキを突っつき合うクリスマスパーティーだった。
もちろん男嫌いになってからの絵梨ねぇは不参加を表明していたが、俺のお袋に頼まれ渋々参加していた。
そのお陰で絵梨ねぇは終始不機嫌で、去年なんかは勇吾と絵梨ねぇの兄弟喧嘩で幕を閉じていた…。
「去年は絵梨ねぇにケーキのイチゴもデコレーションも全部食べられたっけな…。」
「ん~?なにか言った~?」
「ううん、別に何でもないよ!」
「で、どうする~?勇吾君と相談してからでもいいよ~。別に邪魔しないから~。」
「だから私達そんなんじゃないから!」
とは言ったものの優花の誘いを断れば去年の悪夢が再来しそうで怖いし、やっぱりここは勇吾と相談してみてだな。
放課後いつもの様に二人で帰っていると勇吾も優花から誘いを受けていたみたいでその事について話し合った。
「で、どうする?」
「どうするって歩は行くのか?」
「質問を質問で返すなよ、俺は勇吾が行くなら行ってもいいけどさ。」
「じゃあ俺も。」
「あ"~、それじゃ答えになってねぇよ!」
「歩だって俺任せなら答えになってないだろ。」
中々痛い所を突いてくる、何故か素直に行きたいと言えず人任せになってしまった。
毎年勇吾も巻き添えにして断っていた癖に、今年は行きたいからって自分勝手な事を言ったら勇吾に悪い気がしたからだ。
「あのさ、我が儘だってのは分かるけど…。」
「行きたいんだろ?」
「う、うん。」
「そんなの我が儘って言わないだろ、寧ろ素直だろ。」
「だってさ。」
「俺に気使わなくていいからな。」
気使ってるのは勇吾の方じゃないか、いつも俺に合わせてくれるし文句も言わないし。
「なんかいつもごめん。」
「なんでそこで謝るんだよ、それに優花と仲良くしてるみたいだし行ってやった方があいつも喜ぶぞ。」
「そ、そうかな?」
「俺だったらそう思うけどな。」
そうか、今年に限って行きたいと思ったのは親しくしてる人からの誘いがあったからだ。
女の子になってから優花とは席は隣で何かとお世話になってるし、最近学校で行動を共にしてるのは勇吾よりも優花の方が多くなっていた。
と言うか女子といつも一緒に居ると知らぬ間に行動も女の子っぽくなってたりするから、男に戻った時の為に気を付けないと…。
「じゃあさ、俺が行くなら勇吾も行くんだろ?な?」
「お、俺か?まぁさっきそう言ったからな。」
「じゃあ決定だな!たまに大勢で騒ぐのも悪くないだろ!」
「そうだな、姉貴と過ごすのはもう勘弁したいし。」
「確かに、絵梨ねぇには悪いけどね。」
俺達は去年の出来事を思い出し苦笑いしながらを家路に着いたのだった。
それから三日が経ち滞りなく全教科分テストは返ってきていた。
唯一自信があり、鬼門であった国語は88点と、八割位しか解いてなかったのに思っていたより点数が良くて驚いた。
配点が良かったお陰だと勇吾に言われ、陰ながら問題を作った先生に感謝した。
ここでさっきも言った通り全教科のテストが返ってきている、答案用紙を点数順に並べて見直すと最高で94点、最低でも76点だった。
これは無事、何の問題も無く、誰にも邪魔されず冬休みに突入出来る事を意味している。
俺は嬉しさの余り答案用紙を抱きしめて悦に浸っていた。
「あ、あゆち~ん、大丈夫~?」
「えっ?、あっ。」
「横で見てたけどヤバいよ~。」
しまった、嬉し過ぎて周りが見えてなかった…。
俺の奇行はしっかり優花に見られていたらしく(隣だから当たり前)、まるで不審者を見る目付きだった。
俺は慌てて答案用紙をしまい、苦笑いをして誤魔化した。
「ちょっと点数が良かったから嬉しくてさ、あはは…。」
「それは分かるけど~、わざわざ並べて自慢しないでよ~。」
「ご、ごめん。」
俺にはちょっと所じゃないんだけどな、必死に頑張ってようやく取った点数なのに誰も褒めてくれない。
今の歩だったら当たり前の事なのか…。
「それよりどうだった~?勇吾君と相談した~?」
「一応したよ。」
「て?今回は不参加~?」
「その逆です!今年はお邪魔してもいいかな?」
「今年って、毎年来てるでしょ~?てか二人で過ごさなくて良いの~?」
やっぱり毎年参加してたんだな、てゆーか毎回何かあれば俺と勇吾を出すのは止めて欲しいな。
みんな勇吾の言うことは信じて止まない癖に、なんで俺の弁明は誰も聞き入れてくれないの?
