第7話 5年後~忘れじの塔とは?
「ねぇ、メミニ」
【ごめんね、リアンナ。お腹すいたよね。もうちょっとでご飯だから辛抱してね】
メミニが焚き火の上に鍋を置いて何かを煮込んでいる。
おいしそうな匂いがしてくるんだけど――。
「別にわたし、お腹が減っているわけでは……」
さっきからグゥグゥ鳴っているのは、ただの生理現象だから……実際にお腹が減っているわけじゃないのよ! わたしは大気中の魔力をほんの少しだけ吸収すれば栄養は足りるし大丈夫だから!
グゥ……グゥゥゥゥゥゥゥ。
【もうちょっとだけ待って。今は良い季節だね。おいしい木の実がいっぱい採れるし】
「だからそうじゃなくて……」
【はい、できた。おまたせしちゃったね。キノコと木の実のスープだよ。リアンナのは超特盛にしておいたよ】
おいしそう……。
「ありがと」
アチチッ。
おいしい……。
【おいしくできた! これならおいら、料理屋を営んでもやっていけそうかも。どうかな?】
メミニがスプーン片手に得意げな笑みを浮かべている。
「どうって言われても……」
全身黒いマント姿のわたしの使い魔。その名はメミニ。
出会った時からまるで少年のような見た目だけど、実は1,000歳を超える魔族だ。
まあ、わたしも……実年齢がわからないくらいには長寿のエルフ族なのよね。
それが料理屋って……。
【おいらたち、この5年間で世界各国をけっこう見て回ったじゃない? そろそろさ、どこか気に入った都市に腰を落ち着けても良いかなって思ったりしたんだ】
「何を言っているの? まだ何も成果がないじゃない。今回の情報も空振りだったし」
世界を見て回ったって本気? まだ大陸1つ出ていないのに。
【リアンナは、まだがんばれそう?】
器とスプーンを置いて、こちらを見つめてくる。
いつになく真剣な表情ね。
珍しい。深刻な話でもあるのかしら……。
【おいらね、リアンナが疲れてきているのもわかっているんだ。どれだけ歩いても、魔力の濃い場所なんてないし、ずっと飢餓状態のまま暮らしているようなものだからね】
「これくらいの濃度なら図書館で慣れているし、大したことないわよ」
なるべくエネルギーを使わないようにして生きれば良いだけだから。
極力体内を巡る魔力を外に逃がさず、余計な魔法を使わず。枯渇させない程度に大気中の魔力を吸収する。わたし、だてに1,000年間も魔力の薄い図書館に引き篭もっていたわけではないのよ?
【リアンナの心が折れていないなら、おいらはどこまでだって付き合うよ。なんせおいらは、リアンナの使い魔だからね】
メミニは自分の器のスープを一気に飲み干すと、鍋からおかわりを注ぎ始めた
「空間魔法を使って好き勝手どこかに行ってしまうくせに、何が使い魔よ。これまでの旅のほとんどの期間、一緒にいなかったじゃない」
こんなの1人旅よ……。
でも別に淋しくはないわ。1人には慣れているもの。隠遁を使えば、誰にも見られることなく歩き回ることができるし、何も心配ないわ。
【まあまあ、おいらだって遊びまわっているばかりじゃないんだよ。これでもいろいろ情報集めをしてるんだからね】
「いつも偽の情報ばかり持ち帰ってくるのはなぜかしら?」
それって遊んでいるということにならない?
【リアンナは厳しいなあ。有力な情報だって、実際に確かめてみなければ真偽はわからないでしょ。おいら1人だけで真偽を確かめて回ったら、リアンナすごく怒るじゃない】
「それはそうよ。結果だけ知らされてもおもしろくないもの。自分の目で見て回れば、偽の情報の中からでも何かの手掛かりが見つけられるかもしれないし」
噂になるような場所なら、直接そのものでなかったとしても、もしかしたら何かの手掛かりが残されている可能性だってあるわ。エルフ族の手掛かりなら、エルフ族のわたしにしかわからないものもあるでしょうし。
【リアンナがそう言うから、確度が低そうな情報だったとしても、極力全部一緒に回るようにしているんだし、おいらの苦労もわかってほしいかな】
メミニ……それ、スープ3杯目よ。わたしのおかわりの分は、まだ残っているのかしら?
【でもね、これから行くところはとっておきだよ。今度こそ何かがある。おいらはそう睨んでいるね】
4杯目……。
【どこにも入り口が見当たらない巨大な塔。忘れじの塔と呼ばれているらしいんだけど、いつからそこにあるのか誰も知らないんだってさ。ねぇ、どう思う?】
5杯目……。もう終わりにしなさい!
【リアンナ、おいらの話、聞いている? ほら、スープのおかわりならあげるから、ちゃんと聞いてよね】
ぐっ……。もらうわ。
おいしい……。
【忘れじの塔だってさ。気にならない?】
「入り口が見当たらないのにどうして塔だとわかるのかしら? 建造物に見えるだけで、実は自然物の可能性だってあるでしょう?」
【そうだね。でもそれも行ってみればわかるんじゃないかな。もし本当に人工の建造物で、しかも入り口が魔法で封印されているような類のものなら……】
「前時代の遺物の可能性があるわね」
それに、封印されているということは、外からの侵入を許さないだけではなくて、中からの脱出も不可能だということなのよね。つまり、中にはまだ誰かがいる可能性もある。封印された塔の中で1,000年以上も生き延びられるとしたら、エルフ族や妖精族のような幻想種だけ。
「また空振りではないことを祈っているわ」
【エルフの風が吹きますようにってね】
「魔族のあなたに言われると、なぜだか腹が立つわね」
【それは理不尽じゃないかな……?】
ちょっと! 6杯目は許さないわよ!
「そのおかわりはわたしのよ!」
もう鍋ごとこっちに寄越しなさい!




