第39話 エルフ族の番《つがい》
「あなたが、あの……ユウト……なのよね?」
目の前に立つ大男。
わたしよりもかなり背が高いわ。もしかしたらメミニの2倍くらいはあるかしら?
「はい、あの時助けていただいたユウトです! ずっとお会いしたかったです! リアンナ様もメミニ様もお変わりなく!」
目の前の大男が白い歯を覗かせて笑う。
その笑顔が、わたしの記憶の中にいるユウトと……どうしても紐づかないわね……。
【ユウトはその……だいぶ立派になったね?】
メミニが大男を見上げながら、愛想笑いを浮かべている。
とても大きくなってしまったユウトと、ドレス姿のメミニ。
変な取り合わせね。
「ずっとお会いしたかった! あの時助けていただいたお礼も満足にできていなくて……いつか必ずお礼をしようと思って今まで生きてきました!」
ユウトはそう言って跪き、わたしの手を握ってきた。
「大げさね。わたしはたまたま、あの場に居合わせただけ。子どもの命がよくわからない存在に捧げられるのを見て見ぬ振りができなかっただけよ。勝手にやっただけなのだから、お礼をしてもらうようなことは何もないのよ」
「それでも! 俺はリアンナ様たちに救われたんです。あの時救っていただいたおかげで、今こうして生きている。何度言葉を重ねても言い表せないほどの感謝しかないんです!」
握られた手を通じて、わずかながらにユウトの魔力を感じる。
人族なのに魔力の流れが……?
「あれ~? リアンナさん、その人は誰ですか?」
ルナリアが戻ってきた。
小皿の上に、堆く積み重ねられた肉たち。まるで忘れじの塔のようね……。ああ、また細身の使い魔が悲しそうな顔でこちらを……。
【おかえり、ルナリア。この人はユウトだよ。少し前にリアンナとおいらが助けた子どもさ】
「こんばんは、俺はユウトと言います!」
ユウトがわたしの手を放して、立ち上がる。
「子ども……? 人族の子どもはこんなに大きいんですね」
ルナリアが、立ち上がったユウトのことを見上げて目を丸くしていた。
2人が並んで立つと、小皿の上にそびえ立つ忘れじの塔のてっぺんと、ユウトの身長が同じくらいの高さになっていた。
「ルナリア様、でよろしいですか。これでも一応俺は25なので、もう大人になりました」
ユウトは照れくさそうに鼻をくしゃりとさせて笑った。
「25歳! とても若いですね~。ルナの名前はルナリアです! ハーフエルフです! 年齢は……たぶん1,000歳くらいです。正確にはわからないです!」
「1,000歳⁉ それは……俺なんて若造ですね……。こんなにお若くてお美しいのに1,000歳……」
今度はユウトが目を丸くする番だった。
「美しいだなんて! 生まれて初めて言われました! えへへへへへへ♡」
ルナリアは表情が崩れるほどにだらしなく笑っていた。
「ユウト、ダメよ。ルナリアはわたしの庇護下にあるの。番なら別のところで探してちょうだい」
「番⁉ い、いえいえいえ! そんなつもりは!」
ルナリアはまだまだ子どもなのよ。
そういった相手を探すのは……あと500年は先よね。
【リアンナ……過保護すぎるよ……。ルナリアは年齢的にはもう十分に大人だよ。おいらたちとは違って、命に限りがあるんだから、「早過ぎる早過ぎる」と言っていたら、あっという間に行き遅れてしまうよ……】
「美しい……えへへへへへへへへへへ♡」
ルナリアの顔……緩み切ったまま戻らないわね。
もしかして、ユウトのことが気に入ったのかしら……?
そういえば、ルナリアの父親は剣士だったのよね。ユウトのように筋骨隆々だったのかしら。もしかしたら、騎士のユウトに父親の姿を重ねているのかもしれないわ……。
【それならひょっとするとひょっとするかも?】
「ダメよ。やっぱりルナリアには早過ぎるわ」
【過保護すぎる親は嫌われるよ】
それも嫌よ。
でも知り合ったばかりの異性を番に選ぶのは良くないわ。じっくり相手のことを観察して、言葉を重ねて深く知り合って、この人となら子を生しても良い、そう思えて初めて一緒になるべきなのよ。
【ふ~ん。ずいぶん実感がこもっているね。リアンナにもそういう人がいたのかな?】
「あれは気の迷いでほとんど無理やりで……強引な男なんて大嫌いだわ!」
好きだったことなんて一度もないのよ。
アイツが毎日毎日アプローチしてきて……。同じパーティーだから毎日顔を合わせないといけないし、夜だって……。身の危険を感じて眠れないから、拘束の魔法を掛けていたわね。
「リアンナさんの番の話ですか⁉ ルナはその話、もっと詳しく聴きたいです!」
わたしの番の話?
「……何を言っているの? わたしにそんな相手はいないわ」
「えっと、今の強引な男の話は……?」
「何のことかしら?」
急に男の話をするなんて、おかしなルナリアね。
「リアンナ様には特定のお相手がいらっしゃらないのですね。そうなんですね……」
ユウトが神妙な顔つきで頷いていた。
「わたしたちエルフ族は幻想種だもの。むしろ番を作るほうが珍しいのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ。あっちでもこっちでも番になっていたら、年若いエルフが増え過ぎてしまうじゃない? わたしたちに寿命による死の概念はないの。他種族との戦いによって命を奪われるか、いつか生に飽きて存在が薄れて消えていくくらいしか、同胞の数が減ることはないのよ」
あなたたちとは異なる存在なのよ。
「幻想種とは不思議なものですね~」
ルナリアが呟く。
わたしの話に感心しながらも、肉を食べる手は止まっていなかった。すでに小皿の上の忘れじの塔は半分以下の高さになっていた。
「メミニ様、お待たせしました! 秘蔵のお宝です! とっておきの蒸留酒をお持ちいたしました!」
ナパヤが茶色い酒瓶を片手に戻ってきた。
【げげ! だからおいらはもう飲まないってば~】
「そうね、明日の出立に響いたら困るから、お酒は程々にしてちょうだい」
【出立? ナパヤ王子の騎士叙任式の後の予定が決まったの?】
メミニが目をシパシパさせる。
「メミニが酔っ払って運ばれていった後に、ナパヤから神柱の話を聴いたのよ」
夢うつしの塔、そして影映えの塔。
わたしたちが次に向かうべき場所はそのどちらかね。




