第35話 個人的な晩餐会
改めてドレスを整え直したわたしたちは、ナパヤにエスコートされて晩餐会の会場へ。
すでに多くの者が集まって、懇談が始まっていた。
「すごいです……。人も料理もいっぱいです……」
ルナリアの目は、テーブルに並べられている料理の数々に釘づけね。でもまだ晩餐会は始まっていないのかしらね。全員立っていて、会場内にイスが見当たらないわ。食事に手をつける様子もないし、どういうことなのかしら。
「ナパヤ、今日は個人的な晩餐会ではなかったのかしら?」
晩餐会の会場は、これまで通されたどの部屋と比べても格段に広いし、集まっている者たちの身なりも良い。もしかしたらこれは騎士叙任式の前日に行われる式典か何かなのかしら?
「いいえ、ごくごくプライベートな集まりです。私がこれまで親しくさせていただいてきた方々に、お礼を兼ねてお食事を楽しんでいただく場でございます」
【比較的若い――ナパヤ王子と同世代の人が多いね。あとのグループはうんと年配の人なのかな。年齢が二極化しているように見えるね】
メミニ、ドレスを着ているのだから、大股で歩くのはおやめなさい。バサバサ音が立っていてみっともないわよ。
「人族の見た目はわからないわ……。わたしね、人族の集まりに参加したのは初めてなの。ナパヤはわたしに何を求めているのかしら? ここにいる全員と顔合わせ? それともあの高いところに立って、何かを話せということかしら?」
ルナリアに食事をさせてくれるなら、多少のお願いなら聞いてあげるわ。多少よ?
「何も。この場にお越しいただけたこと、そのことだけで感無量です」
その笑顔に含みは感じられない。
ナパヤは昔からエルフ族にあこがれていたと言っていたし、そういうものなのかしらね。人族の考えることはわからないわ。
「では好きにさせてもらうわね。ところで、食事はいつ振る舞われるのかしら?」
ルナリアのお腹が鳴りっぱなしなのよ。このまま放っておいたら、羞恥で気絶してしまうのではないかしら。
「お好きな時にお好きな料理を召し上がっていただけるように、立食形式とさせていただいています」
ナパヤはそう説明しながら、後ろに控えていた屈強そうな使い魔を呼び寄せた。
「リアンナ様たちにお飲み物とお料理のご案内を。さあ、こちらのテーブルにどうぞ」
広間の中央にある丸テーブルに案内された。
周りの視線が集まってくるのを感じる。
「私は少しだけほかの者のところを回ってきます。後ほどお話をお聞かせ願えれば! 何卒!」
そんなに念を押さなくても、急にいなくなったりはしないわよ。
晩餐会に参加すると言った言葉を反故にすることはないわ。
「レディ。お飲み物をお持ちいたしました」
先ほどの屈強そうな使い魔が、グラスに注がれた数種類の飲み物を見せてくる。
「わたしは水を。ルナリアは……何が良いかしらね?」
好きなものを飲んで良いのよ。
「え……水……でしょうか?」
そう答えるルナリアだったけれど、ありえないくらいに目が泳いでいる。
「ルナリア、飲み物の名前がわからなくても大丈夫よ。ねぇ、この子におすすめの飲み物を出してちょうだい。果実を絞ったような、少し甘めのものがあると良いわね」
「かしこまりました。こちらなどいかがでしょうか」
屈強そうな使い魔は1つのグラスを取り出して、ルナリアの前に置いた。
「ありがとうございます! これは……?」
ルナリアはグラスを目の高さまで持ち上げ、注がれている橙色の液体を観察していた。
「たくさん飲んで良いのよ。きっとおいしいわ」
「お水以外を口にするのは初めてです……。あ、おいしい……。香りも……」
ルナリアは目をつぶり、鼻腔いっぱいに深呼吸して見せた。
「気に入ったみたいで良かったわ。メミニは――」
【おいらは、果実酒を。へへへ】
なんで笑ったのかしら。
あ、もう飲んで……。
メミニはグラスを受け取るな否や、果実酒を一気に飲み干してしまった。
【ん~、さすがお城のパーティーだね。果実酒の質が高い! もう1杯!】
再びグラスを受け取ると、今度は一気に飲み干すことなく、1口だけ飲んでからテーブルに置いた。まあ良いわ。あなたは好きになさい。それよりもルナリアに食事を――。
「こちら、お料理をお持ちいたしました」
細身の男の使い魔が、両手に皿をそれぞれ4皿ずつ持って近づいてくる。
「お気に召したものがございましたら、遠慮なくおっしゃってください。もちろんご自身でお選びいただいてもけっこうです」
わたしたちそれぞれに小皿とフォークを手渡してきた。
これで食べろということね。
「ルナリア、好きなだけ食べなさい。あっちにもまだまだありますからね。今日はぽっこりお腹解禁よ」
わたしの言葉が終わる前には、ルナリアの手元にある小皿が料理でてんこ盛りになっていた。
「おいひいれす。こんなにおいしいものを食べたのは初めてです……」
ルナリアの頬っぺたがパンパンに膨らんで……かわいいわね。でもルナリアが満腹で動けなくなってしまったら、メミニ、あなたが運んでちょうだいね。
【じゃあ、おいらが動けなくなったら、リアンナが運んでくれる~? う~~~】
使い魔が何を言って……あなた、もしかして果実酒で酔っているの?
【おいら、お酒は好きなんだけど、すぐに気持ちよくなっちゃって……寝ちゃ……】
あら、もう寝ているわ……。
それにしてもこの屈強な使い魔、人族のわりにとても優秀ね。メミニが意識を失って倒れる寸前に抱きとめるなんて。
「別室でお休みいただけるように手配いたします。よろしいでしょうか」
「ええ、適当にお願いするわ」
主人を守る使命を帯びた使い魔が、主人を残して酔いつぶれて運ばれていくなんて……。わたしの使い魔の役割は、あの屈強な男に変えたほうが良いのかもしれないわね。
「メミニさんの薄いスープの100倍おいしいれす」
ああ、本当にこの場にメミニがいなくて良かったわ。
へそを曲げて、明日からスープを作らなくなったら困るもの。




