第30話 エルフは肉を食べられるか
「街にはおいしい食べ物がいっぱいね」
白くて薄い何かを巻いた食べ物もおいしかったし、串に何かを刺して焼いた食べ物もおいしかったし。メミニが作る料理よりも味が濃いめで癖になりそうね。
【リアンナは『何か』ばっかりだね……。おいしかったならせめて料理の名前くらい覚えようよ】
いちいち細かいわね。料理なんて見たらわかるんだから名前くらいどうでも良いじゃない。そんなに不安ならメミニが覚えておけば良いでしょう?
「どの料理もおいしくて、初めて食べたものばかりで……もうお腹いっぱいです! あの……ちょっとだけ休憩して座っても良いですか……」
そう言ってルナリアは、わたしの返事を待たずに、店先にある花壇のレンガの上に座り込んでしまった。
少し……食べさせ過ぎたかしらね。
ルナリアのお腹がポッコリしているわね。でも、とてもしあわせそうだから、きっと大丈夫よね。
【2人ともずいぶん食べたね……。まあでも、おいらがキノコと木の実のスープを売ってお金を貯めておいたおかげで食べられたんだからね。少しは感謝してほしいかな】
「あら、そうだったの? わたしたちには『スープは残り少ないからあまり食べさせられない』と言っていたのに、人族に売ってお金を得ていたの? わたしの使い魔はウソを吐いて主人を飢えさせて、そういうことをしてしまうのね……」
今、一気にメミニの言葉が信用できなくなったわね。
これまでわずかながら築き上げてきたつもりだった信頼関係もすべて崩れ去ったわ。
【おかしいな……。ここは、『メミニがお金を貯めておいてくれたおかげで、ルナリアと一緒に街を楽しめているわ。本当にありがとう』と、感動のあまり抱き着いてくる場面のはずなんだけど……】
メミニが眉間にしわを寄せながら首をひねっている。
「なんでわたしがメミニに抱き着いてお礼を言わなければいけないのよ。日々のスープを減らされた分を今ここで食べているに過ぎないじゃないの。結局食べ物の総量は変わっていないということよ。騙されないわよ?」
【それはそうかもしれないけれど……たまには違う料理を食べられてうれしかったでしょう?】
「そうね。肉、というものを初めて食べた気がするわ。味が濃くておいしかったから、また食べたいわ」
「はい! お肉もお野菜もとってもおいしかったです! メミニさん、ありがとうございます!」
ああっ、ルナリア! そこで素直にお礼を言ってしまうと……メミニが調子に乗ってしまうから……。
【ルナリアは素直でかわいいね。どういたしまして。また後でお腹がすいた頃に何か買ってあげるね。ルナリアはお礼を言ってくれたけれど……リアンナはおいらに対して何か言うことはないのかな?】
ほら、さっそく調子に乗ってきたわ……。これがあるから嫌なのよね……。
【誰のおかげでお肉が食べられたのかな~? んんん~?】
と、メミニが調子乗りモードから急に真顔になる。
【あの……リアンナ? 急に今すごく気になってしまったんだけど……エルフ族は肉を食べても大丈夫だったの?】
不安そうな目でわたしのことを見つめてくる。
「大丈夫とはどういうことかしら?」
肉を食べても……?
いったい何を気にしているのか、はっきり教えてちょうだい?
【エルフ族は生き物の命を奪って食べるのはダメなのかと思っていたから……】
「どこの知識なの、それ……。その理論なら、野菜も植物の命を奪っているのだから、食べてはいけないことにならないかしら? わたしたちはね、魔力さえあれば存在するためのエネルギーは得られるのだから、そもそも食事自体が娯楽の1つなのよ。娯楽なのだから、何を食べても良いじゃない?」
体に対して害があるわけでもないのなら、何でもおいしくいただくわ。
【そうなんだ? エルフ族に食べられないものはなかったんだね。おいら、勝手に肉はダメだと思い込んでいて、肉は1人の時にしか手に入れてなかったんだよ。これからはたくさん手に入れてくるね】
「まさかメミニは1人だけで肉を食べていたの……? こんなにおいしいものを独り占め……?」
これは主人に対する重大な裏切り行為じゃないかしら?
……罰が必要なのでは?
【えっ、だからおいらはリアンナが肉を食べられると知らなくて……】
「メミニさん! 独り占めは良くないと思います!『食べ物はみんなで分かち合う。多くても少なくても仲良く分かち合うのが真のパーディーだ』って、お父さんが言っていました!」
【いや、おいらは独り占めしようとしていたわけではなくて、どちらかというと残飯処理的な意味で仕方なく肉を食べていただけで……】
しどろもどろになるメミニ。
ルナリアに押し負けているメミニを見るのも新鮮でおもしろいわね。
食べ物の恨みは怖いということかしら。良いわよ。ルナリアの気の済むままにね。わたしの分まで存分にやっちゃいなさい。
「まだお肉を隠し持っているなら出してください! みんなで分けましょう!」
【今は何も持っていないよ……】
「そうですか? でも貯め込んだお金があるんですよね?」
【それはこの後の宿代や明日以降の食事にも必要だし……】
「独り占めはダメですよ⁉」
【も、もちろんだよ……。おいらはリアンナの使い魔だから、裏切ったり独り占めをしたりはしないよ……】
「ルナも仲間ですよね⁉」
【う、うん……。ちゃんとみんなで分けよう……】
本当にメミニが押されっぱなしだわ。
わたしが言ってものらりくらりと躱すくせに……子どもには弱いのかしらね。意外な弱点ね。
これからはルナリアをけしかけて、メミニを困らせましょう。
【リアンナの心の声は、全部おいらに聞こえているからね……】
知っているわよ。もちろん冗談よ。




