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図書館に1,000年ほど引き篭もっていたエルフですが、外に出たら知らない文明が栄えていました。  作者: 奇蹟あい
第三章 忘れじの塔

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第8話 リアンナが本当に求めていること

「ここが忘れじの塔(オブリビオンタワー)なのね……」


 たしかにこれは……期待できそうね。


【遠くからはまったく見えないのに、ある一定の距離まで近づいてみたら、突然、塔が可視状態になったね。結界が張られているらしい。これは明らかに人工物だよ】


「ええ、そうね……」


 自然物が塔のように見えていたという仮説は崩れたわ。

 それにしても、とても大きな塔……。


「雲に隠れていて、塔の上まで見えないわ」


【大きいなあ。何階まであるんだろう。外からだと中の構造は一切わからないや。もっと近づいてみようよ】


「そうね。念入りに調べる必要がありそうだわ」


 十分に警戒しながら進みましょう。

 罠が仕掛けられている可能性もあるわ。


 少しずつ罠感知の魔法で確かめながら……そろりそろりと……。


【そうだ、リアンナ。おいら思い出したんだけど】


 前を行くメミニが振り返る。


「なによ?」


 口を動かす暇があったら、あなたも罠感知を手伝ってほしいのだけれど?


【おいらたちが図書館から出て、最初に降り立った農村のことを覚えている?】


 のーそん?

 それは何かしら?


【作物を植えて生活している集落のことをそういうふうに言うんだよ】


「作物? ああ、わたしが|大瀑布《aqua cadens》を使った場所ね?」


 この間のことだし、さすがに覚えているわよ。そろそろ作物も育ってきた頃かしらね?


【リアンナ……5年前は『この間』ではないよ】


 メミニがこれ見よがしにため息を吐いてくる。


 もう5年も経ったの? 外の世界は図書館の中よりも時間の進みが速いのかしらね。それならそろそろ|大瀑布《aqua cadens》で水を撒いてあげないと、作物が育たなくなってしまうかもしれないわ。あの子……確か名前は……ユウト! そうユウトがお腹を空かせていたら困るわ。


【心配をするなら、もう少しだけ早く思い出してあげてほしかったな】


「何よ。いちいち細かいわね。ユウトもわたしに泣きついてこないのだし、元気だってことでしょう。気にする必要はないわよ」


【おいらたちずっと旅しているんだから、泣きつこうにもユウトに居場所がわかるわけないよ……】


「細かいわね……。本当に困っているならどんな手段を取ってでもわたしたちのことを探して尋ねてくる、そういうものよ」


【そうかなあ】


 そうよ。

 わたし、姉さんを探すのだけはうまかったのよ。姉さんはすぐに仕事をサボってどこかに遊びに行ってしまうから……。


【それでね。おいらこの間、ふとあの農村に顔を出してみたんだよ】


「あら、そうなの。ユウトは元気にしていたかしら?」


 わたしもユウトに会いたいわ。


【それがね……ユウトはいなかったよ……】


「そう……それは……残念だわ」


 あの時の一時しのぎでは何ともならなかったのね。


【腕に『刻印』がある子どもは、遅かれ早かれ……だったのかな】


 どうすれば良かったのかしら。

 連れてくれば良かったの? それともあの場に留まって、ずっと水魔法を与え続ければ良かったの?


 わからない。

 しばらく旅をして、魔法が使えない新人類の観察をしてみたけれど、彼らが何を考えているのか全然わからないわ。

 作物を育てたり、粗悪な剣や槍で無理やり生き物を狩ったり、その日を暮らしていくことしか見えていないような生活を送っているもの。少し雨が降らなければ飢え、少し陽が差さなければ飢え、『神様』などという、存在さえ知覚できない謎の人物に祈りを捧げて、毎日震えながら暮らしている。


 これが……わたしたちの文明が空間ごと消滅した後に生まれた新しい人類の姿なの?

 わたしたちが消え、彼らが生まれた意味は何なのかしら……。


【リアンナ、その答えを出すには、おいらたちは新しい人類のことを知らなすぎるよ】


 そんなことわかっているわよ。


【それにさ、まだ空間が消滅しただけで、おいらたち人類がすべて消滅したと決まったわけじゃないでしょ?】


「それは……そう、よね……」


【そうじゃないことを証明するために、おいらたちは旅をしている。でしょ?】


 メミニに言われると……おもしろくないわね。むしろ腹が立ってきたわ!


【それは理不尽だよ~。おいらだってリアンナのためになると思って、いろいろ情報を持ってきているのに】


「なんでそこまでするのよ? わたし、そんな命令していないわよ?」


 使い魔は主人の命令に従うものでしょう?


【おいらとリアンナは特別な主従関係を結んでいるからね。おいらはリアンナの本当に望んでいることを汲み取って実現できる特別な使い魔なのさ】


 またそうやって得意げに……。

 わたしの本当に望んでいることねぇ。そんなのわたし自身にもわからないわよ。


【リアンナは自分の仲間が生きていると信じている】


 そうね。

 姉さんたちが簡単に死ぬわけないと思っているわ。


【なぜ空間が消滅して、人類が滅びたのか知りたいと思っている】


 そうね。

 わたしが図書館で本を読んでいる間に何があったのか知りたいわ。


【1,000年前、リアンナ自身が残したメッセージの本当の意味を知りたいと思っている】


 本当の意味?


『リアンナ。あなたの求める答えは、外の世界にある。このメッセージを受け取ったなら、迷わず歩き出しなさい。気持ちは言葉に、想いは態度に。今度は決して後悔しないようにね』


 本当も何も、『わたしが求めている答え』どころか、そもそも『わたしが何かを求めているのか。求めていないのか』さえもわかっていないのよ。何かが外の世界――ここにあることしかわからない。


【リアンナはすべてを知った後に、自分自身がどんな行動を取れば良いのか知りたいと思っている】


「待ちなさい。前提の部分がぼんやりしているのに先走らないで。姉さんたちがどこにいるのか、生きているのか、それとも本当に消滅してしまったのかは知りたいわ。でもその先は何もわからない」


 もし本当に姉さんたちが消滅してしまったのなら、今さらその真相を知ったとして、何か意味があるのかしら? ましてや、わたしに何かできることなんて……。


【大丈夫。ずっとおいらが一緒だから。リアンナが望むように、どんな願いでも叶えてあげる】


 また調子の良いことを言って……。


「だったら今は、目の前にある忘れじの塔(オブリビオンタワー)の調査に協力してちょうだい!」


 その前に罠に嵌まって消滅、なんてことがないようにしてほしいわね。

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