あくまで俺達の仲は親友関係であって、男女の仲では決して無いのに!!
「そこは気遣い無用です、何度も言いますが…。」
「恥ずかしがらなくていいから~、私達もう中三だよ~。からかうような歳じゃないって~。 」
「あうあう。」
あ~、ダメだ!やっぱりこうなる、恥ずかしいとかの前の問題なんだけど。
もう言葉にならないよ。
「ではお二人様追加ですね~、個室になさいますか~?」
「優花、怒るよ。」
「冗談だって~、あゆちん目が怖い~!」
「はぁ~、笑えないよぉ。」
俺がため息を吐く隣でケラケラと笑う優花、完全に面白がってるじゃないか。
結局女子ってのは人の恋バナで盛り上がるんだよな、事ある毎に俺達の話題を出しては洗いざらい聞き出そうとしてくるし。
木下に至ってはキスしたのか?とか手は繋いだのか?とか聞いてくる事がオッサン染みててちょっと引いてしまった。
しかもそれと同じ事をその日の夜に、親父にまで聞かれた時は流石にウンザリしてソースのボトルを投げつけてやった。
「あ~面白かった~。」
「どこが中三だよ、まったく。」
「怒らない怒らない~。それはそうと、今年も"いつものやつ"用意して来てね~。」
「いつものやつ?」
「うん。」
いつものやつとは何だ?仮装の準備でもすればいいのか?
毎年参加してる事になってるけど、俺自身は初めてなので何の事なのか分からなかった。
優花に聞く訳にもいかず俺の頭の中は『?』で一杯になっていた、そんな時勇吾が俺達の所にやって来た。
「悪い、歩ちょっといいか?」
「はいはい、どしたの?」
「にひひひ、なんだかんだ言ってもね~。」
「そう言うのはいいですから!」
「ん?何の事だ?」
「なんでもないから!」
優花の言葉に勇吾も『?』を浮かべて何の事か聞き返すと、俺は慌てて勇吾の背中を押して教室を出ていった。
勇吾はこの手の話を否定しないから、優花と一緒に盛り上がられたら困るからな。
「で、話ってなんだ?」
「朝言いそびれたんだけどよ、心して聞けよ。」
「だからなんだよ?」
「実は姉貴が来るんだ…。」
ん?絵梨ねぇが来る?どこにだ?
あの人は勉強会が終わっても毎日のように俺の家には来てるぞ?
「毎日俺ん家に来てるから、それじゃリアクションは取れないな。」
「優花の家に来ると言ってもか?」
「な、な、なんだってぇぇぇ!!」
俺の声は廊下の端から端まで響いた、遥か先にいた生徒が驚いて辺りを見回していた。
そんな事より、絵梨ねぇが優花の家に来ると言うのはクリマスマパーティーにか?何でだ?もしかして勇吾がうっかり話してしまったのか?
あの人が来てしまったら俺のイチゴを全部取られてしまう!俺の聖なる夜がっ!
「何で絵梨ねぇに話したんだよ!俺のイチゴがぁ!」
「いてて、話したのは俺じゃないから!」
「じゃあ誰なんだよ?白状しろぉぉぉ!」
勇吾の胸ぐらを両手で掴み刑事ドラマ顔負けな勢いで問い詰めるが力の差が歴然な為、ぐらつくどころか全く意に介してない様子だった。
なんて非力なんだ俺は…。
「優花だよ。優花が絵梨ねぇを誘ったみたいだ。」
「そ、そんなの嘘だ!」
「姉貴が昨日言ってたんだよ、帰りに偶然会ったらしくてな。」
「ぐはぁ…。」
俺は衝撃の余りその場に崩れてしまった。
確かに分け隔てなく接する優花の性格なら、勇吾の姉って事で誘うかもしれない。
てゆーかこの前抱き付かれそうになったの忘れたのかよ!
