第9話 魔法偽装の痕跡
【罠らしきものは何もなかったね】
そうね、警戒して損したわ。
でもメミニ。あなた結局一度も罠感知に協力しなかったわよね。緊張感もなく、ずっとしゃべってばかりで。わたしばかり神経をすり減らしていて、不公平だと思わない?
【外側からの構造確認はしておいたよ。本当に入り口らしきものは一切ないね】
「ちょっと、無視しないで!……また勝手に調べて。わたしにも調査させてちょうだい」
せっかくここまで来たのに、見ているだけなんてつまらないわ。
まずは塔自体を調べてみましょう。
「本当にツルツルね……。とても良い手触りなのだけれど、材質は何かしら。石のようだけれど、一切魔力反応がないわ」
【こんなに巨大な人工物なのに、石につなぎ目がまったく見当たらない。さすがにこれはありえないことだよ。魔法で偽装されていると見るのが自然だろうね】
それはそうね。
近づいてみると、本当に大きい建造物だわ。端から端まで、直径で1km以上はあるかしら? それなのに出入口どころか、窓や空気穴も見当たらない。さすがにこれがありえないことだというのには、わたしも同意よ。
「どこかに必ず偽装の痕跡があるはずよ。時間を掛けて調べる必要が――」
【ねぇちょっと、リアンナ! ここに不思議なくぼみがあるよ! かなり怪しくない⁉】
だからなんで先に見つけちゃうのよ……。
わたしにも探させてって言っているのに……。
「……どれよ」
せっかく見つけてくれたものを無視するわけにもいかないし、一応見るわよ。
でもね、使い魔程度のあなたが、そんな簡単に魔法の痕跡なんて見つけられるわけないのよ。これだけ大きな建造物となると、何重にも巧妙な偽装が施されているはずだから、少しずつ範囲を決めて魔力をぶつけて共鳴反応を見ていくしか方法が――これ、魔法偽装の痕跡に間違いないわね。
【どう? すごく怪しいよね?】
こんなわずかな痕跡が、あんな一瞬で見つかってたまるものですか。
あなた、実はわかっていて言っているでしょう?……わたしのことをからかって遊んでいるのかしら?
【おいらすごい? 優秀な使い魔?】
「……これは間違いなく魔法による偽装ね。でもあえて見つかるようにしているような……。罠かもしれないわね」
あら? よく見れば偽装跡のすぐ上に、とても薄く古代文字が書かれているわ。
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我らの役目は終わりを告げる。
この封印を解くことができた者にすべてを託す。
気持ちは言葉に、想いは態度に。
今度は決して後悔しないように。
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「ねぇ、メミニ……」
この言葉って……。
【そうだね。おいらが1,000年前にリアンナから預かった言葉と同じだね】
使い魔契約をした時に、図書館で伝えてくれたメッセージ。
「気持ちは言葉に、想いは態度に。今度は決して後悔しないように……ね」
そう……1,000年前のリアンナが、1,000年後のリアンナに向けて遺したメッセージがここにあったの……。
じゃあこの塔が、わたしの探し求めていた手掛かり、なのね……。
「少し離れていなさい。解錠の魔法を使ってみるわ」
塔の表面にある怪しげなくぼみ。魔法偽装の施された跡に、杖の先端で触れてみる。
今のところ怪しげな反応はなし。
最初はお試しで、本当にごく微量の魔力を使ってみようかしら。
「解錠」
バチンという激しい音。
塔の表面に接触させていた杖とともに、わたしの体は弾き飛ばされてしまった。
まさかここまで強い結界が張られているなんてね。弾かれた反動で地面を転がってしまったわ……。無様なわたし。
【リアンナ! 平気⁉】
「大丈夫よ。ちょっと甘く見過ぎていて、力負けしただけよ」
ゆっくりと立ち上がり、ローブに着いた土を払い落とす。
別に深刻なダメージを受けたわけじゃないし、そんなに心配そうにしないで。
微量の魔力では、この塔の偽装は剥げそうにないわね。
でもかなり強力な偽装が施されていることはわかったわ。
「今度はそれなりの量の魔力を流してみるわね。もし次もわたしが弾き飛ばされるようなことがあったら、後ろで受け止めてくれるかしら?」
これだけの量の魔力が跳ね返ってきたら、さすがに無傷では済まなそうだし。
【もちろんだよ。後ろの守りは任せておいて】
メミニがわたしの背後に回り、握りこぶしを見せてくる。
「もう少し離れていて」
メミニが十分に離れたことを確認した後、深呼吸をしてから、再び杖の先端を魔法偽装のくぼみにコツンと当てた。
忘れじの塔全体を覆う魔法偽装に対抗するイメージで魔力を練り込む。
しっかりと練り込んで、偽装との力比べに当たり負けしないように――。
もし魔力を使い切っても、メミニが助けてくれるから大丈夫。
全力で、この偽装を剥いでみせるわ。
リアンナ、集中よ。
「ふー……。解錠!」
練り込んだ魔力を、杖を通じて塔の魔法偽装に対して一気に流し込む。
バチ……バチバチバチ。
わたしの魔力と魔法偽装がぶつかり合う音。
決して意識を持っていかれないように。
絶対に当たり負けしないという気持ちを杖に込めて。
バチ……バチ……。
パンッ。
まるで金属がはじけるような炸裂音。その直後に地鳴りが起こり始めた。
【リアンナ! 大丈夫⁉】
遠くのほうから、メミニの叫び声が聞こえてくる。
「もう大丈夫! こっちにいらっしゃい! わたしの勝ちね。偽装が剥げるわ」
地鳴りが治まると、今度は塔自体が音を立てて――。
ゴゴゴゴゴゴ……。
大きな扉が姿を現した。