「大丈夫だって、流石に姉貴だって他所の家で無茶はしないだろうから。」
「俺ん家だって一応他所の家だけどな!」
「俺達は昔からの付き合いだから家族みたいなもんだろ?」
「それはそうだけどさ。」
勇吾の言う通り家は隣同士だし親同士仲も良い、俺達もその通り仲が良く四人兄弟と言ってもおかしくなかった。俺と勇吾が中学生になるまでは。
「まっ、誘ったのは主催者の優花だから仕方がないか。」
「そうだな、姉貴は俺が見張っておくから大丈夫だ。」
「頼むぞ、優花に指一本触れさせないでくれよ。」
「分かってるよ。」
俺の言葉に返事をすると勇吾は笑いを堪えるように肩を震わせていた。
「何笑ってんだ?」
「いや、大事にしてるんだなってさ。優花の事。」
「なっ?そう言う意味で言ったんじゃねーよ!」
「怒るなよ、友達だからだろ?」
「そ、そうだよ!それに何かあって気まずくなったらアレだろ?」
そう、優花は今の俺にとって友達と呼べる存在。
女の子になってから色々とお世話になってるし、その友達にもしもの事があって気まずくなるのは嫌だからな。
「任せろ、歩も優花も俺が姉貴から守ってやんよ。」
「俺の事はいいから!」
「優花に気をとられて歩が襲われたら元も子も無いからな。」
「結構です!」
何かあれば直ぐこの展開だ、男の俺が女に襲われる心配なんかされたくないっての!
こんなやり取りがこれから先、何度も繰り返されるのかと思うと頭が痛くなる。
「次そう言う事言ったら俺は優花の家に行かないからな、藤崎家兄弟で仲良く行ってくれ。」
「………って冗談だからな、歩こそ姉貴と行けなんて気持ち悪い事言うなよ!」
「仕返しだ。」
「う"っ。……そ、そう言えば今日で全部テスト返ってきたけど、点数どうだった?」
「話題変えんなよ!」
俺が行かないと言った後、勇吾が思考停止したロボットみたいに見えたが気のせいだろ。
しかし勇吾のあんな間抜け面を見たのはこれが初めてのような気がした。
「春山の教科で良い点取れたし、他の教科も赤点は無かったろ?」
「ま、まぁね。」
「やっぱり歩はやれば出来る子なんだな!」
確かに今回のテストで自分がやれば出来る子だと思ったが、それは勇吾達の協力があってこそだった。
俺は一から十まで教わったようなものだったのに、勇吾はその事を鼻に掛ける事無く俺を褒めてくれた。
「勇吾達の協力があったからだよ。」
「でも最後は自分次第だからな、良く頑張ったよ。」
「にひひひっ!」
一番最初に褒めてくれたのは親兄弟でもなく友達でもなく勇吾だった、俺はただ単純にそれが嬉しかった。
勇吾と話を終えて教室に戻ると優花の周りには女子数人が集まり話をしていた。
輪の中に天敵木下が居たから敢えて話には参加せず、静かにもう一度教室を出ようとしたが遅かった。
「あれ?歩どこ行くの?」
「あぁ、ちょっとね。」
「なに逃げようとしてんの、あんたもこっち来なさい!」
「うえっ、ちょ!」
木下に手を引かれて猛獣達の輪の中に突っ込まれ、俺は次から起こる惨劇を予想して一気に体温が下がるのを感じた。
しかし俺の予想に反して女子達はいつもと違った目の輝きをしていた。
「あー私何着ていこうかなぁ。」
「それより高田さん今年も来るの?」
「来る予定だよ~。」
「ヤバい楽しみ過ぎる!」
いつもの揉みくちゃにされると思っていたら、なにやら優花主催のクリスマスパーティーの話で盛り上がっていた。
話を聞いてるとうちのクラス以外にも声をかけているみたいで、知らない人の名前がちょいちょい出ていた。
「今年こそはガッチリ決めてやるー!」
「ご馳走楽しみぃぃ!」
「優花様様だよねー!」
女子の口からはやれ異性だのご馳走だのと内容は様々で、実際参加した事の無い俺にとっても話を聞くだけで期待出来るものだった。
ご馳走か、確か優花の家ってお金持ちなんだよな、どんなご馳走が出てくるのか想像しただけで涎が…、それにケーキはなるべくイチゴの多い所を選ばないとな!
クリスマスで盛り上がる女子達、一部不適切な事を言う輩も居たがこれぞ女子トークというもの。
もしかしたら他の女子と一緒に俺の目も輝いていたかもしれない、しかしこれのお陰で遥か彼方に感じていた冬休みがより近く、現実味を帯びてきた。
立ち塞がる障害を退け、なんの制約も無く咎められる事無く俺はあの方に会う事が出来る!
『待っててね冬休みさーーん!!』




